で、結局、大坂なおみ選手のメンタル不調って、どう理解すれば良いのよ?

プロテニスプレーヤーの大坂なおみ選手が、長年の「うつ」を理由に、全仏オープンを棄権しました。この”カミングアウト”は、Twitterでされました。

私の”見立て”

私は医師ではないので、診断はできませんが(医師でも、あれだけの情報量しかないのに診断するのは無理だと思いますが)、支援する上での”見立て”(最初に関わる際の仮説)を述べることはできます。我々、コメディカル職に求められるのは、治療ではなく環境資源の整備ですが、それには”見立て”が不可欠です。

本コラムをお読み頂いている方は、精神保健のプロとしての私の見方を期待しているかと思いますので、ここで私の見解を述べておきたいと思います。初めにお断りしておきますが、今回大坂選手が全仏オープンを棄権したことの良し悪しを議論するつもりは、全くありません。それは、メンタルヘルスの問題ではないので、私の関知する範疇を超えます。

私の結論から言ってしまうと、病気というよりは、気分変調の範囲なのかなと見ます。東京五輪には出るつもりということなので(ファン向けのリップサービスかもしれませんが)、そんな短期に回復できることを見込んでいるということは、病気としての重度さはないということなのかと、私は読みます(でも違うかもしれません)。何年も年単位で病気に苦しんでいるのであれば、その治療には相応の年月が必要で、東京五輪どころではないはずだからです。日本とアメリカではメンタルヘルス理解の様態も違うので、とても理解が難しいところですが。

ほぼ誰も触れない、「うつ病」と「うつ症状」の違い

さて、該当のツイート部分ですが、

I have suffered long bouts of depression since the US Open in 2018 and I have had a really hard time coping with that.
(2018年の全米オープン以来、長い間、気分が落ち込むことがあってそれに対処するのに本当に苦労しました。:訳、NHK)

端的に言うと、向精神薬などの精神科治療を受けているのかどうかが、わからないということです。「長い間」ということなので、治療を受けているのであれば、確定診断がつくでしょう。「とりあえず、うつ状態ですね」という状態診断の段階では、もはやないでしょう。

本稿では、中途半端に「うつ」という表現を使うよりは、「メンタルヘルス不調」という言葉にしました。報道を見聞きしていると、「うつ」と言っていたり「うつ病」と言っていたり「うつ症状」と言っていたりするのですが、同じ報道でも統一感は全くなく、違いを理解していないのかとも、疑問に思えます。

大坂選手は、"depression"としか書いていないのですが、この単語の意味は以下の通りです。

〔気持ちの〕落ち込み、意気消沈、絶望
《病理》鬱病、抑鬱症
〔活動や機能などの〕低下、減退、減衰

(出所:英辞郎

オックスフォード英英辞典も見てみました(一部引用、和訳は筆者)。

[1] a medical condition in which a person feels very sad and anxious and often has physical symptoms such as being unable to sleep, etc.
(とても悲しげで心配な気持ちになる、医学的状態・病状。不眠などの身体症状をしばしば持つ)

[2] the state of feeling very sad and without hope
(とても悲しげで希望がないと感じる状態)

これからわかるように、日本語の「うつ」というニュアンスとは、だいぶ違うのです。「うつ状態」とも「うつ病」とも取れるのです。つまり、

「気持ち的に参ってしまって、気分のアップダウンがここ数年激しくて、困っているの」

とも読めますし(「メンタルヘルスを軽視したり、この用語を軽く使用したりすることは決してない」とも書いてあるので、翻訳のニュアンスは難しいですが)、

「重度のうつ病が続いており、治療にも難儀しているのです」

とも読めるのです。

(ただ、"bout"という単語には、「発作」という意味もあるそうなので、うつ発作で苦しんでいた、ということかもしれません。うつで「発作」という言葉は、あまり使わないですが。)

必要な問題解決の方向性は、全然違ってくる

え、だって、あんなに元気にプレーしていたじゃん、とも思えますが、メンタル不調を跳ね返す、それだけの強靭な精神力を持っているとも言えるわけで、やはりトップアスリートの精神力は並大抵のものではないのでしょう。

「うつ病」か「うつ状態」か、どちらかで、必要な問題解決の方向性は全然違います。

「うつ状態」なら、選手のストレスコントロールをどうサポートするかという話になると思います。全くストレスのない環境など存在しませんし(ストレスがないのも、またストレスです)、それぞれが適度に適応するしかありません。いちいち環境のせいにしていたら、生きていけません。それは、職場でも学校でもプライベートでもそうでしょう。

しかしながら、「うつ病」なら、これは会社で言えば労災で、スポーツ界が病人を出してしまったということになります。スポーツ界でも、トッププレーヤーが精神疾患だったという話はよく聞きます。一般人よりも、精神疾患は感覚的に近いものかもしれません。時代の寵児が精神疾患だったという話も、よく聞くことです。しかしながら、放置して良い状況であるわけでは決してなく、うつファクターの撲滅に取り組むことが、スポーツ界には改めて求められるでしょう。

自分を守ること

事の始まりは、試合後の記者会見の拒否でしたが、この記者会見というのが大層なストレスだそうで(「それも含めての、プロフェッショナルだろ」という意見もあると思いますが)、テニスは複数の試合が同時並行で行われるので、記者が自分の試合を観ているとは限らず、どうでもいい(時にはハラスメントにもなりかねない)ような質問にも受け答えしなくてはいけないというのが実態だそうです。
兎にも角にも、大坂選手は、自分を守ることを選んだわけです。これは極度のストレス環境下では、とても大事なことです。自分が潰れそうな時、周りの環境にいる人達は責任を取ってはくれません。自分の健康・安全は、最後は自分で守るしかありません。そのための行動を起こすことは、自分に対する責任でもあります。

本稿は以上です。
それではまた、次のコラムでお会いしましょう!

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