「知らない人んち」最終回応募

 「知らない人んち」企画、最終回のシナリオです。
 概要は先にアップした案出し記事にまとめ直しています。きっとすべて回収できたはず。

〇暗室
   がらんとした部屋にアクが一人で立っている。視線の動きに従って部屋の様子を映していく。
   次第に動揺し、呼吸が荒くなり――。
キャン(声)「アク」

〇屋外
   ベンチか何かに座っていたアクにキャンが声を掛ける。
キャン「アク」
   アクが顔を上げる。
キャン「大丈夫?」
アク「ああ。うん」
キャン「どうしてこんなところに」
アク「……確認したいことがあって」
   上の空のアクをキャンが心配そうに見つめる。

〇リビング
   3話のラストからお茶を淹れたきいろがテーブルに着く。
きいろ「ジェミさんも」
ジェミ「あ、うん」
   ジェミはケータイ画面を気にしつつも席に着く。
きいろ「この家、落ち着くんですよね。私やっぱりこの家で育ったんだろうな」
ジェミ「きいろ」
きいろ「何ですか?」
ジェミ「あなた――」
   玄関からノックの音。二人振り向いて、
きいろ「また?」

〇屋外
   キャンがアクに暗室の鍵を渡す。
キャン「はい」
アク「ありがとう」
キャン「このためにわざわざ呼び出したの?」
アク「いや。あんな嘘ついて――」

   × × ×

   「先生が死んだ?」のフラッシュ。

   × × ×

アク「家に居づらいだろうと思って」
キャン「今更? 今までどれだけ嘘つかせたと思ってるの?」
アク「もっと早く終わらせるつもりだったんだ。すぐに殺してしまえばよかった」
キャン「それは違うよ。アク頑張ったよ。ちゃんときいろちゃんに思い出させようとして……気付いてほしかったんでしょう。謝ってほしかったんでしょう」
アク「どうだろう」
キャン「帰ろう。ジェミも心配してる」
アク「あいつのせいで計画が狂ったんだ。もう少し心配させておけばいい」
   何気なく時刻を確認したアクが、
アク「あ」
   少し間の抜けた表情を見せる。

〇玄関
   きいろとジェミが出迎えるとハウスクリーニングの業者が来ていた。
掃除婦「ハウスクリーニングに参りました」
きいろ「え?」
ジェミ「ウチ、ですか?」
掃除婦「はい」
   伝票(?)を見せながら、
掃除婦「お借りしている家を持ち主の方にお返しする際に、一通り掃除してほしいということでしたけど」
   ジェミが確認して、
ジェミ「ウチだ」
掃除婦「じゃあ失礼して」
   掃除婦が上がり込もうとするのをジェミが止める。
ジェミ「ああでも、もう少しかかりそうなんで、キャンセルできませんか?」
掃除婦「ええ? そういうのは来る前に連絡してくださいよ」
ジェミ「すみません」
掃除婦「キャンセル料全額いただきますよ」
ジェミ「もちろんです」
きいろ「いや、掃除してもらいましょうよ」
ジェミ「え?」
きいろ「もともとアクさんが頼んでいたんでしょう? それにほら、鍵だっけ? 探し物も見つかるかもしれないですよ」
   きいろが「ね?」という感じで掃除婦に笑いかける。
掃除婦「お任せください」

〇シェアハウス各所
   掃除しながら各部屋を回る三人。二階に上がった際には暗室の扉の前で、
掃除婦「こちらの部屋は……」
ジェミ「いいですここは」
   掃除婦、プロフェッショナルな営業スマイルを浮かべて、
掃除婦「分かりました」
   なんて会話も挟む。

〇玄関
   掃除婦、伝票を差し出して、
掃除婦「料金は先に頂いているので、あとはここにサインだけお願いします」
きいろ「誰の名前を……」
ジェミ「自分の名前でいいんじゃない?」
   掃除婦が頷いたのできいろは「堂島佐和子」と書き込む。目を見張るジェミ。
掃除婦「ありがとうございました」
   掃除婦が退出し、
ジェミ「それ、誰の名前?」
きいろ「誰って私の――」
アク(声)「僕から説明してあげようか?」
   家に戻ってきたアクとキャン。
ジェミ「アク」
   ホッとしたのか怒りがこみ上げたのかわけが分からなくなった表情で、
ジェミ「どこ行ってたの!」

〇リビング
   四人が席に着き、
アク「改めてこちら真中きいろさん、本名は堂島佐和子さん」
きいろ「逆です。通称が佐和子で本名がきいろです」
アク「……どちらにしても、覚えていたってことでいいのかな」
  きいろが頷く。
ジェミ「どういうこと?」
アク「簡単なことだよ。彼女は堂島家の里子になったから名字も堂島になった」
ジェミ「名前は」
きいろ「それも里親が勝手に決めたんです。自分たちがもらってきたんだから自分たちで名前を付けたいって、ペットかよ」
アク「ご両親的にはその方が距離が縮まると思ったみたいだけど」
きいろ「知ったようなこと言わないで」
アク「知ってるよ。ついさっき会ってきたんだから」
きいろ「……え?」
キャン「きいろちゃんの名前が堂島佐和子だって知って、どうしても確認したくなっちゃったんだって。そこ二人――」
   キャンはきいろとジェミを指して、
キャン「なんか結託してるっぽかったし」
アク「本当は施設にいた頃のことを覚えている。それ以外に『きいろ』と名乗る理由があるのか否か――」
きいろ「なかったでしょう」
アク「ああ」
   アクがじっときいろを見つめる。
きいろ「でも私、皆さんの言う『事件』は本当に覚えていないんです」
アク「都合のいいことを」
きいろ「すみません。でも本当なんです」
アク「……見てもらえるかな。あの部屋」
   ジェミが慌てて割って入る。
ジェミ「でも、あの部屋鍵がなくなって」
   アクはキャンから受け取った鍵を取り出して見せる。
アク「やっぱり持っていないと落ち着かなくてさ、僕だと気付くだろうからキャンに持ち出してもらった」
ジェミ「ホント私って信用されてないのね」
アク「お互い様だろ」

〇二階の廊下~暗室
   暗室の鍵を解くアク。その後ろに三人。
アク「どうぞ」
   きいろが扉を開き、中の様子を覗き込む。誰かに背中を押されて前につんのめる。背後で扉が閉まる。
   きいろが部屋の中を見回す。冒頭と同じように視線を辿るカメラワーク。
きいろM「それは子供同士の他愛ない悪戯だった。唯一鍵の掛かるこの部屋で、大人の目を盗んでは誰かが誰かを閉じ込める。ほんの数分、長くても数十分の――」
   扉の方から物音がして振り返る。
きいろM「けれどもその夜は、長く孤独なものだった」

〇二階の廊下
   扉を施錠しているキャン。
アク「どうして?」
キャン「あたしも一回くらい閉じ込める側に回ってみたかったの。なんてね」
   キャン、ひきつった笑みを浮かべる。
キャン「アクにこんなことさせるわけないじゃん。余計に辛くなるだけだよ」
アク「……」
キャン「大丈夫。きいろちゃんももう大人なんだから」

〇暗室
   部屋を一通り見て回ったきいろは床の傷(花瓶が落ちた時のもの?)や、はげた壁紙(子供がひっかいた感じのもの)を見つける。
アク(声)「どう、閉じ込められた気分は?」
   声に振り返るきいろ。
   以降、扉に背を預けているアクと適当にカットバックさせながら、
きいろ「あんまり、実感が湧かないです」
アク「まあ、まだ二分しか経ってないから」
きいろ「アクさんはどれくらい……」
アク「分からない。救出された時には既に僕は気を失っていた。寒さに凍えて、気付いたら病院だった」
きいろ「それまで誰も気が付かなかったんですか?」
アク「あの夜はクリスマスだった。先生は年に一度のパーティーに追われていたし、閉じ込めた本人さえ浮かれてケロッと忘れてしまったらしい」
きいろ「それが、私?」
アク「さあ? あの晩のことは僕もハッキリ覚えていない。先生も犯人を特定せずにうやむやにしてしまった。ただ……」
   アクの表情が急に険しくなる。
アク「いくら探しても見つからなかった扉の鍵は君が持っていた」
きいろ「見つからなかった?」
アク「その扉の傷はこじ開けた時にできたものだ。他にも色々と僕の悪あがきの跡が残っているだろう?」
   きいろが部屋の傷跡に目を向ける。
アク「鍵は壊れてしまったから仰々しい鎖とバツ印を用意した。君にこの家を案内する際に、この扉が封鎖されていることに意味があったんだ」
きいろ「……」
アク「どうした?」
きいろ「悔しいくらい覚えてなくて」
   アク、鼻で笑う。
きいろ「アクさん一人ですか。キャンさんとジェミさんは?」
アク「下でパーティーの準備をしているよ。あの夜と同じように」

〇リビング
   テーブルに料理や飲み物を並べているキャンとジェミ。ジェミが上を向き、
ジェミ「大丈夫かな?」
キャン「大丈夫」
ジェミ「どうしてそう言い切れるの? アクは――」
キャン「ちょっと神経質なだけでしょう」
   ジェミの不安げな表情。
キャン「アクはわざわざあたしたちに連絡してきた。最初から自分にブレーキをかけてくれる人を求めてたってことでしょう」
ジェミ「そうかな?」
キャン「それに、きいろちゃんなら大丈夫」

〇暗室
   再び扉越しのカットバック。
きいろ「アクさんは行かないんですか?」
アク「え?」
きいろ「せっかく閉じ込めたのに私、全然怖くないですよ」
アク「ああ」
   アクの脳内に幼いきいろの声がフラッシュする。
幼きいろ「怖くないよ、きいろがいるよ」
アク「……違う、そうだ」
きいろ「アクさん?」
アク「あの時も扉越しで……」
幼きいろ「鍵はあったけど届かないの」
   アク、頭を抱えて記憶を辿る。
幼きいろ「誰もきいろの話を聞いてくれないの。ごめんね」
アク「君は……君はあの夜」
きいろ「大丈夫ですか?」
幼きいろ「大丈夫?」
アク「僕を見つけてくれたんだ」
   アクの目から涙がこぼれる。
きいろ「アクさん、どうしました?」
   必死で泣くのをこらえているアク。
きいろ「開けてください。アクさん」
アク「思い出したよ。あの時の君はまだ鍵穴に手が届かなかったんだ」
きいろ「え?」
アク「そりゃ先生も庇い続けるわけだ」
キャン(声)「準備できたよ」
   声と共に階段を上ってきたキャン。アクと顔を合わせて。
キャン「なんて顔してるの」
   アクは号泣していた。

〇リビング
   四人がグラスを合わせる。
四人「乾杯」
キャン「アク、なんて顔してるの」
   不貞腐れた表情のアク。
アク「だって、本当は昨日の夜に三人でやるはずだったのに」
ジェミ「ねえ、ずっと気になってたんだけど二人ってデキてるの?」
   アクとキャンが飲み物を噴き出す。
きいろ「そうなんですか?」
アク「な、何言ってんだ?」
キャン「そうよ、何言ってんの?」
ジェミ「なんか信頼し合っているというか」
アク「単純にジェミが僕を信用してないだけだろう?」
キャン「そうよ、こっそりきいろちゃんと連絡とったりするから大変だったんだからね」
ジェミ「だからって軌道修正で先生殺す?」
きいろ「まあまあ。嘘でよかったじゃないですか」
   ジェミ、渋々頷く。
ジェミ「そう言えば先生遅くない?」
アク「結局仲直りパーティーになったって、連絡したんだよね?」
キャン「うん」
   キャンがケータイを覗いた時、玄関からノックの音がする。
キャン「来たかな」
きいろ「今度はちゃんとお話できますね」
   アクとキャンが玄関へ出迎える。ついていこうとしたきいろを引き留めるようにジェミが口を開く。
ジェミ「きいろ、ありがとね。おかげで殺されずに済んだわ」
きいろ「(笑って)何言ってるんですか?」
ジェミ「ホントすっかり忘れちゃったんだよね。アクのこと」
きいろ「え?」
   ジェミ、ささやくように。
ジェミ「だってあの日はクリスマスだったんだもの」
   ジェミ、笑ってグラスを傾ける。


 以上、原稿用紙換算17枚です。後半戦もう少し丁寧に描きたかったんですが、枚数と締め切りとでちょっと難しかったです……。よろしくお願いします。

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