「全力の私」を蘇らせるには?ー”年齢の壁”と”プロティアン・キャリア”の時代

昨日15日(日)の日経新聞で興味深い記事がありました。

「よみがえれ 全力の私 主婦、新興企業に再就職」(社会面)

2012年に義父、16年に義母をみとり、17年には自身の母親も亡くなった。「私って何がしたいんだろう」。ふと人生の先行きを思ったとき、突然脳裏にきらめいたのは、都内の広告会社で働いていた20代の頃の自分だった。もう一度、思いっきり働いてみたい。

思わず、応援したくなります。あなたのキャリアに、無駄なんてありません。しかしながら、現実はとても厳しい。順を追って見ていきましょう。

「いざ職探しを始めると、すぐに年齢の壁にぶち当たった」

はっきり言って、「年齢不問」などという触れ込みは、雇用機会均等法に引っ掛からない為の、”嘘も方便”みたいなものです。

要は、履歴書に空白期間があると、採用候補になる可能性は極めて低いのです。運配送業やコンビニバイトではないような仕事の中途採用だと、数人の採用に対し、数十人の応募という、倍率数十倍というのが通例です。履歴書に疑問がつく応募者は、それこそAIの段階で弾かれてしまいます。
日本企業は、新卒就職からブランクのない直線的なキャリアを歩んだ人しか、戦力にしたくないのです。特に、途中で独立開業などしようものなら、履歴書の段階でゴミ箱行きです。なぜか?

それは、ビジネスパーソン以外の、社会との関わり方を知ってしまっている人は、取り扱いに厄介だからです。ビジネスの当たり前は、その外側の世界では当たり前ではありません。業務上で、いちいち、「これ、意味あるんですか?」などと相談されたら仕事になりません。会社が回りません。めんどくさいだけです。だから排除するのです。

奇しくも、この方はベンチャー企業に再就職したことが、社会の実相を表していると思います。

「キラキラしたキャリアがない」

介護や子育て以外に何もやってこなかったわけではない。大学の通信課程で司書資格を取った。パート先の古美術店では店番だけでなく、海外顧客向けのサイトを見よう見まねで制作した。海外からの買い付け客の対応や、最後は商品のディスプレーも任された。
だが採用試験で書ける職歴は、出産を機に27歳で辞めた広告会社のライターどまり。「営業職10年」「人事畑15年」といったキラキラしたキャリアがないばかりに、子育てに介護、パートとマルチタスクを必死にこなしてきた25年間も「パート主婦」の一言で片付けられてしまう。
(太字引用者)

これは、職歴書の書き方もあるのですが、「「パート主婦」の一言で片付けられてしまう」ような企業には、こちらから願い下げと考えた方が良いです。なぜか?

これも先ほどの話と同じです。企業人・組織人としてのキャリア以外の経験は、そんな企業にとっては、邪魔でしかないのです。横からの新しい発想なんて、いらないのです。「新しい視点が欲しい」と募集要項では言います。でも、それは表面上です。「当社以外の勤務経験が豊富にある」くらいの許容範囲です。いろいろ社会経験があったとしても、それが生かされるような企業風土でなければ、それをアピールしたとしても、”のれんに腕押し”です。

「全力の私」という成功体験の虚しさ

自分の中で、何か成功モデルがあると、それが仕事復帰のモデルになるので、再就職活動のエンジンにはなります。どのような働き方をしていたか、働く中でどのような時に充足感を感じたか、どのように組織に対して貢献できるか、ということが整理されている場合は、再取職活動のスタートダッシュは切れると思います。

ですが、当たり前ですが、10年以上も経てばテクノロジーは進化するので、往時の専門性は役に立ちません。”仕事の進め方”くらいは役に立つので、手取り足取り指導する必要はないかもしれない、くらいのアドバンテージです。新卒の子の方が素直で柔軟性があると判断され、競り負けることもあります。自分の方が、社会経験が豊富であるにも関わらず、です。

また、ありがちなのが、「自分もうつで苦しんだので、それを助けるような仕事がしたい」という転職動機ですが、それは医療福祉の現場からは煙たがられるのが現実です。仕事復帰の現実がとても厳しい(再発するケースが後を絶たない)ということだけではなく、患者に対して差別意識を持っている場合も、現実としてあります。

何度かこのコラムでも触れた、私が精神保健福祉士の現場実習で受けたパワハラについても、別の実習指導者には「(私が、精神障害の)当事者であることを直感し、拒絶反応を起こしたのでは」と言われました。それが、地域福祉ででかい顔をしているのだから、福祉業界の闇は救いようがないくらい深い。

"プロティアン・キャリア"の時代

このようなケースの思考の補助線となるのが、「プロティアン・キャリア」という、ダグラス・T・ホールという人が提唱しているキャリア形成理論です。

「プロティアン・キャリア」というのは、環境や社会の変化に柔軟に適応して、自らのキャリア開発を行う、「変幻自在なキャリア」を指します(”プロティアン”というのは、ギリシア神話に出てくる、思いのままに姿を変えられる神”プロテウス”に、由来するそうです)。プロティアン・キャリアと従来のキャリアを比較すると以下のようになります。

従来のキャリア
・主体は”組織”
・“権力・昇進”を重視
・“地位・給料”が中心
・“組織評価”が重要
・“何をすべきか”を問う
・組織で生き残る力を高める
プロティアン・キャリア
・主体は”個人”
・“自由・成長”を重視
・“心理的成功”が中心
・“満足感”が重要
・“何がしたいか”を問う
・社会での市場価値を高める

社会人経験の長い方なら、「現実社会は、そんなに単純じゃないだろ」という突っ込みが出てくるとは思いますが、これはあくまで学問的思考モデル上の話なので、従来型キャリアモデルとの対比として考えると良いです。新卒で大手企業に就職し、キャリアアップの転職もしながら、専門性と収入をアップさせていく、というキャリア形成が全てではないのです。

ホールにとってのキャリアの意思決定とは、人生一度きりの選択や大きな節目での選択ではなく、日常的かつ継続的な学習を意味します。そこで重要なことは、毎日の生活の一部としてアイデンティティ(十分な自己理解と、過去から未来に至るまで統合的に一貫した自己像)に関する情報を自己評価しながら、適応し続けることだと考えられています。

まぁ確かに、年収1000万円は難しいかもしれませんが、自分の中で首尾一貫していれば、道はそこら中にあるのです。ただ、”背水の陣”は敷きたくないものです。自分でビジネスを始めるのは、一番最後にとっておきましょう。


本稿は以上です。それではまた、次のコラムでお会いしましょう!

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