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パリのメーデーで何が起きていたのか

 うかうかしているうちに時間があいてしまったが、メーデーに参加した際の記事では、「何もわからないまま機動隊から催涙弾を打ち込まれ、それによって、ろくな対策も取らずに参加した我々は敗走を余儀なくされた」という話を報告した。しかし、あれだけ読んでも、現場で何が起こっていたのか、全くわからないと思われる。もっとも、僕たちがあの現場にいた時にわかったことは、前回の記事で書いた以上のものではないので、体験に基づく「現場レポート」としては、事実に忠実だと思われるのだが、しかし、それではあまりに不親切なので、一応補足的なことを書いておきたい。

 あの日、催涙弾で敗走して、O本くんの家に帰宅した後、ニュースで見聞きした情報は目を疑うようなものだった。そこでは、「ブラックブロックが病院の敷地内に侵入し、建物内を襲撃したために、警察が侵入者を取り押さえた」ということが報じられていた。

 (「病院襲撃」を報じるテレビのニュース)

 ブラックブロックというのは、このnoteでも何度か書いているように、資本主義・商業主義に対する異議申立を行うために、商業施設や警察への破壊活動を行うことを辞さない人々を指す。アナーキストとか極左とか呼ばれることもある。そのスタイルにはもちろん賛否があり、一部の人からは(破壊活動が目的となっていると見なされ)「壊し屋」と呼ばれて蔑まれることもある彼らだが、あくまでもその標的は限定されている。 

 主な標的は、多国籍企業の店舗や事務所、銀行、その他金儲けに精を出している機関や、それらを守護し、民衆への攻撃を加える警察などである。そのように一定の目的意識や方向性を持った彼らブラックブロックが「病院を襲撃した」と言われても、はっきり言って、意味がわからない。むしろ、ブラックブロックが最も狙う可能性の低い場所ではないか。だから、ぼくの頭にまず最初に思い浮かんだのは「警察の流しているデマではないか?」という疑念だった。テレビでは、内務大臣がそのような前提に立って、「過激派の連中による暴力」を非難しているようだが、しかし、本当は何が起こっていたのか?

 その後のニュース報道でも、情報は二転三転してよくわからなかったが(というか、僕はフランス語がなにもわからないので、そもそもわかるはずがないのだが)、その後も情報を継続的にウォッチしているO本くんの話によると、あの日、起きた出来事は以下のようなものだったらしい(以下、彼からのメールを一部修正して転載)

 簡単にまとめると、我々が催涙弾を浴びるよりも前、終着点近くのコミッサリア(警察署)でブラックブロックと警察隊の衝突があって、デモ隊が後退させられた(16:00頃)。その際にすでに催涙ガスが導入されていた。
 それで、何人かのデモ参加者が病院に避難を求めて、(非暴力的に)病院へ進入(16:15ごろ)。サイトの映像を見るに、暴れて入った訳ではないのがうかがえる。それに対してcrs(共和国保安機動隊)が暴力的に排除を敢行。件の無差別催涙ガス攻撃によるデモの破壊に至ったという感じ。
 ちなみに報告を行ったgardés à vue というのは第三者委員会のようなもので、裁判所に属する。彼らが、病院での暴力はなかったと判断した模様。

O本くんの話のもとになったルモンド紙の記事(フランス語)↓

 この話の要点は2つである。

a,(16時ごろ)ブラックブロックと警察が、警察署付近で衝突した(その時点で催涙弾が使われた)
b,(16:15ごろ)その余波で、一部の参加者が病院に逃げ込む(それらを排除するために、さらに催涙弾が使われた)

このaとbの出来事と、僕の体験談とをすり合わせて見てみたい。当時、撮影した画像に時間が記録されているので、検証は容易だった。

 まずa(16時)の時点だが、その時点で僕たちが目撃したのは、武装した機動隊員たちが、なにやらデモの先頭に続々と移動していった様子である。これについていこうとするブラックブロックと機動隊員の間で、一瞬のにらみ合いがあったが、それ以上の衝突はなかった。しかし、この時点で既にどこかで爆発音は聞こえていた。これが最初の催涙弾の投擲のタイミングで、先頭にいたブラックブロックは警察署付近でバトルをしていた(?)というわけだ。

 そして、b(16:15ごろ)の時間帯だが、実は僕たちが坂道をのぼった後の道で催涙弾をぶちこまれたのが、ちょうど16:18である。そして、僕たちが催涙弾を食らった場所の付近に、例の「襲撃された」病院があった、ということもわかっている。

 以上をまとめるとこういうことだ。

 僕たちが催涙弾をぶっ放されたタイミングというのは、機動隊が病院への「侵入者」を排除するタイミングであり、その時に周囲にいた人間も、そのとばっちりで無差別攻撃を受けていた。そして、「病院への襲撃」とは言うものの、実際には暴力的な行動も見られず、「襲撃」と呼ぶべき事態はなかった。こういうことである。

 僕たちは起こらなかった「襲撃」に対する排除のために、催涙弾を食らい、そしてゲホゲホむせ返って泡を食ったのである。このような事情を踏まえてあらためて言えることは、やはり警察はmerde(フランス語:うんこ)であるということだ。もちろん、ブラックブロックとの衝突が発端ではあるが、それだってどちらが最初に手を出したのかはわからない。

 個人的な実感としては、ブラックブロックが攻撃的といっても、ただの黒いパーカーにガスマスク、ゴーグルを装備している程度で、フル武装した警察を前にしたら丸腰といっても差し支えないレベルであると思う。ブラックブロックをどう捉えるかについては、以前にも書いたので、そちらを参照してもらいたい。

 それにしても、ただ見ているだけの市民に対して、警告もなく催涙弾をぶっ放す警察のやり方は、非難されるべきものだろうと言える。ただ、このようなことがフランスのデモの場面において珍しいことかと言えば、決してそんなことはないのが困った話でもある。この話の続きはまた次回。

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