「月がきれいですね」シナリオ応募

テレ東ドラマシナリオコンテストの応募作品です。選んだお題はこちら。

ちなみにこちらの記事で概要をまとめてあります。


○湊の部屋(夜)
   月島湊が机に向かって手紙を書いている。机上の時計(もしくはケータイ電話)が十一時五十九分を指している。白い便箋に「突然ですが、わたしはあなたのことが」とまで書いたところで手を止める。顔を上げ、怪訝な表情を浮かべる。
   時計が十二時を回っている。

月島N「○月×日深夜零時、その言葉がこの世界から消えた。そんなことなど知る由もない私は、この気持ちの正体も分からないまま西崎航太へ渡す恋文に悪戦苦闘していたのだった」

   必死に手紙の続きを書く月島。

〇学校(昼)
   校舎裏か屋上か階段の踊り場(要するに二人きりになれそうな場所)、西崎航太が月島から受け取っていた手紙を示して、
西崎「月島さん。これ、何?」
月島「何って言われても……」
西崎「いや、言いたいことはなんとなく分かるんだけど」
月島「ハッキリしないよね。私も自分で書いててそう思った」
   月島が改めて西崎を見て、
月島「西崎くんは優しいし、こういう時にしっかりと話をしてくれる。そういうところ素敵だと思って……でもこの気持ちが、私が西崎くんをどう思っているのかが上手く言葉にならなくて」
西崎「月島さんが俺のことを、どう思っているか」
月島「もっと的確な言葉があったはずなのに、全然出てこないの」
西崎「だから……」
   西崎が手紙の「一緒にいたい」の部分に目を落とす。
月島「あなたと一緒にいたい。それは間違っていないはず」
西崎「……それで?」
月島「え?」
西崎「いや、違うな」
   西崎がもう一度顔を上げて、
西崎「やぶさかではありません」
月島「ええ?」
西崎「俺もハッキリした返事なんか出てこないけど、月島さんと一緒にいるのは……やぶさかでは、ない」
   月島の表情がパッと明るくなる。
月島「何言ってるの?」
   西崎も笑って、
西崎「ホントだよな」

月島N「〇月×日十二時二十五分、私は自分の気持ちが理解しきれないまま告白した。彼も今一つ分かっていなかった。それでも放課後、私と彼はデートすることになった」

〇カフェ(夕方)
   月島と西崎が座っている席に、オシャレなパンケーキが二つ運ばれてくる。
店員「お待たせいたしました」
月島「ありがとうございます」
   パンケーキを見て満面の笑みを浮かべる月島。(ケータイで写真を撮るのもアリだが、会話がおざなりにならないように)
   それを見て笑う西崎。
月島「ごめん。一人ではしゃいで」
西崎「いや、月島さん見てたら食べる前から美味しいんだろうなって」
月島「あ! てか急にこんなところ連れてきちゃったけど、西崎くんは甘いもの大丈夫?」
西崎「大丈夫だよ。でなきゃ俺の分まで頼まないし」
月島「そっか。うん、そうだね」
西崎「そんなに食べるわけじゃないけど、割と……得意かな」
月島「得意?」
西崎「いや、苦手じゃないってことで……なんか変かな?」
月島「ううん、意味は伝わる」
西崎「もっといい表現があった気がするんだけど……」
月島「うーん。私はパンケーキが個人的に世界一美味しいと思ってるけど」
西崎「さすがにそこまでは」
月島「でも、あれば食べる?」
西崎「あれば食べ……たいかも」
月島「うん。理解した」
   以降パンケーキを食べつつ、
月島「食べ物は美味しいって尺度があるからいいけどさ、本はもっと困るよね」
西崎「あ、もしかしてさっきの……」

○書店(回想)
   店先を通りがかった月島と西崎。店頭の平積みの本を見て、まず月島が足を止める。
月島「あ、最新作出たんだ」
   西崎が隣に並んで、
西崎「寄ってく?」
月島「ううん。また今度でいい」
   そこから「どんな本を読むの?」という会話を交わすが、回想の終わりに連れて音声はフェードアウト。

○カフェ
月島「作家さんに対しての『いいな』って気持ちは言葉にしづらいよね」
西崎「面白いじゃダメなの?」
月島「うーん、内容じゃなくて作家さんへの思いだからな。新刊に至ってはまだ読んでもいないし」
西崎「そっか」
月島「それに、あの人の小説は面白いとはちょっと違うんだよ。何て言うか、文章がいいの」
西崎「へえ」
月島「だから余計にオススメするのが難しいんだよね」
西崎「俺も読んでみようかな」
月島「読んで読んで。それで感想聞かせて」
西崎「感想か。それこそ面白いか否か、以上のことが言える気がしない」
月島「これもいい言葉があった気がするんだけどな」
   パンケーキを食べながら談笑を続ける二人。

月島N「○月×日十六時四十五分、その言葉が彼に対してだけでなく生活の全てにいきわたっていたことを思い知る。けれどもやっぱり、私はその言葉が何なのか分からなかった」

〇駅・ホーム(夜)
   電車が走りだす。改札からホームに出てきた月島と西崎は他の乗客が来ない先頭(もしくは最後尾)の車両が停まる辺りへ向かう。
月島「ごめん、遅くなっちゃったね」
西崎「何で月島さんが謝るの?」
月島「だって私が付き合わせて――」
西崎「いいんだよ。俺も月島さんと一緒にいたかったんだから」
   二人して照れる間。目のやり場に困った月島が空を見上げて、
月島「あ、見て」
   彼女が示した先に月が出ている。
月島「きれい」
西崎「ホントだ」
月島「……こういうのってさ、やっぱり言葉で伝え合うことが大事なのかな」
西崎「ん?」
月島「私が今、月がきれいだって言ったら、西崎くんがホントだって返したでしょう」
西崎「うん」
月島「西崎くんの『ホントだ』を期待してなかったら、私は月がきれいだなんて言わなかったんじゃないかな」
西崎「じゃあ俺が『月なんかどうでもいいじゃん』って返したら?」
月島「ちょっと悲しくなると思う」
   西崎、明らかに声を落として、
西崎「そっか」
月島「え、どうしたらの?」
西崎「さっき犬を連れてたお姉さんいたじゃん」

〇道端(回想)
   月島と西崎が歩いていて、小型犬を連れた女性と出くわす。犬が二人の方へ寄ってきたので、月島は「可愛いですね。触っても大丈夫ですか?」という感じに撫でたりする。しかし西崎はその後ろで地味に硬直している。
西崎(声)「あの時も『可愛いね』『そうだね』がワンパッケージだったんだろうなって」
月島(声)「あ、あれはごめん。西崎くん犬苦手だったでしょ」
西崎(声)「別に苦手って程でもないけど」
月島(声)「ワンちゃんの方がそれを察しちゃったわけね」
   犬に吠えられる西崎。飼い主の女性が慌ててなだめにかかる。

〇駅・ホーム
月島「あの人も、世界で一番ウチのわんこが可愛いって感じだったな」
西崎「今日はずっとそこに見合う言葉を探してる気がするな」
月島「その人を、その物を素敵だなって思う感情は世界中に溢れているのにどうしてピッタリとした言葉が見つからないんだろうね」
西崎「あまりに溢れすぎていて今更名付けるまでもない、とか?」
   月島、驚いたように西崎を見る。
月島「何それ? 格好いい」
西崎「そうかな?」
月島「うん」
   電車が到着する。

〇電車の中
   座席がちらほら空いているくらいの電車内、月島と西崎はドア付近に立ってお互いに間合いを気にしている。
月島「……あの手紙さ」
西崎「え?」
月島「一緒にいたいって書いたじゃん」
西崎「ああ、うん」
月島「それってさ、何かを共有したいってことだと思うの」
西崎「共有?」
月島「うん。さっきの『月がきれいだ』って話もそうだけど、時間とか感情とか、そういったものを共有して通じ合いたいんじゃないかなって」
西崎「……なんとなく、分かるかも」
月島「それでね、逆に言えば通じ合っていれば言葉はいらないんだよ」
西崎「へ?」
月島「何かをいいなと思う感情は世界中に溢れているから今更名付ける必要がなかったんでしょう?」
西崎「ああ、そういう」
月島「どうかな?」
西崎「うん、いいと思う」
月島「ていうか、私の拙い説明で伝わる西崎くんがすごすぎる」
西崎「なんたって言葉はいらないから」
月島「やっぱり格好いい」
西崎「月島さん、意外とそういう言葉がポンポン出てくるよね」
月島「だからこそもやもやしてたんだけど。うん、すっきりした」
   車内アナウンスが流れる。月島が掲示を確認する。
西崎「次、降りるの?」
月島「うん」
   西崎、駅が近づくタイミングを見計らっている。窓の外の月を眺めながら、
西崎「俺だって御託並べてないで伝えなきゃだよな」
   彼が小さく呟いたのはまさに電車が止まった瞬間だった。
月島「え?」
   西崎が黙っているので月島はホームに降りる。
西崎「月もきれいだけどさ」
   月島、振り返る。
西崎「月島さんもきれいだ」
   発車ベルが鳴り、扉が閉まる。ガラス越しに見つめ合う二人。電車が走り出し、西崎が深いため息を吐く。
西崎「……アホみたいだ」

〇降車駅のホーム
   きょとんとした表情で固まっている月島、やがて西崎と同じような溜め息を吐く。
月島「何言ってんだか」
   とは言え、次第に笑顔を浮かべる。

月島N「○月×日深夜零時、その言葉がこの世界から消えた。そんなことなど知る由もない私でも、彼とはなんとかやっていけそうである」

   月島、もう一度月を見上げて改札の方へ歩き出す。


 以上、これで原稿用紙14枚くらいです。
 学校で会話してカフェで会話して駅で会話する構成に演劇脚本を書く時のクセ(暗転場転を極力減らしたい奴)を感じますね……。もっとブラブラとデートシーンを回したり他のクラスメイトを登場させたりしながら二人が何故惹かれ合っているのかが分かるエピソードを入れ込めば、もう少し膨らませることもできるかと思います。

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