新津意次短編集「ぶたを抱いた日」について

 ぼくが所属する「日本ごうがふかいな協会」には活動している書き手が2名義ある。ひざのうらはやおと、新津意次だ。
 そして、この度本協会の主筆として小説創作を中心に担うこととなる新津意次の初めての短編集が、この度刊行される。編集しているのはぼく、つまりひざのうらはやおであるので、氏の全原稿を確認したうえで現在編集中である。
 そこで、本作の広報の一環として、新津意次の初短編集「ぶたを抱いた日」について、刊行前レビューを行おうと思う。 

総論


 新津意次という書き手をぼくが評するのは少し難しい。それは鏡に映った自分自身を的確に表現することと似ている。しかしながら文章上はぼくと新津意次は別人であるので、あえて別人であるものとして氏を評することとする。
 本協会の新人書き手であるが、実力はひざのうらはやおとほぼ同格どころか、その上をいく存在であるといっていいだろう。氏曰く、しばらくは純文学だけやっていきたいということであり、それは氏の紡ぎ出すストレートな文体に合っているように思う。また、氏は書き手としてのひざのうらはやおに対してある程度のリスペクトがあり、ぼくの文体をまねているものも散見された。興味深いところもある一方、新津意次本来の良さはひざのうらはやおのそれとは別の部分にあることも、本作を読んでわかったことである。
 収録作すべてに共通することは、タイトルがかなりシンプルで、小説そのものを表していることである。また、文体としては硬軟織り交ぜてはいるものの、ひざのうらはやおと比較するとかなりクラシック方面に寄せており、純文学という点においてはよりハードコアな側面を持つ作品に仕上がっている。ひざのうらはやおの持つ、ある種の「ひねくれた」文体は一作を除いてなりを潜めており、全体を通じてまっすぐな書き方となっていると思われる。間違いなく、本協会にとって新津意次は必要な人材であることを確信した作品であった。
 以下、各作について評する。なお、本作の編集についてはぼく、つまりひざのうらはやおが行っている関係で、収録順や効果については主語がひざのうらはやおになっている旨申し添える。



「長すぎる書き出し」


 タイトル通りの掌編。手紙だろうが小説だろうがこれが書き出しでは長すぎる。新津意次の名刺代わりの作品と思われるため、巻頭に配した。白昼社主催の文芸誌「オートマニュアルVol.3」に寄稿しており、当該シリーズは珠玉の文芸誌であるため是非ご覧になっていただきたい。


「ぶたを抱いた日」


 表題作。千葉文学賞に応募したものであり、難関とされる二次選考を通過した作品でもある。津田沼周辺の団地に住む若い夫婦のなにげない日常を描いたもの。本作の中では最も高い評価を受けるであろう、完成度の高い短編と感じた。
 なお、投稿時は「豚を抱いた日」となっており、そのバージョンを投稿しているエブリスタも同じタイトルとなっている。今回にあたりなぜ「豚」をひらいたのかは判然としないが、何らかの判断があったものと思われる。千葉文学賞に向けられた作品らしく、(作中では明言されていないが)イオンモール幕張新都心と(おそらくは)前原団地(跡)周辺という主な舞台を新京成電鉄でつないでいる。それ以外にも千葉県北西部に住んでいる人間としては細かいローカルネタが多いように感じた。ただこれは地元ネタとしても細かく、気づきにくいかもしれないくらいささやかである。もちろん、千葉県北西部に地縁がなくても十分読むことのできる小説に仕上がっている。
 なお、前述したとおりエブリスタでは初稿版(千葉文学賞投稿版)を読むことができる。


「救命ボートは工事中」


 新津意次の初めての公開作。これはひざのうらはやおの短編「春なのに工事中」を新津意次なりにリライトしたものと聞いている。確かに出てくるモチーフやストーリーにどこかそれをほうふつとさせるものがあるが、結論からいえば全くの別物に仕上がっている。拙著(拙著といってしまうが)「春なのに工事中」はダウナー、かつ、救いがない展開となっていく一方、当作のラストは唐突ながら鮮烈で、新津意次の作家性が垣間見えるものとなっている。
 こちらも初稿版をエブリスタで読むことができる。

 また、元となった小説「春なのに工事中」は短編集「順列からの解放」に完成版を所収している。現在ひざのうらはやお作品は大セール中であるので、こちらもぜひご覧になっていただきたい。

「ひかりよりも、もっと」


 当作は「ぶたを抱いた日」に対するアンサーとして書かれたものとのことである。しかし、収録バランスを考え、あえて続きにせず、2つの独立した小説として配置した。
 当作の特徴はなんといっても序盤で顕著となっている「ひざのうらはやおの模倣」につきる。「ぶたを抱いた日」で描かれている「ぶた」は、まさにひざのうらはやおの隠喩であるかのようだ。誰が「ぶた」じゃ。しかし当作は、やはりひざのうらはやおそのものではない。これは徐々に読み進め、中盤以降の展開で明らかになる。新津意次の自我も、ひざのうらはやお同様、なかなかに強固であることを確信した作品であった。
 こちらも初稿版はエブリスタに掲載されている。

「時雨、夜を駆ける」



 巻末作として、新津意次に書下ろしを要求したところ、当作が返ってきた。一読して「なんじゃこれは」と思う。ぼくがかつてオートマニュアルVol.1に所収されているエッセイで書いた「じゃがいも君」がそこにいるではないか。しかも事細やかに書いてやがる。それでいて話はどんどん奇妙な方向に転がっていく。坂からじゃがいもを転がすかのようである。虚実織り交ざる文章力、という点でぼくと新津意次は共通しているが、氏はより自然にファンタジックな世界観を演出できるのではないかと思った。それでいて終盤のもの悲しさと妙なリアルさはやはり共通している。表題作に次いで押していきたい作品ではあるが、本作を手に入れた方のみの「ボーナストラック」としたいので、他の場所に掲載することを控えてもらっている。当作だけでも、本作を求める理由にしてよいくらいの傑作であるとぼくは思う。

 以上が、全作のレビューである。収録順にレビューを行った。

頒布価格とその方法について

 本作のサイズと頒布価格は以下の通りである。
 A6 90-100頁前後
 一般頒布価格 900円 800円に変更予定
 事前予約価格 600円

 本作はほかの協会頒布物と同様、事前予約と定期購読を中心に頒布していく。現在定期購読の人数と見本誌を合わせるときりがよい数字になるため、事前予約が見込めなければ一般頒布を見合わせる可能性がある。定期購読に申し込んでいないが、本作を手に入れたいという方は事前予約をお勧めしたい。事前予約は2月末をめどに締め切らせていただくので、それまでにこちらのフォームからお申込みをしていただければと思う。
追記:募集は終了しました。

 事前予約の方法は、フォームに連絡先を記入するだけである。架空ストアの「パスワード販売」方式を使用するので、必要数を納品次第、パスワードと当該販売ページを連絡するので、そこからお買い物をしていだたく、という仕組みになっている。連絡先は原則メールアドレスを推奨しているが、協会広報アカウントと相互フォローの方はTwitterのアカウント名でも受け付けている。もちろんひざのうらはやおと相互フォローでもお送りすることは可能だ。最近の仕様でDMは相互フォローでないとやりとりできないようなので、注意していただければと思う。
 これを機に定期購読したい、そもそも定期購読ってなんやねんずる過ぎるやろがい、という方は、協会の広報ページに定期購読についてまとめてあるので、そちらを参照されたい。

 こちらについても現在お申込みを若干ながら受け付けている。定期購読の場合は、本作以降もある程度の新刊を自動的に手に入れることができる。こちらも検討いただけるとありがたい。

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