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広島協奏曲 VOL.2 尾道・流れ星 (7)


  再会

夏季休暇の前、雅恵と明子は居酒屋のテーブル席で飲んでいた。
「なんか、ええことな~あ?」
「な~ね~。」
「ええ仲になった人とは、どうなっとるん?」
「別れたっ!やっぱし、人の不幸は喜べんっ!、うち。」そう言えば、明子と飲むのは、久しぶり。2月に山陰旅行に行った時には、未練たらたらな話しをした。
「はぁ~、惜しかったねぇ~。」
「うん、へでもええ思いさせてもろうたけぇ~。」
「うわっ!イヤらしいっ!気持ちええ思いじゃとっ!」
みたいな事を話していた。
奥の座敷から「ちょっと、しょんべんっ。」の声と共に、男が二人のテーブル近くに来てサンダルを履いている。
男が顔を上げた時、雅恵と明子は「…あっ!。”ヒバゴン”っ!。」と声を揃えて発した。
「おおっ?、何でわしのリングネーム、知っとるん?」男はテーブルの横に立ち、言った。
「はぁ~…リングネームっ?。」二人は口を開けたまま顔を合わせた。
「……あっ、頓原の。あん時の姉ちゃん達かぁ~。」
「はいっ!。あん時はお世話になりました。」
「おお、無事に帰れたきゃ。えかった、えかった。…おお、すまん、ちょっとしょんべん、行ってくるけぇ。」
「ふふっ、言わんでええです。行ってくだしゃ~。」
「おお、待っちょってくれぇ~。すぐに戻るけぇ~。」
「ははっ、別に待っとりませんし、、、まぁ~ごゆっくりどうぞ!。あははははっ」
二人は顔を見合わせ、笑った。
座敷の方から「ねえちゃん達、こっちで飲まんかぁ~、奢っちゃるでぇ~。」ヒバゴンの連れらしき人が声を掛けてきた。
顔を見合わせ、「ハイ!。行きますっ!。」と返す。
「大将っ! ねえちゃん達のもんもこっちに移してぇ~。勘定もこっちにしてぇ~。」とお店に連れの人が言う。

”ヒバゴン”が戻って来た。
「おっ、わしゃ、村上武彦ゆうんじゃ。でっ、大阪でプロレスしょって、そん時のリングネームが”ヒバゴン村上“よ。」
「あ~、そいで、さっきタマゲとったんじゃね~。」
「おぉ、あんたらは?」
「うちは、毛利雅恵。」「うちは、行竹明子。」「わしは、遠藤明。村上とおんなじ所でトラック乗っとる。」
其々、自己紹介をした。
「あんたら、なんの知り合いなん。」遠藤が聞いてきた。
「2月に鳥取に納品行った時、頓原でぶつかりそうになってのぉ、ねえちゃんらの軽四が溝に嵌ったんよ。」村上が話し始めた。
「で、ヒバゴンさんが拾うてくれちゃったんよ。ヨイショッ!ゆうて。」と、雅恵。
「持ち上げたん?軽四を?」遠藤が驚く。「さすが、元レスラーじゃのぉ~。馬鹿力じゃ!。」
「プロレスゆうて、どんな事しょっちゃんたん?」明子が聞く。
「う~ん、まぁ、プロレス技掛け合うショーみたいなもんよのぉ~。」
「世界何とかベルトとかの試合するんじゃないん?」と雅恵。
「そりゃ~、物凄お~強え人がやるぶんっ。わしがやりょったなぁスーパーの駐車場とかショッピングモールの広いとこでするやつよ。
 自分らでリング作って、椅子も並べて、音楽かけて。」
「へぇ~。」
村上のプロレス時代の話に、一同大盛り上がりだった。
「ねぇ、ねぇ、LINE交換しとこうや!。」明子が言う。
「しとこう。しとこう。」「ええよ。」QRコードで登録。
すっかり盛り上がり閉店まで居座り、その後解散した。

翌月、雅恵は村上にLINEで、飲みに誘った。明子にも聞いたが断られた。遠藤もNG。
村上から返事あり。先日の居酒屋で会う事にする。
当日、村上は先に着て座敷に座っていた。
「すみません。待たせてしもうて。」雅恵は謝りながら席に着く。
「しゃ~なぁ~よ。今着たとこじゃ。」村上は酎ハイが一杯入ったグラスを持ち上げて言った。
「どぎゃ~なぁ、仕事は?。うまいしこいきょ~るか?」
「まぁ~まぁ~じゃね。へでも残業はあんませんけぇ、遅うならんし、ええわ。村上さんは?」
「”ゴン”でええヨ。ジムでもそう呼ばりょった。……忙しゅうなりそうじゃ、、、。人が入って来ん。仕事は来よるけど。」
「あ~、今どこも人手不足みたいじゃねぇ。お客さんのとこでも東南アジアから一杯来とるらしいよ。
 へでも、MC旋盤とかの機械はやらせられんけぇゆうて、社員の人がしょ~るんじゃが、それが定年後の再就職の人ばぁで、70から80の人が多いんじゃと。」
「ほうじゃろうのぉ~。トラックの運転手も70過ぎは多いのぉ。大手は若い人もおるが、コマいとこは年寄りがおおいのぉ~。」
世間話も一段落した頃、村上が雅恵に、
「あんたぁ、彼氏はおらんのか?」
「お、直球でくるねぇ。……おらんよ。好きな人はおるけど、、、。」
「片思いきゃ。そりゃしんどいのぉ。」
「……うん、しんどい、、、。」
「わりィこと聞いたかの?。……大学の時はもてとったん?」
「全然っ!。ダメじゃった。……でもねぇ~。それなりにはあったけどねぇ~。」
「また、要らん事聞いたか。……わしゃこれじゃけぇ、駄目なねぇ~のぉ~。」
「ハハハッ。大学の2年になる時、車買うてもろたんよ。親に。軽四を中古で。
 それで大学行きょったら、”帰り乗せてぇ~”とか、”休みに遊びに行こう”とか増えてねぇ~。
 休みの日とか女の子が二人おったら、ナンパしてくる男の人も結構おってねぇ。ゆうても目当てはうちじゃないけどねぇ。
 男の方も、二人で車一台じゃったら帰りは別々になったりするんよ。うちが男の子を乗せて、、、。」
「ほ~、ええのぉ~。青春じゃの~。」
「……へでも、長続きはせんよねぇ~。そりゃみんな、可愛い子がええもんねぇ~。連絡がこんよんなるし。」
「やっぱり、要らん事言わせてしもた。すまんのぉ~。まぁ~飲め。奢っちゃるけぇ。」
「ううん、ええんよっ。愚痴やら聞いてくれるだけですっきりするし、村上さんじゃない、ゴンちゃんええ人じゃけぇ~。」
村上は大阪の事や、プロレス時代の笑い話などを話す。雅恵は大笑いしながら飲む、幸せな時間だった。

【ゴンちゃんと一緒に居ると楽しいわぁ~、、、。ええ人とか好きな人とかおるんかねぇ~、、、居らんか。おったらうちと飲まんかね、、、そう言う事にしとこっ!】


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