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この授業では亀山さんが分かるように説明してください。

 大学1年生の時の一般教養の授業、僕は数ある選択科目の中から数学のゼミを選んだ。
 ガイダンスで「ぜひ自分の専門外にも目を向けて」と言われたこととシラバスに「文系歓迎」と書かれていたことを真に受けたのだ。受験ではⅡBすら必要としなかった文系だけど、もともと数学は好きだしちょっと興味のある内容だった。

 しかしテキストを買って開いた途端、えらい選択をしてしまったことに気付く。
「なんじゃこの数式は?」
 履修登録は完了してしまい変更はできない。選択必修だったため登録の締切が他の授業より早かったのだ。

 授業初日、教室には20~30人ほどの学生がいたが文系の人間は僕ともう1人だけ。おいおい「文系歓迎」って書いてあったのにマジかよ。

 先生が授業の概要を説明した後、ゼミ形式ということでグループ分けと発表の順番を決める。それから例題代わりに最初の問を解き始めた。
「ここまでで分からないことがある人?」
 僕はすっと手を挙げた。どうせこの場で一番数学ができないのは自分だ。
「どこから分からなくなったのかもよく分かりません」

 最初の説明を3倍くらい噛み砕いてもらってようやく理解した。すると先生が他の学生たちに言う。

「発表は全員が理解できないと意味がありません。この授業では亀山さんが分かるように説明してください」

 ……え?

 いきなりで驚いたが先生の言っていることは正しい。分かるように説明するのは大事だし、僕だって興味があって履修した授業を投げる気はない。僕は実質「分かりやすい発表ができているかの判定員」となってしまったが、そのおかげで授業はきちんと理解できたしすごく面白かった。

 ちなみに自分の発表順の際、僕はグループで集まる前に一生懸命予習してみたのだが、途中で計算を間違えたぐちゃぐちゃのノートを見せるしかできなかった。班員がその場ですらすら解き直しているのを見てちょっと悲しくなる。
「でも、立てた式が合ってたってことは理解できてるんだよね? ね?」
 僕が普通に人文系の授業を取っていたら絶対に出会わなかった友人よ、あの時は世話をかけたね。


 ……という話を唐突に始めたのは QuizKnock さんの動画を見たからです。
 2月頃から急激にはまって今では自宅待機のお供なのですが、最近アップされた中に ABC 予想の解説動画がありまして、すごく面白くて「そう言えば自分、数学好きだったんだよな」と9年前の授業を思い出したのです。中学くらいまで遡れば僕も教える側だったんだぜ?

 分かりやすく説明するのはすごく大変なことだし、分からないことを分からないと言うこともすごく大切です。新学期に向けて勉強中の学生さん、学校が始まったらぜひ先生を質問漬けにしてやりましょう。

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