
『創造的な習慣』坂上卓史 前篇
Product Arts の坂上卓史(さかうえ・たかし)さんは、名古屋を拠点に活動するアナログゲームデザイナーです。アブストラクトな思考性の高いゲームから、大きなボードを使ったゲーム、さらにはキャラクターを重視したカードゲームまでを実に幅広く手がけておられます。
主な作品リスト
『COMPANY:BOCG』『AKINDO』 『BIRTH』『彼女のカレラRS TTG』 『神道』『Twelve Heroes(共作)』『ART OF WAR(共作)』『緑の砂漠(共作)』他
優れた作品を創作し続けているアナログゲームのデザイナーに対して、Saashi & Saashi が定型的な質問を用意し、それに回答してもらうという、このインタビュー企画『創造的な習慣〜アナログゲームデザイナーはいかにしてクリエイトするのか』。
クリエイトする上で欠かせないもののひとつに、困難に負けず必ず完成させるという一念が挙げられると思いますが、坂上さんの難局に打ち克つとする姿勢からは学ぶところが少なくありません。そしてそのアグレッシブなクリエイトへの情熱もさることながら、一方では冷静で緻密な分析に基づいた判断を両立させているという対比からは、さまざまな創造のヒントが見出せるように思います。ロングインタビューを敢行してまとめた全記事を三分割し、前篇をここにお届けします。(中篇、後篇はこちら)
創造のスタート
── 坂上さんにとってゲームデザインという作業はどのように始まるのですか。
坂上 昔は「こういうメカニクスがおもしろいんじゃないか」という部分的な機能を思いついて感情的に始まることが多かったんですが、いまは冷静にコンセプトを作るところから始まります。いざ開発の段階に進むと、良いアイデアが連鎖的に思いついてワクワクモードに入ってしまうことも多々ありますが(笑)
── 燃料に点火されてしまうような具合ですか。
坂上 1つのキーアイデアから一気に膨らむんですよ。バラバラだったアイデアストックが1つのひらめきによって瞬間的に繋がっていく感覚です。それを熱が冷めないうちに形にします。新しいゲームを複数人で作ったりする時には、ぼくはテストプレイのためのキットを結構すぐにカタチにするので、むしろそのあたりは自分の役柄として意識してやっているところがありますね。
── それではアイデアを思いついてから、テストキットを作り始めるまでがとても早いのですね。
坂上 とにかくすぐカタチにすることを重要視していますから、開発が始まったらすぐ作り始めますよ。この目の前にあるテストプレイキットは第2号で、最初に作ったものは居酒屋で一度雑談して、そのミーティングから帰ってきてすぐに作ったものですね。
── それは頭の中のイメージをできる限り早く物体にして見られる状態に仕上げるほうが、イメージがより強固になるからでしょうか。
坂上 実際にカタチにして、不完全であってもモノとして動かしてみないと「遊び」の感覚がわからないところがありますから。経験的に「おもしろそうだな」と感じていても、「実際に動かしてみるとつまらない」ということは何度も過去にあったので、まずは動かすようにしていますね。
── テストキットをお作りになる直前の段階では、いま作る作品がどのようなものになるか、ある程度おわかりなのでしょうか。
坂上 このところ、ぼくの中でゲームの作り方がかなり変わってきているんです。この1ヶ月、2ヶ月の間でもだいぶスタンスが変わったんですよ。今はメカニクス以外のところまで含めて、どんなキャラクターが出てくるとかというディテールまで全体像をイメージするようにしていますね。
── 過去と比べて作り方が変わったというのは、段階を踏んで変わってきたのでしょうか。それとも急激に変わるきっかけがなにかあったのでしょうか。
坂上 具体的な話になりますけど、『Twelve Heroes』〔I was game 上杉真人さんとの共作〕というゲームを作ったことですね。あれを作り終えたことで、ぼくの中での「天井に触れた」という感覚があったんですよ。自分の持っているものをすべて出し切ったというか。今後これを突破するには、今までのやり方ではダメだと思ったんです。あのゲームはメカニクス先行型で作ったもので、イラストについては世界的にも有名な方にお願いして、自分たちとしては相当に作り込んでいった作品でした。その上で「これをさらに突破するためにはどうすれば良いか」ということを考えなくてはいけなくなったんです。
── ダメだったから考えるのではなく、ご自分の中で最高点まで達した結果、考える必要が生まれてきたんですね。
坂上 おそらくそうだと思います。いろいろ考えたり調べたりした結果、さらに天井を突破する作品を生み出すためには「物語(文脈)」と「キャラクター」と「マーケティング」の3つが重要だと気付きました。それで、これらを意識して新しい作品を考えて直してみると「世界観」のような全体のイメージが、頭の中にバンと出てくるようになったんですね。今まではメカニクスをまず考えなきゃいけないから、テーマなんかは一旦脇に置いておくという感じで作っていたことが多かったんですけど‥‥。
── かつての作り方としては、まずはメカニクスを構築してから、テーマを載せるという感じだったのですね。
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