【レビュー】NHK BSプレミアム 特集ドラマ「うつ病九段」(2020/12/20放送)

昨日、NHK BSプレミアムで、「うつ病九段」という特集ドラマが放送されました。本日のコラムでは、このドラマの解題をします。視聴者のリクエストが多ければ、地上波で放送してくれるかもしれません。BS放送だけでお蔵入りするには、惜しい出来の作品だと評価します。


はじめにおことわりしておかなければならないのは、申し訳ありませんが、ドラマを見た時点では、原作は未読です(著作の存在は知っていましたが、読むのは後回しになっていました)。この点については、ご了解いただきたいと思います。

あらすじと作品概要

2017年7月。順位戦で先崎学九段(安田顕)は突然、思考停止に陥った。盤面に集中できず、死のイメージが頭をかけめぐる。そのころ将棋界は不祥事に見舞われていた。将棋連盟で広報を担当していた先崎は対応に追われ、さらに映画の監修も担当。その合間に盤面に向かうという、休みのない日々を送り、うつ病を発症した。
先崎は精神科医の兄・章(高橋克実)が推薦した病院に入院。担当医は長期の休養と、当面の将棋禁止を命じた。極度の集中力を強いる将棋は、治療の妨げでしかなかった。囲碁のプロ棋士でもある妻・繭(内田有紀)は、同じ勝負師としてその復帰を信じ、娘・春香(南沙良)とともに、先崎を必死に支える。壮絶な闘病の末、気力が回復した先崎は退院。一方、繭は先崎のリハビリの場も兼ね、将棋囲碁教室の開設準備を進めていた。そのオープンの日、先崎も招かれ、若手棋士による対局セレモニーが行われた。それを見た先崎は衝撃を受ける。まるで異世界のゲーム、うつ病で将棋のルールを全く理解できない頭になっていたのだ。
NHKウェブサイトより)

民放でも過去に取り上げられていたようです。

文藝春秋で、オンラインの漫画にもなっています。こちらはちょっと軽いタッチになっています。

私は、将棋については、駒の動かし方くらいしか知らないので、ドラマの主人公である先崎学さんが、将棋界でどのくらい高い評価を受けている方なのかや、病前/治療後の活躍がどうだったか、当時将棋界でどのような受け止め方をされていたか等は、ググってみたところで、私のイメージは乏しいものなのでしょう。

原作のレビューは、概ね高評価です。

全体感想

主人公の急性期の迫真の演技は、私が会社を休職していた時を思い起こしても戦慄する、お見事なものでした。このドラマは、うつ病の啓蒙的な意図があると思いますが、うつ病の実態・症状を知るきっかけには、十分に足るものでしょう。そもそも、多くのうつ病治療は、在宅治療です。入院までの診断は、ドラマでは明らかではありませんが、色彩感覚がなくなるのは、「よくある症状」ではありません。

病理面(投薬詳細などの治療内容)についても、ドラマでは詳らかにしていません。中途半端に情報を出すことで起こるリスクを勘案したのでしょう。90分という、ドラマとしては中途半端な長さであることも、これに因るものでしょう。エンドロールで、「うつ病の症状はさまざまです」と断りまで入れてあります。あくまで、一つの症例であり、それ以上でもそれ以下でもないことは、頭に留めておく必要があります。

また、ほぼ同業者(棋士)でもある、献身的な奥様の看病や、精神科医である実兄の適切な介入や励ましなど、治療環境がかなりラッキーだったことも事実だと思います。

「将棋でうつを治す」

私が注目したのは、先崎氏のこの想いでした。これはかなり難しいことです。「仕事で病気を治す」と言っていることだからです。それは無茶な話です。仕事が原因で病気になっているのに、その原因である仕事で病気を治そうというのは、通常の治療ではあり得ません。

うつ病の治療プロセスとしては、まずは休息と投薬治療で症状を落ち着かせ、通院・運動等のリハビリテーションで活動力(体力・精神力)を十分に取り戻してから復職ゴーサインが出る、というのが通常です。
そして、仕事についても、いきなりフルタイムの主作業をするのではなく、ストレスの少ない短時間・軽作業から始めて、産業医の監督の下、徐々に通常作業に戻していく、というのが鉄板です。そのプロセスも、直線的に進めるのは必ずしも多くはなく、社会復帰の途上で病状をぶり返してしまい、ステップを歩み戻してしまうというのが、現実のケースとして多くあります。

劇中でも、精神科医である実兄が、「うつ病の治療では、決断を先送りすることが大事だが、将棋は決断の連続作業だから、それができるようになるには、年単位の経過を見なければいけない」という発言をしています。

しかし、先崎氏の場合は、仕事である将棋が生き甲斐そのものであり、それは家族にとっても同じでした。しかも、「弱肉強食」の将棋界では、強くなって戻ってこなければならないという事情がありました。治療者でなくても、かなり困難な症例だと、見立てざるを得ません。

劇中、小中学生が読むような将棋の本すら読み解けないというシーンがありました。実際には、復帰戦を果たすまで、壮絶なリハビリテーションがあったようです。第一線のプロの勝負師が、アマチュアの対局すら理解できなくなった失望感は、想像するに余りありますが、そこから復活を果たすまでは、相当の心理的葛藤を、家族などの支えも受けて乗り越えたのは間違いないでしょう。

★★★★☆

うつ病の治療には、症状と治療内容に対する正確な知識を、本人やサポートする家族などが持っておくことが、非常に大切です。文章にすると至極当たり前のことですが、現実はというと決して十分に知識が行き渡っているとは言い難く、このドラマの社会的価値はそこにあるのだと思います(このあたりに関しては、2021年始に企画を考えています)。治療過程の詳細など、物足りなさがあるのは否めないので、その点を勘案して星4つの総合評価にします。

本稿は以上です。それではまた、次のコラムでお会いしましょう!

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