児童福祉司の国家資格化、反対論強いけど、良いんじゃないの?

今朝の日経より、福祉に関する重要なニュースがありましたので、これについて解説します。

「児童福祉司」国家資格化に賛否
児相で虐待対応、専門性高まる/人員確保妨げ
児童相談所(児相)で虐待対応の中核を担う「児童福祉司」。悲惨な虐待事件が相次ぐなか、児童福祉司を国家資格化する議論が厚生労働省の専門家会議で始まった。対応の専門性を高める効果が期待される一方で、人員確保の面からは資格化への反対論も根強い。
(中略)
才村教授は「腰掛け職員ばかりになってしまう現在の仕組みではなく、資格導入で児童福祉司の知識、技術を培う制度が必要だ」と主張する。
(中略)
ただ国家資格化には根強い慎重論がある。19年2月には9人の専門家が約3千人の署名を集めて反対を表明した。発起人の一人、木下大生・武蔵野大准教授(社会学)は「資格化は人員確保を妨げる。現状は人手不足が質の低下につながっている。まずは量の確保が重要だ」という。
日本社会福祉士会も資格化に反対の立場。副会長の栗原直樹委員は「社会福祉士が現場研修を積み上げれば、実務能力は培える」とした。

最初に私の立場を述べると、「良いんじゃね?」と思います。本稿は、この”慎重論”について、着目します。児童福祉司の国家資格化に反対するキャンペーンが、それです。発起人は、記事に出ていた、木下大生先生です。

ちなみに、賛成論は、こちらに詳しいです。

一応、反対キャンペーンの趣旨を、貼っておきます。とても長いので、ご関心が特になければ、読み飛ばしてください。

●「子ども家庭福祉士」の国家資格創設の動きに反対します!
厚生労働省の社会保障審議会児童部会社会的養育専門委員会のワーキンググループで子どもの支援に関する国家資格の創設の話が持ち上がりました。その後、超党派の議員で構成する「児童虐待から子どもを守る議員の会」と自民党の「児童の養護と未来を考える議員連盟」とが新たな国家資格「子ども家庭福祉士」の創設について検討しはじめました。私たちは、この新たな福祉の資格の創設の動きに反対します。

●すでに福祉の資格は既に沢山ある
福祉に関する資格はすでに沢山あります。国家資格は社会福祉士、精神保健福祉士、があり、また公的な資格として介護支援専門員、社会福祉主事、児童福祉司、この他にも民間の資格も数多く存在しています。福祉の資格は既に飽和状態であり、整合性も図られていません。特に社会福祉士と精神保健福祉士は、相談援助を行う資格が並列してある状況です。相談援助の国家資格が2つとなった1997年から今日にいたるまで継続してその問題性が指摘され、現在、統合化も検討されだしています。

●相談者に福祉相談職が分かりにくい
資格が増えることの弊害の1つに、相談者がどのような人に相談をしているのか判断しにくいことがあげられます。福祉の相談職という1つの専門職があり、その中で専門領域が分かれている、という構図であれば相談者にもわかりやすいでしょう。例えば、医師の場合、医師国家資格が基盤にあり、その中で様々な診療科や専門医に分かれています。疾患別に国家資格が創設されているわけではなく、根っこは同じです。これが“医師”という専門職の像が明確になる理由と考えます。
しかし、福祉相談職の資格は、領域ごとに資格がつくられようとしています。これによって同じ福祉相談職であるにもかかわらず、さまざまな名称がはびこるようになります。これでは福祉相談職の像がはっきりとせず、相談者は相談している相手が国家資格を有している専門家であるのか否かの判別も付きにくくなる状況を生むことが危惧されます。

●福祉相談職の資格政策に矛盾する
また、2007年に福祉相談職の資格については、社会福祉士を基盤とし、その中で各領域の力量を高めていく、という方針が打ち出されていました。これは「社会福祉士及び介護福祉士法」が改正された際の付帯決議に、社会福祉士の任用の促進と、社会福祉士資格取得者の中でそれぞれの専門性を高めていくよう「専門社会福祉士」制度の創設について言及にみることができます。つまり、国の福祉相談職資格の方針は、社会福祉士を基盤にしてくというものでした。にもかかわらず、新たな福祉相談職に関する資格の創設の提案は、福祉相談職の資格政策に矛盾することになります。

●新しい国家資格の創設は時間も費用もかかる
さらに新しい国家資格の創設は、関係機関の調整から始まって、全く新しい法律を草案から作り、内容の審議を重ね、国会に提出し、という手続きを踏まなければならず時間がかかります。また国家資格ができたとしたらその試験問題作成や資格制度を司る機構等の立ち上げや運営する費用もかかります。この時間や資金は新しい国家資格を創設することにではなく、他に使われるべきではないでしょうか。

●検討されるべきこと①:社会福祉士の登用を進めること、公的機関の慣習を変えること
今回の超党派議員らの議論では、「虐待対応が増加して児童相談所に求められる専門性が、施設に入所させる制度運用から、家族支援も含めたソーシャルワークへと変化している」※1「高度な知識と技能が必要なのに、数年で異動する任用資格では専門性が育たず、問題が深刻化する」※2、と指摘していますが、ソーシャルワークは社会福祉士が専門としていますので、社会福祉士の登用を進めればよいだけの話です。また、数年で移動する任用資格では専門性が育たない、という指摘は新たな資格とは関係なく、公的機関の慣習の話です。これについては、公的機関の慣習を変えて行けばよいのではないでしょうか。この2つに力を注いだ方が、時間もお金も節約できるのではないかと考えます。

●検討すべきこと②:児童福祉の現場で働く福祉専門職の労働条件・環境の整備
虐待を含む児童福祉領域で起こっている問題の緩和・解消には、もちろん専門性の向上の必要性も否定はしません。しかし、最優先事項は専門職の人員の増員、そのための予算増加であると考えます。少ない人員で専門性のみ向上したとしても、1人で対応できるケースには限界があります。そのように考えると、繰り返しになりますが、国家資格の創設よりも人員の補充や予算確保による福祉専門職の質の向上に取り組むべきであると考えます。

以上の理由から、署名を通じてみなさんからの賛同とコメントを集約し、以下の提案を厚生労働大臣や関連省庁、国会議員の皆さんに届けて行きます。
◎これ以上福祉相談職の分断につながる国家資格を創らないでください。
◎新たな国家資格創設を検討する時間、またその後の国家資格運営の予算が計上されるのであれば、その時間と予算や労力を児童福祉の現場で働く福祉専門職の人員の増員や予算増加のために使って下さい

最初に触れておくと、最後の提案二つ目にある、

新たな国家資格創設を検討する時間、またその後の国家資格運営の予算が計上されるのであれば、その時間と予算や労力を児童福祉の現場で働く福祉専門職の人員の増員や予算増加のために使って下さい

というのは、ストックとフローの概念をごっちゃにしていますね。資格創設の費用はストックですが、人員や予算の増加はフローです。これがわかっていないと、会計のことは全く知りませんと言っているようなものなので、気をつけましょう。


それはともかくとして、福祉系の国家資格は三つあります。福祉全般が担当領域のソーシャルワーカーである社会福祉士、メンタルヘルスが担当領域のソーシャルワーカーである精神保健福祉士、介護分野が担当のケアワーカーである介護福祉士の三つです。

ここで、気が付かれた方もいると思います。
そうです。前者の二つは、職務領域がダブっているのです。精神保健福祉士である私は、そのダブっている側の人間ですが、現実に起こっていることとしては、病院勤務のソーシャルワーカーさんは、この二つの資格を両方持っている方も多いですし、病院によっては、両方の資格を取得することを求めるところもあります。
パッと名前を聞くと、社会福祉士は福祉のジェネラルな資格で、精神保健福祉士はメンタルヘルスのスペシャルな資格のように聞こえますが、実態は、福祉の様々な分野で、精神保健分野だけが別の資格になっているのです。新たな国家資格はいらないと言われると、じゃあ、精神保健福祉士はいらなかったのかということになります。

それでは、便宜上、番号を振って、キャンペーンの内容を見ていきましょう。

1.すでに福祉の資格は既に沢山ある
ニーズがあれば作るべきで、資格の数は理由にならないです。

2.相談者に福祉相談職が分かりにくい
今のように、何でも社会福祉士とする方がわかりにくいです。スペシャリティが必要な分野で、専門職を独立させることが不適切だとは思いません。

3.福祉相談職の資格政策に矛盾する
確かに、ベースに社会福祉士を置き、その上に、精神保健福祉士などの専門職を位置付けるべきという政策論議は、昔からされています。その論議に反するということですが、これは、正直、現実的ではないと思います。新しい国家資格の創設なんかより、ずっと大変なことです。新しい資格体系への移行作業が膨大だからです。

5.検討されるべきこと①:社会福祉士の登用を進めること、公的機関の慣習を変えること
前者は、スペシャリティーの明確化は必要ないと言っているようなものです。児童虐待の問題が尖鋭になっている今日日、「今までの資格で、十分対応できる」という議論が、どこまで説得力を持つでしょうか。
後者(ルーティンの異動をやめ、職場の定着化を図る)については、その通りだと思いますが、それと国家資格化の是非は、私は別の話だと思います。

7.これ以上福祉相談職の分断につながる国家資格を創らないでください。
確かに、社会福祉士と精神保健福祉士は分断されている側面があります。しかしながら、社会福祉士の中でも専門分化がされています。職種間の横のつながりというのは、本来的には、資格の種類とは関係なく構築されるものだと思います。

4.新しい国家資格の創設は時間も費用もかかる
6.検討すべきこと②:児童福祉の現場で働く福祉専門職の労働条件・環境の整備
8.新たな国家資格創設を検討する時間、またその後の国家資格運営の予算が計上されるのであれば、その時間と予算や労力を児童福祉の現場で働く福祉専門職の人員の増員や予算増加のために使って下さい
これについては、最初に触れましたね(フローとストックの話です)。

さて、ここまで見てきて、どのようにお感じになるでしょうか。
私には、あけすけにいってしまうと、賛成派も反対派も縄張り争いをしているようにしか見えないです。


最後に自論を述べておくと、社会福祉士や精神保健福祉士は、ただのソーシャルワーカーの資格ではありません。資格の取得前提としては、原則大卒です。高卒のケアワーカーでは相応しくないとされているのです。具体的には、資格認定試験(国家試験)で、社会学や心理学、社会福祉学など、一見、現場の仕事には役に立たない科目が含まれています。
しかしながら、もちろん、これらの大卒レベルの教養科目が設定されていることは、意味があります。霞ヶ関の公務員試験を考えてみてください。仕事で直接使うわけでもないのに、法律や経済学など、大学レベルの学力が求められます。それは、単に地頭を測る目的だけではなく、それらの知識が社会変革を担うのに必要だからです。
少し前の情報で恐縮ですが、霞ヶ関の人たちは、近年、政治哲学を自主的に勉強するようになっているそうです。社会変革を担うには、上っ面の業務知識だけではなく、それらの根底にあるリベラルアーツを身につけておかないと、仕事が立ち行かなくなることに気付いているのです。

福祉の分野も同様です。福祉業界では、”ソーシャル・アクション”と言ったりしますが、根っこの意味は同じです。つまり、現場の支援に携わるだけではなく、社会変革をリードする役割が、社会福祉士や精神保健福祉士には求められているのです。国家試験を馬鹿にするソーシャルワーカーは、ごまんといます。しかし、ロールズやアリストテレスも知らないような輩は「おととい来やがれ」と突きつけられているのです。
したがって、児童虐待の現場の専門職と社会福祉士とは、本源的に求められているスキルが違うのです。この意味からも、児童虐待の専門職を作ることは、理にかなっていると私は思います。


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精神科キャリアカウンセラー。メンタル疾患からの復職を目指す方の、キャリア構築支援をしています。精神保健福祉士、国家資格キャリアコンサルタント・CDA、WLBコンサルタントなどのライセンスを保持。ホームページ→http://s-yam-gucci.jp
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