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おたねさんちの童話集「案山子のモジロー」

案山子のモジロー
 
小さな田んぼは夕焼け小焼け、案山子がひとり立っていた。
案山子のモジロー立っていた。
今日も一日お疲れ様と、農家の人は帰っていった。
けれども、ほんとはこれからだ。
案山子の仕事はこれからだ。
スズメの兄弟狙ってる。
だんだん黄色くなる稲を、スズメの兄弟狙ってる。
小さな田んぼに舞い降りて、美味しいお米を食べていく。
食べちゃダメだと叫ぶけど、案山子の声は聞こえない。
スズメの兄弟知っている。案山子はゼンゼン恐くない。
スズメの兄弟飛び乗って、帽子をコンコンつついても、案山子はゼンゼン動けない。
案山子の兄弟からかって、案山子の前に置いていく。稲穂をどっさり置いていく。
「まるで、これじゃあ、泥棒みたい。案山子のボクが泥棒みたい」
「こらー!いいかげんにしろ!」
どんなに大声で怒鳴っても、誰の耳にも届かない。
案山子のモジロー泣いていた。
ぽつぽつ降り出す雨の中、案山子のモジロー泣いていた。
声なき声で泣いていた。
ブルブル震えて泣いていた。
いったいボクは何のために、こんなところに立っているのだろう。
秋の夕暮れ近づいて、再びスズメがやってきた。
スズメの兄弟がやってきた。
食べちゃダメだと叫ぶけど、やっぱり声は声は聞こえない。
案山子のモジロー叫んでる。
けれども、何度も叫んでる。
何度も何度も叫んでる。
突然風が吹き出した。
北の山から吹き出した。
突然風が吹いたから、案山子の服がブルブル鳴った。
大きな音で、ブルブル鳴った。
スズメの兄弟驚いて、あっという間に逃げてった。
「やった。やった。追い返したぞ」
案山子のモジロー震えてる。
突風止んでも震えてる。
あんまり興奮したもんだから、突風止んでも震えてる。
スズメの兄弟驚いて、それからしばらく近づかない。
農家の人も喜んで、モジローちょっぴり元気がでたよ。
案山子のモジロー元気がでたよ。
ボクにもできることがある。
案山子のモジロー胸を張る。
けれども、今度は、やっかいだ。
スズメの兄弟いないけど、もっと大きな奴がきた。
こいつら来たならお手上げだ。
イノシシ親子の登場だ。
田んぼをノシノシ突き進み、稲を踏めつけ、ずんずん倒し、稲穂をむしゃむしゃ食べていく。
おまけに親子でドロ遊び、背中をドロにこすりつけ、こりゃ気持ちいいと笑ってる。
案山子のモジロー見つめてる。
見るも無惨な光景をただ呆然と見つめてる。
イノシシの子供がやってきて、変な顔してモジローをみた。
モジローだって負けてはいない。
思わずキッとにらみ返した。
けれども、パパがやってきた。
イノシシのパパがやってきた。
イノシシのパパがやってきて、案山子のモジローをにらみ付けた。
うちの息子にちょっかいだすな。文句があるなら言ってみな。
案山子のモジロー飛んでいく。
イノシシのパパに突き飛ばされて、案山子のモジロー飛んでいく。
案山子のモジロー頭から、田んぼのドロに突っ込んで、全身ビショビショ泥だらけ。
案山子のモジロー、ドロの中、シクシクシクシク泣いている。
ボクに力があったなら、せめて大声が出せたなら。だけどモジロードロの中。無残な姿でドロの中。涙も出ないで泣いている。
農家の人は驚いた。
次の日見たら、おどろいた。
田んぼの中はグチャグチャで、案山子のモジロー倒れてた。
顔も衣服もドロドロで、見るも無惨に倒れてた。
「イノシシの仕業か」
農家の人は腹を立てて、あちらこちらに罠をしかけた。
案山子のモジロー見つめてる。
あちらこちらの銀色の罠。
「ざまーみやがれ!いいきみだ!」
絶対あいつら許さない。
案山子のモジローそう決めた。
絶対あいつら許さない。
案山子のモジローそう決めたはず。
けれども、目の前で泣いている。
罠にかかったイノシシの子供。
助けてほしいと泣いている。
隣でパパも泣いている。
イノシシのパパも泣いている。
「誰か!息子を助けて!!」と、エンエン、エンエン泣いている。
案山子のモジロー泣き出した。
声なき声で、泣き出した。
絶対あいつら許さない。
案山子のモジローそう決めたのに、やっぱり、それでも可哀想。
案山子のモジロー泣き出した。
ワンワンワンワン泣き出した。
農家の人が連れて行く。
イノシシの親子を連れて行く。
少し離れた山奥へ、イノシシの親子を連れて行く。
田んぼの稲を食べるより、たっぷりドングリをたべとくれ。
小さな田んぼは夕焼け小焼け、案山子がひとり立っている。
案山子のモジロー立っている。
声も出せずに立っている。
一歩も動けず立っている。
何も出来ずに立っている。
オロオロオロオロ立っている。
それでも、やっとやってきた。
待ちに待ってた収穫の朝!
稲を刈ってくみんなの横で
案山子のモジロー立っている。
満足そうに立っている。
「ごくろうさま!」と肩をたたかれて、案山子のモジロー立っている。
満足そうに立っている。

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