NHK ETV特集「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」いちソーシャルワーカーによる解題
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NHK ETV特集「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」いちソーシャルワーカーによる解題

先月7月31日(土)午後23時~午前0時に、NHK・Eテレの「ETV特集」で「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」という番組が放送されました。本稿では、いち精神保健福祉士として、この番組内容を解説します。

番組で取材された松沢病院は、精神医療に携わる者ならその名は知らない、日本の精神科病院のパイオニア的なところです。「同じ身体症状でも、精神科患者の方が、受けられる治療は劣る」と語るのは、松沢病院医師の斎藤正彦・元院長です。

病棟丸ごとクラスターという壊滅的な状況

番組の独自調査によれば、145の精神科病院で4500人の陽性患者が出ています。また、番組で取り上げられた2つの精神科病院でも、患者190人が感染・8人死亡、あるいは115人が感染・6人死亡という、痛ましいことが起こりました。

精神科病院では、適時・正確な意思疎通が難しいこともあるという病気の特性上、マスク着用の徹底が難しいこともあります。また、設備の古い病院も少なくなく、広い畳部屋で大人数の入院患者が寝起きしているところもあり、十分な距離確保など、とても望めないところもあります。さらに、日本では「精神科特例」と言って、他の診療科と比べて、医師は1/3、看護師は2/3の要員で良いと定められています。

精神科特例の良し悪しは別にしても、こんな状況でクラスターが発生したらひとたまりもないと、私もかねてから思っていましたが、やはり実例が出てしまいました。

精神科病院の非常識

非常識な話なのですが、日本の精神科病院には「閉鎖病棟」「隔離室」「身体拘束」というものがあります。「閉鎖病棟」というのは、病棟が施錠されていて、入院患者が自由に出入りできない施設のことです。「隔離室」というのは、入院患者に自傷他害の恐れ(例えば、自殺衝動など)がある場合に、何もない個室に閉じ込めることです。「身体拘束」というのは、同じく自傷他害の恐れがある場合に、ベットに縛りつけることです。なぜそのようなことをするかというと、一にも二にも、その患者の生命と安全を確保するためです。

勿論、人権問題なのですが、現実問題として全廃は難しいというのが、大方の業界人の共通認識だと思います。ましてやコロナ治療となると、身体拘束の事例数も増えていると思われます。「精神科病院をなくした」というイタリアでも(イタリアは精神医療の先進事例とされていますが)、精神科の急性期病床を全廃できたわけではありません。

コロナ陽性者を隔離するにも、個室と呼べるものは保護室しかなく、それを無理やり個室扱いにして、コロナ患者を受け入れるという苦しいケースもありました。中には、精神科病院に対し、保健所が「受け入れ先がないので、貴院で看取って欲しい」と回答したケースもありました。番組内では、ある保健所の精神科病院に対する指導に疑問を投げかけていましたが、保健所が精神科病院の事情に必ずしも通暁しているとは限りません。

「精神科病院は、社会の秩序を担保している」

「精神科病院は、医療を提供しているだけではなく、社会の秩序を担保している」と番組内で述べていたのは、精神科病院の経営者団体である日本精神科病院協会の山崎學会長です。例えば、統合失調症という病気には、幻覚症状(ないものが見える・聞こえる)が出ることがあって、それが原因で錯乱状態になってしまうことがあります。それを今の日本社会が包摂できるかというと、答えは否です。普通でないもの・異常なものは見ぬふりをして排除して機能を担保しているのが、今の社会の構造でしょう。

また、松沢病院の斎藤正彦元院長はこうも語ります。
「退院の一番の抵抗勢力は社会」
「自分の問題と考えたくない。自分が怖いものを見たくない。病院の精神医療はそういう構造を持っている」
「ひずみは必ず脆弱な人のところに行く。社会的にパワーのない、家族も家もない弱い人がいるが、私たちの社会は、セーフティーネットをどんどん細らせているということを思い出すべき」

斎藤元院長が涙目で語られていたのが印象的でした。こういう時に、平時の歪んでいる社会構造が表面化してくるのでしょう。「だから、(精神科病院は)必要悪なの?もうわからなくなってくる」と松沢病院のケースワーカー(精神保健福祉士)の方がこぼしていました。第一線の現場の方が方向性を見失えば、全容を理解できる人は誰もいなくなってしまいます。

知らないものは恐怖だが、知れば対応は変わる

いくら家族でも、ある時期から街中で奇声を上げられたり、家庭で錯乱状態になったりしたら、何もメカニズムを知らなければ怯えるのが当然です。全ての家族が治療に協力的とは限りません。精神科病院で10年単位の長期入院が珍しくないのは、こういう事情にもよります。

知らないもの・理解できないものに対しては、誰しも恐怖を感じますし、それを遠ざけようとします。しかし、あの状態はこういう病気が出ているんだな、服薬すれば症状は改善はするんだな、生活でのこういうシーンにはこう対応すれば良いんだな、といった正しい知識があれば、そんなに怯えることもなくなります。精神障害は、社会の一定割合で発症するのですから、きちんとした疾病教育も必要でしょう。

メンタルヘルス業界にいても、病気の中身には目を向けない人が多いように感じます。最低限、例えば、統合失調症はどういう病気で、どういう症状が出て、どういう治療・服薬と生活のサポートが必要なのか、という知識が、プロフェッショナルならば必要だと感じます。

 この番組は、8月5日(水)24時~(=4日(木)午前0時〜)に、再放送があります。


本稿は以上です。
それではまた、次のコラムでお会いしましょう!

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