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おたねさんちの童話集 「まっくらくらり」

まっくらくらり
 
 まっくらくらり、真夜中の空。
 聞こえてきたのは何の歌?
 どうしてこんな時間に起きてしまったの?
 メイちゃんは、ひとり部屋を出て星を眺めていました。
雲も月のない夜でしたから、とてもきれいな星空でした。
 まっくらくらり、真夜中の空、聞こえてきたのは何の歌?
 なつかしい歌でした。
 誰もいないはずなのに、どうしてこんな歌がきこえてくるのでしょう。
 オリオン座がすこしにじんでみえました。
 あの日はとっても楽しかったはずなのに……。
ちょっぴりワガママを言っただけだったはずなのに……。
 まさか、あんなことが起きるなんて……。
 パパもママも、お兄ちゃんも、みんな事故だからしかたがないというけれど、やっぱりアタシが悪かったんだ。
 メイちゃんの空はやっぱりにじんでみえました。アタシがふざけて走り出さなかったら、子猫のミケを抱っこしたまま、走り出さなかったら……。ミケは死ななかったのに……。
 どうして私だけが軽いケガですんだんだろう。
 まっくらくらり、真夜中の空、聞こえてきたのは、やっぱり、なつかしい歌でした。
 ミケと一緒に聞いてた歌です。ミケの大好きなママの歌です。
 ちょっと遠くへ行っちゃった、メイちゃんの大好きなママの歌です。
「泣かないで……。ミケはここにいるよ」
 メイちゃんの耳に小さな声が聞こえました。
 メイちゃんは驚いて、当たりをキョロキョロと見回しました。でも、やっぱり誰もいません。
 さっきの声は、なんだったんだろう。
 お布団にもどっても、メイちゃんは考えました。
 でも、答えなんてわかりません。
 いつの間にか、メイちゃんは眠ってしまいました。
 次の日の夜も、メイちゃんは、ひとり部屋を出て星を眺ました。
 もしかしたら、今日もあの歌やミケの声が聞こえるかもしれないと思ったから。
 でも、今日は、いくら待っても何も聞こえません。
メイちゃんはあきらめて、お布団にもどりました。
 次の日も、またその次の日も、メイちゃんはお部屋を抜けだして空をみあげましたが、やっぱり何も聞こえません。
「やっぱり夢だったのかな」
 その次の日は雨でした。
メイちゃんは、部屋の窓辺から、ぽたぽた落ちる雨を眺めていました。
「メイちゃん!メイちゃん!」
メイちゃんはきょろきょろとあたりを見回しましたが誰もいません。
「ここだよ!ここ!」
それはたしかにミケでした。
ミケは窓にうっすらと映っていました。
「メイちゃんが心配で、お空の国から抜けてきちゃった」
ミケは笑いながら、そう言いました。
「どうして、人間の言葉は話せるの?」
「それは、喋っているからじゃなくて、直接心に伝えているからさ。野良猫は、普通の猫にしか声をかけられないけれど、人間に飼われていた猫は、ちゃんと人間の言葉が分かるんだよ。ただ、生きている間は喋る事ができないだけ」
「どうして、今まで、あらわれてくれなかったの?」
「どうしてって!本当はあらわれたらいけないからさ!でも、やっぱり心配だったから、最初はメイちゃんのそばで、メイちゃんの大好きな歌を歌っていたんだけど、やっぱり、ちょっぴり喋りたくなって、声をかけてしまったんだ。そうしたら、余計にメイちゃんを心配させたみたいで……。ごめんね。ミケは大丈夫だから、心配しないで!メイちゃんが悪いわけじゃないんだから!ミケは、大好きなメイちゃんが悲しい顔をしているのが、一番辛いんだよ。もうあえないけど、ミケはずっとメイちゃんのそばにいるんだよ。本当に心配しないで!」
 ミケは、そう言うと、すうっとどこかへ消えてしまいました。
 その夜、メイちゃんは、ミケの夢を見ました。
パパとママが、メイちゃんのために、お友達から、ミケを譲って貰った日の夢でした。
 まだ、ミケは小さな赤ちゃんでした。メイちゃんは、その日から毎日ミケにエサをやりました。病気になった時も、必死に看病しました。パパが動物病院へ釣れて行ってくれた時も、必死に泣きながら病院の廊下でミケを待ちました。
 まっくらくらり、真夜中の空。
 聞こえてきたのは何の歌?
 今日もやっぱり聞こえないけど、きっと私のソバにいる。
 まっくらくらり、真夜中の空。
 聞こえないけど、聞こえてる。
 私のソバで唱ってる。
 ミケがあの歌、うたっている。
 まっくらくらり、真夜中の空。
 聞こえないけど、知っている。
 私のソバで唱ってること。
 ミケがあの歌、うたっていること。
 まっくらくらり、真夜中の窓。
 ミケの姿は見えないけれど、きっと私のソバにいる。
 ミケがあの歌、うたっている。
 私のソバでうたってる。

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