我流的産業メンタルヘルス入門ー精神科の非常識・各論(3)

今回は、「精神科の非常識」シリーズの最終回です。
各論第3回目の本稿は、産業メンタルヘルスについてです。

※注意※
本稿の内容によって発生する、いかなる不利益も、当方は責任は持ちません。

総論のおさらい

社員の健康管理について、必要な対応が多岐に及び、いち企業の手には負えなくなっていることから、これらを外注しており、大企業で導入しているケースが見られるということでした。また、心の健康管理の流れとしては、”1次予防”(未然防止と健康増進)・”2次予防”(早期発見と対処)・”3次予防”(治療と職場復帰、再発防止)がそれぞれあるということでした。

私のコラムは、いずれの記事も徹頭徹尾、当事者(従業員)の立場に立ったものですので、本稿も休職者側の視点に立ちます。つまり、健康経営など、マネジメントの注意事項のようなものは、ここでは触れません。

「ストレスチェックがストレスだ」

職場のメンタルヘルス管理の入り口は、ストレスチェックでしょう。
ストレスチェックの厚労省の定義

定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげることによって、労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止することを主な目的としたもの

です。
私が会社員だった時もストレスチェックはありましたが、「期限にまでやらなければ、承知しません」なんていうメールが、担当部署から来る状況でした。
すでに精神科に通院していた私は、話がこじれるだけで嫌だったので、アラートが出ないように、適当に誤魔化してやっていました。精神疾患についてある程度の知識があった私は、だいたいどの項目が地雷かが読めていました。参画していたプロジェクトが佳境になると、そんなことも構わず、ストレスチェックにイライラをぶつけていましたが、休職になるまで、会社側からケアをしてもらったことはありませんでした。ストレスチェックが、十分にその意義が浸透していなかった事例でしょう。現在でも、「ストレスチェック 意味ない」という検索候補が出てくる始末なので、制度の趣旨が浸透しているとは、必ずしも言い難いのでしょう。

ストレスチェックの注意点については、この漫画はがとてもわかりやすいです。

産業医という難解な存在

産業医とは、事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師を言います(日本医師会)。大企業だと専任の産業医がいますが、中小企業だと兼業の産業医です。つまり、常駐ではないということで、必然的に、何か起きてもすぐに対応してくれる訳でもなければ、最初から最後まで面倒を見てくれる訳でもないのです。医療人材枯渇の実状がここにもあります。

産業医は、企業・社員とは中立の立場とされていますが、「個別対応の基本は、配慮はする(適性配置・指導・教育)が遠慮はしない(業務実績のルールに基づく適正評価)」(塚本、2021)とは、言い得て妙です。患者に寄り添ってくれる主治医とは全く異なることを、理解しておく必要があります。
企業によっては、産業医がいないところもあります。それはどういうことかというと、心の健康管理はセルフケアでやるしかないということです。

また、産業医が精神科医とは限らないのも実状です。産業医になるための学科研修・実習にも、独立の科目としてメンタルヘルスが掲げられているので、メンタルヘルスについて一通りの医学的知識はあるとされていますが、精神疾患に対する習熟度は、正直なところ、未知数でしょう。

メンタルヘルス対策を外注するということ

精神疾患が身体的な怪我と何が違うのかというと、単に、治療が済んで完治したら元どおりに復職、というわけにはいかないところです。これは非常に難しいところで、その会社側のプロセスを主に支援する専門業者が存在します。総論で触れた”EAP”企業(Employee Assistance Program, 従業員援助プログラム)が、それです。EAP企業の業務は、具体的には、

・社員に対するカウンセリング
・管理職などに対する教育研修
・企業の人事コンサルティング
・従業員のストレスチェック
・休職者の職場復帰支援

などをサポートしています。EAP企業の理念は、例えば、

【企業組織などの職場生産性向上を目的に】 働く個人や組織の抱える課題解消の支援や、 従業員のパフォーマンス向上のためのサポートを提供すること

と言われます。【】内がポイントです。あくまで企業と契約しているのであって、従業員と契約している訳ではないのです(従業員の”駆け込み部屋”になるケースも、中にはあるそうですが)。

EAPのコンサルタントやカウンセラーは、上掲した業務の高度なプロフェッショナリティ・ノウハウを持っています。必要な専門知識量は膨大で、とても一人の人間では手に負えないことから、カウンセラーやコンサルタントなどの職種に分担して連携することで、サポートをしています。これも、精神保健分野特有の職業です。

”リワーク”の中身と課題

精神疾患で休職した従業員の側から頼りにしたいのが、”リワーク”です。
リワークとは、職場復帰支援プログラムのことで、それを専門にやっている医療機関や公的機関があります。国内全ての精神科に併設しているものでは必ずしもなく(ないところの方が圧倒的に多いです)、医師によっては、外部の公的機関(各都道府県の地域職業者職業センターなど)が行っているリワークプログラムを推奨することもあります。私の屋号である”リワーク・マインドデザイン®”も、その一端を担いたいという考えから、”リワーク”の言葉を冠しています。

プログラムの中身は、「規則正しい生活の慣らし」(通勤訓練)に始まり、疾病理解やコミュニケーション訓練(適度な自己主張の方法(”アサーション ”)など)・運動療法などが多く、仕事理解やキャリア支援(後者は非常にまれですが)を行なっているところもあります。どれをやるかは、施設によってまちまちで、効果も正直、ピンキリなようです。
仕事で病気になったからには、仕事の方に病気の原因があり、特にキャリア形成でつまずいた結果の休職であることも少なくありません。「リワークにキャリア支援を」というのが、私の活動理念です。

「完治」は基本的にないと考える。

自分の病状(健康度)を0か100かで考えてしまうと、いつまで経っても良くならないのが、精神疾患の特徴です。回復のプロセスを踏めるかどうかが肝心で、少なくともその期間は、病気である自分自身を受け入れる必要があります。また、快方したら、病気のことは全く気にしなくて良いかというと、そういうことでもなく、再発しないように自分自身をモニタリング・コントロールする必要があります。

これは、仕事の仕方・受け方にも言えることです。オーバーワークになったり、仕事を独りで抱え込んでしまわないように、日々上司や周りの人とコミュニケーションを十分に取っておくことが重要です。ただ、精神疾患になる人は特にこれがなかなか難しく、だからこそ、リワークなどでも、コミュニケーション訓練(心理教育)を行っているのです。

◇◇◇

以上、全4回にわたって、「精神科の非常識」のシリーズをお届けしました。精神科は、他科目にはない独特の事柄がいろいろあります。驚愕の実態もありますが、精神科についての理解が少しでも深まれば、幸いです。

本稿は以上です。
それではまた、次のコラムでお会いしましょう!

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