”ジョブ型採用”に期待する日経社説の浅薄さを問う

今朝の日経朝刊の社説に呆れたのは、私だけではないでしょう。

「利点は多いジョブ型採用」??

利点は多いジョブ型採用
入社後の職務を明示し、卒業年にとらわれず必要な知識や技能があるかをみる「ジョブ型採用」を積極的に取り入れるべきだ。既卒者への門戸が広がり、企業の競争力の底上げにもつながる。
その際に壁になるのが、大学4年の特定の時期に集中的に選考して人数を確保する「新卒一括」採用の慣行だ。既卒者採用が抑えられる構造を生んでいる。
(日本経済新聞、2020年11月24日社説より)

簡単に、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用をおさらいしておくと、

”ヒト”に仕事(”コト”)を貼り付けるのが日本型のメンバーシップ型雇用、
一方、”コト”に”ヒト”(人材)を貼り付けるのが欧米型のジョブ型雇用、

というのが、一番シンプルな説明でしょうか。
例えば、ヒラから主任に、係長から主査に、と”職能”が上がって行くと給料も上がる仕組みは、日本型雇用にしかありません。やることが全然違う別部署に異動になっても、職能はキープされるので、年収が減ることは基本的にありません。

「会社の方針が変わって、この部署いらなくなったから、明日から来なくていいよ」と言われても、「はい、そうですか。お世話になりました」と淡々と次の職探しをする風土が日本に根付くのには、相当の年数が必要でしょう。
日本型雇用なら、周りの人の作業が終わらなくても、定時になれば「自分の仕事はもう終わったので、帰ります」という人は「協調性がない」とされてしまいます。ジョブ型雇用に完全にスイッチしたなら、そういう人で職場は溢れかえります。それでもいいということでしょうか?

”学生の能力”って、何でしょう?

新卒一括方式は採用コストを抑制できる半面、学生の能力の見極めが甘くなる。日本企業は新卒者を長期的に育てて戦力にしてきたが、技術革新が速い現在は、一から仕事を教えていたのでは世の中の変化に後れを取る
打開策が、企業が求める能力を明確にし、在学中から専門性の向上を促すジョブ型採用の導入だ。
企業が学生への要求内容を明確にすることで、大学の教育内容の改善にもつながるだろう。
(同上、太字引用者)

そんなことを言うから、
「ノーベル賞は取れない、イノベーションを起こせないでは、あなたがたの存在意義は何ですか、と問いたくなる」
とか世間知らずなことを言う経営コンサルタントや、
「最近の大学生は、名刺の出し方も知らんのか!?」
とか意味不明なブチ切れ方をする経営者が出てくるのです。

この手の記事を読むと、AIとかDXとかプログラミングとか言う話ばかり出てきますが、技術も専門知識も常に進歩するので、大学時代に身に付けた〈専門性〉など、20代のうちに色あせてしまいます。そんな一時的な潰ししか効かないような浅い知見を教え込むのが大学ではありません(「二流大学の経済学部なんて、経理ができるように、経済理論なんかより簿記を勉強しておけよ!!」というニュアンスのことを言っていたのは、冨山和彦氏(経営共創基盤CEO)ですが)。

その知識のアップデートは、企業研修でしかカバーできません。個人でそのレベルの専門知識をアップデートするのは、金銭的にも時間的にも無理です。
例えば、プログラミングスキルを考えてみると良いでしょう。今、保険証や免許証をマイナンバーカードに紐付けたいというニーズが出てきていますが、率直に言って、日本でそれをするのは不可能に近いと私は考えています。なぜなら、自治体ごとに、住民サービスのシステム構成が違うからです。それを、一つの統一システムにスクラッチアンドビルドするなど、考えただけで震えが止まりません。それを、とほほのJavaをかじった程度のペーペーの在野技術者が手に負えるはずがありません。ビジネスに必要なスキルは、教育側ではなく、ビジネスの側が育成する必要があります。

いみじくも、冨山和彦氏は次のように述べています。

旧カネボウや日本航空など多くの企業の再生に携わってきたが、事業を分割して売却した方が雇用を守れるケースが多かった。雇用はジョブに付随するからだ。企業は社内で特定のジョブがなくなっても、社員が別の企業で雇ってもらえるように教育する責任がある。資格など労働市場で客観的に定義できる能力を高めることがポイントだ。
(冨山和彦氏、太字引用者)

”ジョブ・ディスクリプション”という幻想

ジョブ型雇用で必ず出てくるのが、”ジョブディスクリプション”です。担当する業務内容や範囲、難易度、必要なスキルなどがまとめられた書類で、欧米では求職時や人事評価の際によく使用されています。

しかしながら、海老原嗣生氏(HRコンサルティング会社・ニッチモ代表取締役)は、以下のように指摘します。

今の時代にJDで細かく定義されたジョブなどありえない

タスクは難易度の高い職務においては、あまり意味をなさないものなのです。たとえば社長のタスクを列挙して書くことは非常に簡単で、以下のようになるでしょう。

・役員会に出る
・役員会では議事進行をリードする
・議題について総合的に勘案する
・最終ジャッジをする
・株主総会に出る……

 こんな形でタスクを列挙したとしても、どのタスクも誰もが「こうすればよい」と思えるような共通のイメージを持てる定型的な作業ではなく、各人各様に苦闘しながらその答えを出していかねばならないものです。
(太字引用者)

”ジョブディスクリプション”と聞くと、欧米の先進的な雇用形態の象徴のようなイメージをもつかもしれませんが、ホワイトカラーの仕事の本質を考えれば、とっくの昔に時代遅れのものになったと言う指摘も頷けます。

北米を主にウォッチするデイビッド・クリールマン氏(クリールマン・リサーチ責任者)は、「1980年代にJDはその役割を終えた」と言い切ります。そう、ブルーカラー全盛時代は(とりわけ欧米では)定型的で平明にタスクを列挙できましたが、ホワイトカラー主体になって、それは難しくなったという意味です。
(出所・太字、同上)

詰まるところ、所属組織で一生勉強するしかない

一昔前なら、転職面接で「課長ならできます」という受け答えが、失笑例としてありましたが、明日会社が倒産しても、自分の専門領域をマーケットに主張できることが大事なのは、言うまでもありません。その会社でしか通用しないローカルスキルではなく、将来的に必要になるであろう専門知識を、見極め、身に付けていく姿勢が必要とされます。

しかしながら、そういうニーズすら、どこかの企業に身を置いていないと、入ってこないのです。
私の例で言えば、自分が専門学校で勉強した、『精神障害の診断・統計マニュアル』(アメリカ精神医学会)は、”DSM-Ⅳ”と言いますが、今は”DSM-Ⅴ”になっています。それをキーワード登録したところで、Googleアラートにも引っ掛りません。業界事情が手に入る別ルートを確保しておく必要があります(私の場合だと、業界人コミュニティが必須です)。

冒頭ご紹介した日経の社説に戻りましょう。

能力のある若者を採って戦力にし、企業が収益力を高めれば、それを原資により多くの学卒者を雇用できる。成長と雇用増の好循環をつくることが、効果的で持続性のある就職支援策になる。

何で、連休明けのこのタイミングで、唐突にこのような社説を載せたのか、私にはわかりませんが、その中身は薄っぺらいと言わざるを得ないでしょう。
私の見方を付け加えれば、従来型のメンバーシップ型が根絶されることはなく、ジョブ型が必要に応じて組み込まれた、キメラのような雇用システムになるのでしょう。


本稿は以上です。それではまた、次のコラムでお会いしましょう!

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