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それは誰にとって「持続可能」なのか

南米コロンビアの先住民族ワユー(Wayúu)と、その人びとが居住するラ・グアヒラ(La Guajira)県で、ここのところ気になって追っかけている事象があります。それは、風力発電所の大規模な建設計画です。

2020年1月14日 セマナ・ソステニブレ(Semana Sostenible)誌

2020年3月22日 エル・エスペクタドール(El Espectador)紙

ラ・グアヒラ県の北部カボ・デ・ラ・ベラ(Cabo de la Vela)には、ヘピラチ風力発電所(Parque Eólico Jepírachi)があります。Jepírachiとは、先住民言語ワユーナイキ(wayuunaiki)で、「北東からの風」を意味します。これはコロンビア国内で最初の風力発電所で、2004年から運用されています。ここは、ツアーで立ち寄るうちのひとつの観光スポットにもなっていて、実際に、僕も、県内北部地域アルタ・グアヒラ (Alta Guajira)を巡るツアーに参加した時に立ち寄りました。表題の写真は、その時のものです。

この風力発電所は、ワユーのコミュニティのテリトリー(resguardo)に建設されました。当然、そこで暮らしていた人びとに対する補償として、水供給施設・保健衛生・教育の提供、生業(漁業や手工芸品)の支援などが実施されることとなったわけですが、エル・エスペクタドール紙の記事によれば、どうやらそうとも言えないようです。以下、記事の内容の一部を要約して引用しますと、

政府機関のエネルギー・ガス規制委員会(Comisión de Regulación de Energía y Gas: CREG)による、2019年6月の風力・太陽光発電などの運営基準改定を受けて、ヘピラチ風力発電所を運営するメデジン市公益事業会社(Empresas Públicas de Medellín: EPM)は、同発電所が基準を満たすことができないため、2020年1月より電力供給を中止した。これを受けて、現地のワユーコミュニティのリーダーは、支援などが受けられなくなることへの危惧を表明している。また、そもそも約束していたプロジェクトでさえ、十分に実行されてはいないと抗議している。

ラ・グアヒラ県には、世界最大級の露天掘り炭鉱セレホン(Cerrejón)があるのですが、そこにおいても、土地所有権、補償、環境破壊などに関する問題が生じています。他方、近年の地球温暖化対策への関心の高まりから、世界的に石炭発電をとりやめる動きがあります。コロンビアも、セレホン炭鉱から再生可能エネルギー事業へとシフトしていくのでしょうか。いずれにせよ、そのどちらもが集中しているのが、ラ・グアヒラ県と言えます。

そんな中、新たな風力発電所の建設計画、しかも大規模な計画が持ち上がっています。そして、その風力発電所のほとんどが、ワユーのテリトリーに建設されます。セマナ・ソステニブレ誌の記事を一部要約して引くと、

2031年までに少なくとも65か所の風力発電所(2600機)が運用され、600以上のワユーコミュニティ(テリトリーの98%)がその影響を被ることになるだろう。また、大規模な風力発電所の建設による、景観(観光業)、騒音(健康被害)、自然や動植物への影響の大きさも指摘されている。

そして、僕は、文化の観点からも、この風力発電所建設計画に注目しています。風力発電所は、まさに「風」と「大地」を利用・占有するものと言えるのですが、ワユーの宇宙観とどう折り合いをつけることができるのでしょうか。テリトリーというのは、いわゆる空間的なもの、だけではなく、文化・慣習などを含む、精神的・観念的なものとは切っても切り離せません。

セマナ・ソステニブレ誌に、ワユーコミュニティリーダーのひとりArmando Custodio Wouriyu Valbuena氏による、企業が真実を言わないことへの糾弾の言葉があったので、最後に、以下に引用したいと思います。

企業側は、風の精霊(Purash Jouktai)と太陽の精霊(Purash Kai)を利用する権利(usufructuar)が欲しい、(電力を)生産するごとに100ドル稼げる、それらすべてを我がものとしたい、それが真実。だが、彼ら(企業)は、決してそのことを言わない。

※記事中の発言では、dios(神)と表現されていますが、ここでは「精霊」としました。

真心こもったサポートに感謝いたします。いただいたサポートは、ワユーの人びとのために使いたいと思います。