福祉人材に医療知識はいらない?

前回のコラムから、医療・福祉と就労のことについて、書いています。
今回は、「福祉人材に医療知識はいらないのか?」ということを、検証したいと思います(以前のコラムで、一部同様の議論をしていますが、ご容赦ください)。

前回は、なぜ私がお客様の病気の治療にコミットしないのか、ということについて述べました。私の転活支援はあくまで福祉のフェーズであって、医療のフェーズにまでは及ばず、当然、そこでの行為(治療)に関与することもない、ということでした。

しかしながら、矛盾したことを言っているように感じるかもしれませんが、私は、福祉の人材にもある程度の医療知識は必須だと考えています。対人支援職の人は、「障害なんて関係ない。みんな同じ人間だ。そういうラベリングはしない」という立場の方もいますが、私はその立場は取りません。私が当事者経験があり治療に対する関心が強いから、だけではありません。必要十分な医療知識もないのに、顧客理解などあり得ないからです。

精神保健福祉に医療知識はいらない?

日本では、ソーシャルワーカーの資格として、”社会福祉士”と”精神保健福祉士”という、2つの国家資格があります。前者が、障害者福祉全般や、介護・生活困窮・児童分野等、マルチな担当範囲を持つ資格であるのに対し、精神保健福祉士とは、その名の通り、精神障害に限定した資格です。なぜ、精神障害だけが別建てされたのかは、政治的な経緯もあると聞きますが、現在の制度として、そういう二本立ての仕組みになっています。

あえて精神障害のみに限定した資格保持者を採るのなら、精神領域特有の知識を持っていることが期待されているはずです。その知識がいらないのであれば、いろんなシーンでマルチに活躍できる社会福祉士を当てればよく、むしろそちらの方が、視野も広いでしょうから望ましいでしょう。現実としては、社会福祉士・精神保健福祉士、両方もしくはどちらかの資格保持を採用要件にしているところも多いです。スペシフィックな知識をそれほど求めていないのであれば、そういうスタンスも”あり”でしょう。

精神科病院勤務時代に感じたこと

私は精神科病院の勤務経験がありますが、そこの外来リハビリ部門(”デイケア”)を担当していた時、利用者のご家族に来ていただく、”家族会”を実施したことがありました。目的は、施設理解とご家族のケアです。

精神保健福祉士の私を含め、看護師や作業療法士など多職種のスタッフが、どのような情報提供をしようかとあれやこれやと事前に奮闘していましたが、忙しくてその時間帯だけ来てもらっただけの医師の話の方が、注目されるのです。正直、他のスタッフの担当時間は、あまり興味を持って聞いてはもらえなかった(手応えが感じられなかった)ように思えました。

やはりご家族は、医療に対する関心が強いのです。当事者の立場からすれば当然の心理で、やはり「当人に一体何が起きているのか?」「治るのか、治らないのか?」「どうしたら良くなるのか?」ということが一番の関心です。生活支援や就労などの社会参加は、それがはっきりしてからでないと、考える余裕はないと思います。私が受注の要件として、主治医の先生から許可が出るまで、転職活動には手を付けないことを設けている理由は、ここにもあります。

「病気の苦しみを忘れるために、ここに来ていている」

私が、精神障害を持っている方が通っている施設を見学した時、そこにいた方の一人が、「病気の苦しみを忘れるために、この施設に来ていている」と言っておられました。これはとても印象的かつ象徴的なシーンでしたが、やはり当事者の方の中では、病気の苦痛についての気持ちが強いのです。その苦しみの思いを汲み取ることなく、対人支援などできるのでしょうか?

少なくとも、当事者の立場からすれば、専門職は医療知識を十分に備えていると期待するでしょう。それに対し、「障害なんて関係ない。みんな同じだ」と言われたら、どういう気持ちになるでしょうか。「自分のことを理解してもらえない」もしくは「理解する気がない」と受け止めるのではないでしょうか?

目の前のお客様が精神障害を持っているということは、きちんと認識しておく必要があると、私は思います。それが生活や就労に全く影響がないのならいざ知らず、実際はその真逆なのですから、それを考慮した支援が個別に必要なはずです。

それは、”レッテル張り”・”障害者差別”なのか?

このように言うと、「レッテル張りという、障害者差別だ」という反応が必ず出てきます。今、流行りの言葉で言えば、「(健常者と障害者を)分断している」ということでしょうか。当事者経験のある私からすれば、むしろスルーされる方が、こちらの事情を考慮してもらえないということなので不安なのですが、福祉専門職の感覚は少し違うようです。

健常者も障害者も関係なく、誰もがお互いに手を取り合って生活している社会。

そういう光景を夢想しているのなら、病という苦痛の現実を知らなさすぎで、あまりにナイーブです。障害に限らず、いろいろなことに当てはまると思いますが、他人になかなか理解されない困難を持って生きている人は、世の中にたくさんいます。誰もがお互いのことを100%理解し合える社会の到来という理想に燃えるのは結構ですが、足元の現実を見ないで実現できるとは思えません。見たくないものに目をつぶっているのであれば、それこそ、差別意識の裏返しではないでしょうか。

病気のことを無視するのは、目の前のお客様の苦しみを無視するということであり、そういう人が「利用者に寄り添っている」などと言っても、虚しいばかりではないでしょうか。私からすれば、偽善にしか思えませんが、そういう考えが一部に蔓延っているのが、日本の障害者福祉の現実に散見されるということは、知っておいて良いでしょう。

ここまでをまとめると、自らの職務範囲が、治療ができないゆえに医療ではなく福祉だからといって、医療知識が不要ということは決してなく、目の前の顧客理解には、本来、医療知識はむしろ不可欠なのです。

本稿は以上です。それではまた、次のコラムでお会いしましょう!

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