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往復書簡~noter間のCHEMISTRY✨~

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打ち合わせ無し❗verde & 逢坂 志紀との ライヴ感満載の往復書簡の恋愛掌編小説。 二人のインプロヴァイゼーションをお楽しみください。 果たして続きはあるのか…?
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夏の空はどこまでも高くて Vol.1

夏の空はどこまでも高くて Vol.1

人生で一番旨かったビールは、あの学生時代を過ごしたアパートの裏手にある川原で、彼女と飲んだ缶ビールだった。

あの夏の日、オレたちは隣にいた。

あくる年の夏に来る別れなんて知らず、ただ、あの夏を情熱的に共に過ごした。

十年を経て、もう一度出会う日が来るなど、みじんも思っていなかった。

大学時代の後輩のカナタに呼び出された。

結婚するから祝え、という。オレは渋々都内から片道一時間半かけて、大

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夏の空はどこまでも高くて Vol.2

夏の空はどこまでも高くて Vol.2

クライアントとの食事はいくら高級なフレンチでも全く楽しむという余裕がない。私は相手に気付かれないよう静かにそっとため息をついた。

今流行りのジビエ料理にはコクのあるフルボディの赤が合う。こんなに贅沢な食事とワインはとっておきの相手と楽しんでこそ、その価値を享受できるというもの。心に余裕と潤いがなければ、単なる堅苦しい食事会だ。

「今回のプロジェクトは絶対に成功させなければならない。今夜はその前

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夏の空はどこまでも高くて Vol.3

夏の空はどこまでも高くて Vol.3

「カナタは相変わらずやなあ」

「ミホはまた太ったよね」

「呼び捨てにせんとってってば~」

ミホとカナタばかりがしゃべっている。

というか、いちゃついている。何の会だよ、おい。

懐かしい顔ぶれが、懐かしい店で。十年ぶりの再会のあっけなさに、なんというか時間が巻き戻ったような不思議な感覚を持っていた。

あの頃は酒量をセーブして、さほど飲まなかったミホがあっという間に一杯目のビールを空けるの

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夏の空はどこまでも高くて Vol.4

夏の空はどこまでも高くて Vol.4

2010年、大学4年の春。

2年前にアメリカで起こったリーマンショックの影響は直接的には感じないものの、じわじわと長引く不景気の中で生きてきた私たち世代は就活にもその傾向が色濃く見てとれた。「新卒一括採用」という日本独自の風潮は、ある意味最初で最後の大チャンスであることは依然明らかだった。安定志向が根強い親に育てられて刷り込まれた価値観は、大手企業へ就職することが誰もが持つ憧れとして、また漠然と

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夏の空はどこまでも高くて Vol.5

夏の空はどこまでも高くて Vol.5

ナミさんの店は中央に各辺の長いコの字型のカウンターがあって、両脇、店の隅にそれぞれ二名席と四名席のテーブルがあった。

オレたちは四名席のテーブルに通された。

おしぼりを受け取り、ナミさんに明るい声で「なににするー?」と問われた。

「えっと、日本酒、ガツッとしたやつ」

「私赤ワイン、ガツッとしたやつ」

オレたちの注文にナミさんがケラケラ笑う。

「そうだ、二人関西人じゃん。しかも好み合うね

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夏の空はどこまでも高くて  Vol.6

夏の空はどこまでも高くて  Vol.6

場所をナミさんの店に移して、改めてリョウジの正面に座った。

10年…。ついこの前のようにも感じるし、もう随分昔のことのようにも思える。こうして目の前にいるリョウジの眼に今の私はどんな風に映っているんだろう。聞いてみたいような、聞きたくないような。確かなのは、私のほうがリョウジにもう一度会いたい気持ちが強かったということだけ。なんだかくやしい。

手酌で日本酒を飲むリョウジがやけに大人に見える。私

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夏の空はどこまでも高くて Vol.7

夏の空はどこまでも高くて Vol.7

ミホがオレの腕の中にいる。

お互いの体温を感じて、しばらくそのままでいたあとで見つめ合った。

ミホの目が、何か言葉を求めていた。

オレはそれが怖くて、ミホの両の頬を右手でつかんだ。軽く押しつぶすように握って言った。

「ぺこちゃん」

するとミホが笑って、オレも笑って。するっとミホの両腕がオレの首の後ろに回った。

「リョウジのアホ、あんなに好きやったのに。なんでどっかいってまうのよ」

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夏の空はどこまでも高くて  Vol.8                                   ~Final episode~

夏の空はどこまでも高くて  Vol.8                                   ~Final episode~

河原で飲んだビールは、10年前とは違った味がした。

私が会いたいと思ったこと、ずっとリョウジが好きだったこと、またやり直せるかもしれないと思ったこと。もしかしたら全ては二人に用意された、初めから決まっていた運命だったんじゃないか…。そんな淡い期待とは裏腹にリョウジはキッパリと言った。

運命なんて信じない、と。

その瞬間、現実に引き戻されてこれまでの思いが一瞬にして崩れ落ちた。

柔らかな夜風

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それは偶然なんかじゃなくて Vol.1 ~プロローグ~

それは偶然なんかじゃなくて Vol.1 ~プロローグ~

それは偶然が幾つも重なったから。

お互いに彼氏、彼女のいる身で定期的に飲みに行ってお互いの恋愛の進行状況を報告しあって。くだらない各々の恋の悩みを打ち明け合って慰め合って。

「大丈夫だよ。焼きもちやいてるだけだよ。彼女はあなたのことが大好きだから、ちょっとイジワルしてるだけよ。」

そう言って慰めたけど、ホントは拗れて別れちゃえばいいのにって思ったの。

私も負けじと彼とのノロケ話をあなたにし

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それは偶然なんかじゃなくて Vol.2

それは偶然なんかじゃなくて Vol.2

それは偶然がいくつも重なったから。

交際している恋人のどうでもいい愚痴を言っていた。それに合わせて笑って、彼女は大丈夫だよとかなんとか、慰めてくれていた。

そう、そういう答えが来ることを知っている。オレは自分で自分をずるい男だなと思う。昔から、相手に望むことを言わせることが出来る。それは後天的に得た心理学のテクニックとかではなくて、オレが純粋に元から持っているもの。

だからその日、店を出る前

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それは偶然なんかじゃなくて Vol.3

それは偶然なんかじゃなくて Vol.3

若いカップルが仲良く店を出ていくとドアの外から彼女の可愛らしい高い声が聞こえた。

「やだぁ、降ってるね。傘もってないよ。」

察したマスターが慌ててビニール傘を1本手に取り二人を追って外へ出た。

雨か…。

そう言えばあの人と初めて出会った時も雨が降ってたな…。

3杯めは重めの赤にしよう。もう少ししっかりと酔いたい。

7才年下のジュンヤと飲むときは軽く食事をしながらカジュアルなワインをグラ

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それは偶然なんかじゃなくて Vol.4

それは偶然なんかじゃなくて Vol.4

 ナオ。オレがナオさんをそう呼ぶことを許されるのは、そういう時だけ。いつだったかナオさんはオレの気だるい体を抱き締めて言った。ジュンヤってすごくピュアだよね、と。

 ナオさんの前に付き合った恋人は、すごく感情の起伏の激しい女性だった。喜びも、怒りも、全部大きくて、重くて、でもナオさんはその真逆。感情を見せてくれない。本音が見えない。だから思わず言ってしまった。

「ナオさん、誰のこと考えてる?」

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それは偶然なんかじゃなくてVol.5

それは偶然なんかじゃなくてVol.5

「ナオ……ナオ…」

遠くでかすかに声が聞こえる。

…誰?

意識を呼び覚まそうとするけれど、昨晩飲み過ぎたせいで頭は朦朧としていて目が開けられない。

ここは…何処だっけ?

目を閉じたまま声のする方へゆっくりと腕を伸ばしてみる。

榊さん…

「ナオは飲み過ぎすぎると余計に朝がダメだなぁ。だから言ったろ?最後の赤はやめとけって。」

私の記憶の中の声が聞こえる。榊さんといるときは安心していつ

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それは偶然なんかじゃなくて Vol.6

それは偶然なんかじゃなくて Vol.6

 自室のベッドの上、オレの方が先に目を覚ました。

 ラナンキュラスが窓際で笑っているように思えた。そうだ、笑っていよう。笑っていれば大丈夫。そう、大丈夫なんだ。

 まつ毛の長いナオさんの頭に触れて、名前を呼んだ。

「ナオ…」

 返事はない。もう一度。

「ナオ…」

 うっすら目を開けた状態でナオさんの手が宙を触る。

「サカキさん…」

 ナオさんのその言葉に、全身の血が凍った気がした。

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