おたねさんちの童話集「ボクの居場所」

ボクの居場所
 
ブンブンブンブン探している。
子猫のネコンは探している。
今までずっとあったけれど、ミイタにとられてなくなっちゃった。
ボクの居場所がなくなっちゃった。
本当は今でもあるかもしれない。
けれども、行きたくなくなっちゃった。
行きたくないから、なくなっちゃった。
あれほど仲良しだったのに、あれほど楽しみだったのに、ボクの居場所場なくなっちゃった。
イス取りゲームのイスみたい。
ボヤボヤしていたら、なくなっちゃった。
ミイタとニャントがケンカをしていて、ネコンはオロオロ板ばさみ。
ミイタのところで悪口を聞いて、「ソウネ」と言ったら消えちゃった。
ニャントのところで、悪口を聞いて、「ソウネ」と言ったら消えちゃった。
スーッとどこかへ消えちゃった。ネコンの居場所が消えちゃった。
あんなに仲がよかったけれど、悪口ばっかり聞きたくないよ。
子猫のネコンは、上を見た。
涙が落ちるのイヤだったから、子猫のネコンは空を見た。
雲のすき間にやせた月、三日月よりもやせた月。
ネコンのココロと同じくらい、細い寂しいお月様。
次の日も、やっぱりケンカは続いていた。
ミイタとニャントの大げんか。
やっぱりネコンは板挟み。
ミイタのところで悪口を聞いて、「チガウ」と言ったら消えちゃった。
ニャントのところで、悪口を聞いて、「チガウ」と言ったら消えちゃった。
ボクの居場所がなくなっちゃった。
ミイタのところへ行ってはみても、ミイタはヨコを向いたまま。
ニャントのところへ行ってはみても、ミイタはヨコを向いたまま。
しかたがないから、散歩した。
行くとこないから、散歩した。
ブラリブラリと散歩した。
行くとこないけど、散歩した。
街はとっても、忙しそう。
ネコン以外は忙しそう。
ネコンはだんだんイヤになってきた。
「なんで、ボクはこんなところでウロウロしているんだろう」
賑やかな大通りから、路地裏へと曲がって足を止めた。
日の当たらない場所のコンクリートは、冷たくて居心地が悪かったけど、誰もいないだけ、気分は落ち着いた。
「やっぱり、いつもの場所へ帰ろうか」
子猫のネコンは、ピョンピョンと屋根の上へと上っていった。
日当たりの良すぎるトタンの板は、やっぱりちょっと熱かったけれど、賑やかな大通りよりはマシに思えた。
子猫のネコンは、お家へかえる。あんまり元気にならないけれど、元気なフリしてお家へかえる。
「ちょっと、そこの君、手伝って！！」
突然呼ばれて振り向いた。
子猫のネコンは振り向いた。
大きな声に振り向いた。
びっくりするほど可愛いメス猫。
子猫のネコンは驚いた。
でも、隣に誰か、倒れてた。
ウンウン唸って倒れていた。
「一緒に運ぶの手伝って！！」
子猫のネコンは手伝った。
少し離れたお医者さんまで、子猫のネコンは頑張った。
ウンウン唸る誰かを心配しているフリをして、ホントは格好良いところを見せたかっただけだったけど、子猫のネコンは頑張った。
一生懸命頑張ったから、なんとか無事にたどり着く。
お医者さんまでたどり着く。
けれども、直ぐにわかったの。
子猫のネコンは分かったの。
あの娘の視線は、ネコンの背中。ウンウン唸る、この誰か。
ネコンの恋は三十分。
たったのたったの三十分。
子猫のネコンは出て行った。
名前も聞かずに出て行った。
子猫のネコンは出て行った。
名前も言わずに出て行った。
ボクの居場所は、どこだろう。
子猫のネコンは下を向く。
アスファルトの地面は固すぎるから、草ボーボーの空き地を探す。
アスファルトならバレるけど、草ボーボーなら、分からない。
涙の跡は分からない。
子猫のネコンは空き地を抜けて、大きな通りを歩いている。
あんまり好きな場所じゃないけど、ずっと独りは、やっぱりイヤだ。
誰かの声が聞こえてくるだけ、賑やかな方が良いときもある。
子猫のネコンは顔を見た。
鏡に映った顔を見た。
ショーウィンドウの向こうに見えた。
涙の跡も残っていた。
あんまり悲しい顔だから。
子猫のネコンはにらめっこ。
ショーウィンドウの向こうに見える涙の跡とにらめっこ。
子猫のネコンは、にらめっこ。
へんな顔してにらめっこ。
あんまり変な顔だから、鏡の向こうは大笑い。
ネコンも一緒に大笑い。
ボクの居場所はドコでもいいや。
ボクの居場所は僕自身。
子猫のネコンは歩き出す。
ミイタのところへ歩き出す。
子猫のネコンは歩き出す。
ニャントのところへ歩き出す。
「ニャントと一緒に遊ぼうよ！」
ミイタのところでそう告げた。
「ミイタと一緒に遊ぼうよ！」
ニャントのところでそう告げた。
ミイタはごめんとつぶやいた。
ネコンはにっこり笑顔を見せた。
一緒にあそぼって笑顔を見せた。
ニャントもごめんとつぶやいた。
ネコンはにっこり笑顔を見せた。
一緒にあそぼって笑顔を見せた。
ボクの居場所はココがいい！
やっぱりココが最高だ！
ブンブンブンブン歩き出す。
子猫のネコンは歩き出す。
ミイタとニャントと歩き出す。
ボクの居場所はココがいい！
やっぱりココが最高だ！
空にはまあるいお日様だ！
コンクリートもあったかい。
ボクの居場所はココがいい！
やっぱりココが最高だ！