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書評・川越敏司『「意思決定」の科学』(評者:山口修司)

発売日には、Amazonでベストセラー1位になった、注目の新著である。

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Amazonでもレビューを書いたが、紙幅の関係などもあったので、本稿では、もう少し踏み込んで解説したい。

◇著者について

意思決定理論の世界的第一人者である、イツァーク・ギルボアの『意思決定理論入門』や『不確実性下の意思決定理論』の翻訳を手掛けている。専門はゲーム理論(最近の入門書だと、例えばこれ)・実験経済学。著書は↓など多数。

◇概要

 Twitter↑で、発売前から、経済学者などに注目されていた本である。
前半は、意思決定理論の肝である効用関数や、それを拡張したプロスペクト理論の解説であり、後半は、応用的なトピックが解説されている。
思考実験による問題提起から理論の説明を行い、そこでの疑問点を次の思考実験につなげるという、巧みな構成である。

 ちなみに、意思決定理論には、”ハード(システム)アプローチ”と呼ばれるものと、”ソフト(システム)アプローチ”と呼ばれるものがある。前者は本書にあるような定量的な分析であるのに対し、後者は自然言語による学習・合意を目指した方法論的なものである(ここでは、学術的な定義に深入りはしない。詳しくは、これなど)。

◇著者による紹介

◇識者による紹介

◇構成

第1章 期待効用理論ー意思決定理論の基礎
1期待効用とはなにか
2効用関数とリスク回避性
3リスクに対する態度
4相対的リスク回避度(その1)
5相対的リスク回避度(その2)
コラム1 パロンドのパラドックス

第2章 プロスペクト理論ー期待効用理論を超えて
1期待効用理論のパラドックス1
2期待効用理論のパラドックス2
3損失可能性
4価値関数の形状
コラム2 リスク回避性のパラドックス

第3章 時間選好・社会的選好・認知能力ー様々な状況下での選択を考える
1時間選好の測定
2社会的選好の特性
3認知能力の特性
4様々な選好が組み合わさった複合問題
コラム3 パサデナ・パラドックス

1章・2章で大体、半分位のボリュームである。
各章末に「まとめ」が、巻末には、さくいんと”読書案内”が付いている。
”補論”(なんと、80ページ!)や実験で用いたプログラム(Rコード)、参考文献などは、特設サイトからダウンロードできる。

◇特徴

理論(公理)と実験結果に不一致が見られる時、それは実験参加者が間違っているのではなく、理論(公理)の方が間違っている
という著者の筆致は、実験経済学(理論経済学と対比されたい)を専門とされているところからも窺える。

 著者によれば、本書の肝は、(大)統一理論にあるとのことだが(引用ツイートの一番最初のものより。この辺も、物理学のアナロジーなんだろうな)、私は、ちょっと別のことに関心が向いた。

 本書は、パラメトリック(特定の関数形を仮定する)である方法ではなく、ノンパラメトリック(特定の関数形を仮定しない)である方法を用いていることである。これは実は社会科学の根本的なことに関わる。

 社会科学は、研究者が考案した理念モデルの数だけ、真理がある。それが、自然科学、ないしは技術工学一般と全く違うのである。つまり、客観的な絶対的”真理”がどこかに転がっているのではなく、”真理”は研究者が創るものだと言えるだろう(こういった議論は、”科学哲学”に含まれるのだろう)。
ハードな意思決定理論だと、数学を使うから、どうしても「どこかに”真理”があるはずだ」と思いがちであるが、本書では、冒頭部分でこの考え方を事実上、喝破している。”特定の関数形探し”は、理系上がりの研究者が陥りがちな罠である。

◇評価

「異なるリスクを持つ利得のくじの中で、どれを選ぶか?」といった思考実験によって、そこまで紹介していた理論の綻びを体感しながら、学びを深めることができる良書である。
「私、文系なので、関数とか、全くムリです!」
という人には厳しい内容である。基礎的なミクロ経済学の素養はあったほうが良いかなと思う。「”効用関数”って、なんですか?」というレベルだと、正直厳しい。

 私は、大学院で意思決定システム科学を研究していた者なので、本書の企画自体も含めて、文句なしのはずなのだが、誤植(それも、文字の誤記に留まらず、数値や数式、図表の誤りがある)が多すぎる。それが残念な部分である。

 期待効用に応じて、意思決定策のプライオリティーを決めるのは、私の社会復帰支援サービスでも取り入れている。電子パンフレットでは、そのような記述はしていないし、期待効用理論の限界を感じられるような事例も、今までお目にかかったことがないが、いずれは見直しが迫られるのかも知れない。

本書の”さわり”は、こちらから読める。

それではまた、次のコラムでお会いしましょう!

◇◇◇

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精神科キャリアコンサルタント。精神保健福祉士、国家資格キャリアコンサルタント・CDA、認定オンラインカウンセラーなどのライセンスを元に、メンタル疾患からの復職を目指す方の、キャリア構築支援をしています。 サービス受付ページ→http://www.s-yam-gucci.jp
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