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「発達障害のウソ」のウソ

本稿で取り上げるのは、今年7月に発売された、この本です。

【この本の構成】
第一章 発達障害とは何か?
第二章 「うつ病キャンペーン」で起こった「うつ病バブル」
第三章 作られた「発達障害バトル」
第四章 被害に遭う子どもたち
第五章 大人の発達障害流行の裏側
第六章 簡単に信用してはいけない精神医療業界
第七章 発達障害ブームにどう立ち向かうか

 率直な感想をまず述べると、あまりに思い込みがひどい。「どう取るかは読者次第」と最初に逃げを打っておくのは、卑怯なスタンスとすら言える。

理解困難な用語の分類

「"disorder"という概念は、不治の病や回復不能な障害という意味ではない」

まぁ、直訳すれば御説ごもっともなのだが、精神疾患を精神障害と翻訳してしまうと、DSM-Ⅳ(アメリカ精神医学会(APA)の『精神障害の診断・統計マニュアル)は、病気一般の治療には使えないことになってしまう。だからあえて、「精神疾患」と翻訳したのだろうと推察する。

なぜなら、日本語のニュアンスとしては、“病気”より“障害”の方が重い。精神疾病といえば、「ああ、うつ病なのかな」となるだろうが、精神障害と聞くと、「精神分裂病(統合失調症)なの?」と思い浮かべるだろう。一般的に、後者の方が病状は重い。
うつ病は原因や発症メカニズムが解明されていないので、病気(疾患)ではない、治療なんかできない“障害”だ。と言うのは、私にはいちゃもんにしか思えない。そもそも、生物学的な異変は”disease”(疾患)、行動上の異変は“disorder”(障害)という分類・区分けは、妥当性があるのだろうか?

事実と意見の違い?事実って、どうやって断定するの?意見という言葉は、「見立て」と置き換えて読むと、理解がしやすいと思うが、ポストモダン哲学を持ち出すまでもなく、事実なんて、理解者の数だけ存在するとも言えてしまう。

精神医療に対する異常なまでの不信感

精神医学は非科学的、ワイドショーの星占いレベルと言う。
DSM-Ⅳの操作的診断(チェック項目の数で、疾病の有無を判定する方法)を非科学的と批判するなら、入院レベルのうつ病患者への対処法を示してほしい。
5分診療が必ずしも適切ではないとは、個人的には言えるが、それを「デタラメ専門家」と断罪することには賛同しかねる。
専門家は「未熟さ」と「生まれつきの脳の問題」を区別できない、というのなら、良心的な医師など、この世に存在しないことになる。

一面的に経緯を捉え、「子供たちが危ない!」
というのは、本書で批判している、

病状悪化
→病名ラベリング
→過剰な投薬
→副作用による病状悪化

というマッチポンプとどこが違うのだろう?
て言うか、発達障害の”検査”って、何?
デタラメな専門家に繋がると言うのも、思い込みでは?要は、誤診のリスクと治療のベネフィットが、読み取れていないんですよ。

大御所を酷評するのなら、直接取材すればいいのに…

DSM-Ⅴで、disorderを“疾患”と翻訳したことで、うつ病バブル・発達障害バブルを引き起こしたのは、大野裕氏であり、「ガス抜きと保身のために身内を批判するセコいインチキ第一人者」と評した。自説に合わないからと言って、正直、異常な心理だと思う。直接聞けばいいのに。日本での認知行動療法の第一人者なのだから。
野村総一郎先生を「(SSRIへの)過剰な期待を作り出した張本人なのに、主張を180度転換した」と批判するなら、取材と対談を申し込めばいいのにと思う。日本でのうつ病治療の第一人者なのだから。
市川宏伸医師(ADHD学会2代目理事長)を「発達障害バブルの黒幕」とするなら、直接取材したらいいのに。
星野仁彦医師にも、「本書は、発達障害の診断基準や精神医療そのものという第一階層の問題に切り込む」というのなら、発言を切り抜くのではなく、直接取材したらどうだろうか?

本当に巷の精神科医は信用できないのか?

6章では、丸々1章を割いて、精神医療業界を批判する。
・簡単に信用してはいけない精神医療業界
・精神医学は科学ではなく政治そのもの
・客観的診断はあり得ない
・主観によって他人の人権を制限できる
・「診断=差別」の精神医療の歴史
・人権侵害の歴史こそ精神医療の本質
・続々と街なかへの進出を始めた精神科医たち
・強制入院制度の悪用
・精神医療とDVの関係
・非人道的行為が横行する医療現場
・マッチとポンプを手にしてさまざまな領域に入り込む精神医療

大きく間違っているわけでは必ずしもないのだが、あまりにも記述が一面的すぎる。

確かに、精神医療の歴史は、常に問題含み(特に人権問題)であった。それを遅々たる歩みではあるが、克服してきた。専門職なら、それくらいは学習してきている(養成カリキュラムの内容に、組み込まれている)。例えば私は、精神保健福祉士の養成学校で、「精神保健福祉論」(今は、科目名が変わっているみたい)という授業の中で散々教わった(私は、「人権侵害を撲滅できた」なんて言うつもりはないし、それを軽視しているわけでも勿論ない)。

インフォームドコンセントって言うけど、この人は医療機関にかかったことがないのか?薬理効果を隅々までイチから説明したら、診察にならない。仮に、「医学的根拠」を説明してもらったとして、どの程度で満足するのか?「最低限の説明を」という主張は、”最低限”のレベルが患者によって異なることを見落としている。それは、しばしば、医師との信頼関係(ラポール)に依る。それは精神科に限らない。机の上での勉強だけで、臨床を知らないから、こうなるのだと思う。
確かに、リタリン(中枢刺激剤)は「薬と覚醒剤の中間」と言われることもある(ぶっちゃけた話、私も飲んでいた時期がある)。だからと言って、覚醒剤と一緒にするのは、適切とは言えないだろう。

総評

この、精神医療に対する、視野の狭い不信(憎悪?)はどこから来るのだろう?本書の根本的な問題は、自説に都合の良いファクトだけを取集し、それを社会問題に仕立てていることにある。ゆえに、上記で指摘した用語や理解・認識の疑問や矛盾が出てきてしまう。
評者のように、一応の専門知識があれば、この本のまともな面も、そうでない面も区別できるが、一般の方にはそんな違いなんてわからない。手に取るのは危ない書籍だと言わざるを得ない。

# 読みやすさを優先するため、本稿では引用該当ページ数は、表記しないことにしました。どうしても気になる方は、コメントください。
# 本文は、予告なく改変することがあります。ご承知おきください。

それでは、また次のコラムでお会いしましょう。

◇◇◇

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(弊記事)





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精神科キャリアコンサルタント。精神保健福祉士、国家資格キャリアコンサルタント・CDA、認定オンラインカウンセラーなどのライセンスを元に、メンタル疾患からの復職を目指す方の、キャリア構築支援をしています。 サービス受付ページ→http://www.s-yam-gucci.jp
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