クサギカメムシさん、いらっしゃぁい

好き、なんかじゃない。だけど総合するとけっこう多くの時間をカメムシ情報のサーチに費やしている私だ。だって家に出るんだもの。知りたいことを知りたくて、手がかりはないかとネット上のカメムシ画像を丁寧に眺める。そんな時間が蓄積されていく。

ウェルカムではない中でのウェルカムという体験がある。
望んでいるわけではないが、選べるならばこちらを、という自分の気持ちに気づくことがある。私にとって、クサギカメムシがそんな存在であることを知った。

昨年の秋は家で毎日、キマダラカメムシと顔を合わせていた。その様子は、◆「カメムシ(を)レスキュー911」(2021年9月)、そして◆「振り返れば、カメムシ【ポエティックに2021年】」(2021年12月)に綴ってある。
後者は「このあたりのカメムシは、寒くなれば見かけなくなる」との考えを見事に覆した体験でもあった。
こんなにもカメムシを見た年はなかったねと家族と言い合いつつ、深まっていく寒さの中、「ほとんどどんな虫も家では見かけない」束の間のシーズンを過ごしていたのだが……。

まだ十分に寒かったある日のこと。正確に日付を覚えていないのだが、2月下旬か3月に入りたての頃だっただろうか。
私が夜、室内の階段を降りようとしながらふと付近の小窓を見ると、あたかも大きなカメムシのような黒っぽいシルエットが見えた。
そのシルエットは窓枠のそばにあったが、窓は開けていなかった。寒かったから、おそらくその日は日中もきっちりと閉めていたはずだ。しかし、目を凝らすとまぼろしではなくキマダラカメムシがいた。位置こそ窓枠の付近だが、普通に家の中にいる。特に隠れている様子もない。

えっ……。私は戸惑った。
自分が昨年キマダラカメムシに意識をフォーカスしすぎたから、こんな真冬の気候でもキマダラカメムシを「現実化」してしまったのだろうか。
というのも、これは私(およびうちの家族)には、「さすがにないよね」と思っていたくらい異例の体験だったのだ。そのとき家族はすでに寝ていたので、私はひとり静かにカメムシを外に出した。

そして、考えた。あれは明らかに立派な成虫で、今年になってから誕生したカメムシではない。ということは、越冬? どこで? まさか家の中で越冬していたんじゃないよね?
私の心には、昨年のラスト更新であった「振り返れば、カメムシ【ポエティックに2021年】」続編カメムシポエムとして「E.T.T.O.U」というタイトルがすぐさま浮かんだが、結局そのポエムは書き下ろさず今を迎えている。

キマダラカメムシを知らない人向けにおさらいすると、彼らは黒地に黄色い模様のあるカメムシで、「国内に生息するカメムシ亜科最大種である(キマダラカメムシ - Wikipediaより)」だそうだ。確かに、彼らは体が大きい。家で見かけると、ちょっとなんか虫がいるのかな? なんて見間違える感じではない。目を引かれるしっかりとした体躯だ。そして実際見ると、配色もなかなかに派手なのだ。(画像も同Wikipediaより)

画像1

私が越冬キマダラに遭遇したあたりには隠れられるような場所がなく、付近に家具もなく、家中の窓のカーテンは年末に外して洗濯していたので、なおかつ室内のどこかに潜んでいたとはあまり考えたくなかった。
「外で越冬したカメムシが、偶然家の中にいた。だって春も近いからね!」というシナリオを私は即座に作り、そうだといいなぁと願った。


カメムシの種類に対する好み

これまでのカメムシ記事でもほのめかしてきたので、既読で察しのいい方は気づいているかもしれないけど、私はキマダラカメムシがそんなに好きじゃない。自分好みの虫かどうかといえば好みじゃないけれど、強く嫌がるほどでもないかなという程度。
ただ、昨年はこの大きく存在感のあるキマダラカメムシが度々室内に入ってきていたため、外に出す作業が多すぎてうんざりしていた。

私は、室内で虫を見つけたときにはたいてい捕獲して外に出す。室内で暮らしているクモなどだけ、例外としている。
キマダラカメムシを外に出す作業の繰り返しの中で、私は否応なしに「この虫に対する自分の気持ち」を自覚していたのだが、どうもカメムシだからというよりキマダラカメムシが好みではないのだ。

容姿の好みになるのだが、黒ベースに黄、という配色が私はあまり得意じゃない。キマダラカメムシの外見はかっこいいと人気があるという情報をネット上で見かけた。単純に、私個人の好みではキマダラカメムシのデザインがどちらかというと苦手というだけのことだ。さらには大きさも、私にとっては「うーん……」という感じになっている。

また、これは他のカメムシにも言えることだが、残存するにおいを出すのも困るところだった。
キマダラカメムシはとてもおとなしく、じっとしていることが多いので、捕まえるのは簡単だ。私はどんな虫にも用いやすくて相手を傷つけないという点で便利なので、透明のプラスチックカップをかぶせて捕獲することが多いのだが、あまりに出現回数が多いとそれも面倒になった。

そこで、素手に近い形で、ふぁさとティッシュペーパーを介してカメムシの肩(と言っていいのか?)をつかみ、持ち上げるということをしてみたのだが、私も慣れていないものだから下手だったのかもしれない、そのキマダラカメムシにはにおいを出させてしまった。

私の経験したカメムシのにおい

カメムシのにおいについて、つい昨年までの私と同じように「かいだことがないんだけど、どんなにおいなの?」と複数の友人が興味を持って私に質問してきた。
少なくとも私がかいだことのあるキマダラカメムシたちのにおいは「パクチーに似てるよ」と答えていたのだが、こう付け加えることを忘れない。
「パクチーの爽やかさだけを除いて、動物が分泌する油のにおいにした感じかな。少し、ガスみたいな……」
なかなか消えず残存するあのにおいは、ただのパクチー風の香りではない。これから体験する人は注意。

というわけで、私はにおいへの警戒から結局、捕獲の際は面倒でもカップを上からかぶせることにし続けた。ほとんどのキマダラカメムシはそうやって直に触らずにそっと扱えばにおいを出さない。

カメムシは種類や個体によってにおいが違うそうだから、においを出させてしまったときにはしっかりチェックしておきたいものだ。

クサギカメムシさん、いらっしゃぁい

ここまではキマダラカメムシの話中心だったが、ある意味本題はここから。

つい先日のこと。居間でテレビを見ていた母が、大声で私の名を呼んだ。
なにごとかと駆け付けると、「カメムシがいきなり飛んできたの! ほら、そこの壁にいる!」
……ん。今度は春のカメムシの活動か。おそらく庭から入ったのだろう。

私はもはや動揺することもなく、仕事道具(プラスチックカップ)を取りに行った。その間も母は「あ、また飛んだ! どこか行っちゃうかも!」などと叫んでいる(母は虫が大の苦手。私もそんな時期があったのだが)。

私が戻ってくると、カメムシは壁を歩くのに苦戦していた。心なしかいつもよりかわいく見えるし、なんだかずいぶん活発なカメムシだ。母の前に飛んで現れたというのもそうだが。これまでのカメムシは、見つけたときはじっとしているか、せいぜいゆっくりと歩いているかだった。
さらに珍しいことに、私がカップをかぶせて捕獲した後も、このカメムシはカップの側面をよじのぼるなどして活力が旺盛な様子を見せた。私の経験では、キマダラカメムシがそんなことをしたことはなかった。

なんだろう、これまでのおっとりしたキマダラカメムシとはずいぶん違うなぁ。個体によってこんなに性格が違うんだろうか? 体もひと回り小さいし、成虫になって間もない若いカメムシなのかな? ――そんなことを思いながら外に出て、カメムシを放した。

家の中に戻り、さっきのカメムシの「腹」を見たとき違和感があったことを思い出した。その映像がよみがえる。いつもと違うな、と思ったのだ。
……あれ、もしかして、体格も違うし、あれってクサギカメムシだったんじゃない? そんなアイディアが浮かび、はっとして私は、ネット上のクサギカメムシの画像と念のためキマダラカメムシの画像とを色々見比べてみた。

やはりだ。あれは、クサギカメムシだったのだ。

画像2

画像は「クサギカメムシ - Wikipedia」より。

「カメムシ(を)レスキュー911」で言及したことのおさらいになるけれど、クサギカメムシとキマダラカメムシは漫然と見ていたら混同する程度に似ている。

今回は、あまりに私が昨年多くのキマダラカメムシを見ていたため、さほどしっかり観察していなくても「あれ?」と、違いに気づいたわけだ。
行動については個体差があるかもしれないので何とも言えないが、大きさと色、それから裏から見たときの腹の違いが決定的だった。

私が上の過去記事内で、これまで家で見たカメムシがクサギカメムシかキマダラカメムシかしばらく迷っていたのは、「そのどちらもが家の付近で生息していたから」だと、やっとわかった。
両方いるのかもしれないとは思っていたが、意識的に観察するようになった秋からはキマダラカメムシしか見ていなかったので、確信が持てなかったのだ。でも、確かにもう少し地味な、アースカラー寄りの、ひと回り小ぶりなカメムシを見た気がしていたし、家族も同じことを言っていた。
クサギカメムシの色味は個体によってやや異なるようだが、私がよく見ているのはくすんだ茶色から黄土色、ベージュがかった色だ。それでも、どちらかというと黒色ベースのキマダラカメムシと混同できるほどに曖昧な色ではある。

そして私はこの色、この大きさを好ましく思っていて、私が遭遇した中ではクサギカメムシの方が好みなのだ。
カメムシに今後も家にお入りいただきたいとは思っていないが、いずれかのカメムシを選べるとなれば、キマダラさんよりもクサギさんとの遭遇を私はお願いしたい。

この度の経験からして、ひょっとするとクサギカメムシの方が動きは活発な可能性がありそうだが(家族も、ぴょんぴょん跳ねるカメムシがいると以前話していた)、それでも私の心のウェルカム度合いは断然クサギカメムシ。
カメムシに興味がない人ならほとんど似て見える、その程度の違いでも、私はクサギカメムシには抵抗を感じずに向き合える。それどころか、ちょっと湧いてくる「かわいい」という気持ちに我ながら驚いてしまう。

ちなみに、母に「今日いたカメムシはクサギカメムシであること。家の付近にはクサギカメムシとキマダラカメムシとの両方が生息していて、時期によってどちらをよく見かけるかが違うのだと思う」ということを報告すると、母はこう言った。
「どうでもいい……カメムシなのは同じだから」

普段、気丈で活発な性格の母だが、「生きているのが嫌になった」とも言った。自分の苦手な虫や両生類などと(特に家の中で)遭遇すると、そんな気持ちになるらしい。

かつて、私は一部の虫が本当に苦手になっていた時期があるので、そういう気持ちは理解できる。
これからも家の「カメムシ係」を私が勤めることは続くだろう。
そして、そんなことをしているとまたもやカメムシについて気になることが出てきて、カメムシ情報を熱心にサーチしてしまいそうだ。


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