一歳半の息子がまさかの卵アレルギーだった
板前さんと店員さんが気持ちよく有機的に動く、和食屋さんのカウンター。じゃらり、という音とともに目の前で次々としじみのお味噌汁がよそわれ、手際よくご飯が盛られ、奥から出てきた焼き魚とお盆の上でひとつになり、またひとつ、またひとつとお腹を空かせた戦士の前に運ばれていく。
普段冷凍食品を詰めたお弁当をお昼にしている私にも、たまにはこんな贅沢な時間がある。
ああ、私の目の前にもやってきた。今日は西京焼きをいただく。付け合わせのおひたしと、お漬物が既にもう美味しい。
今日は午後久しぶりに営業に出るから、ちょっとした自分へのエール。
おいしく定食をほおばり幸福にひたりつつ、腕時計を会社に置いてきてしまったので時間の確認にスマホを開く。
と、四角い表示に、「保育園」の文字がみえた。
***
なんと、息子が卵アレルギーだった。
一歳半の今になって判明した。
保育園からの連絡は、お昼にかきたまスープを食べたら口の周りから首にかけて赤くなったというもの。
お腹や全身までは広がっておらず、熱はない。
呼吸等も問題ない。
痒そうなそぶりもみせていない。
スープ以外のご飯は全部食べた。(さすがだ。)
今すぐどうというわけではないが、ご報告、ということだった。何か変化があればまた連絡をくれるという。
結局、その後急変連絡はなく、予定通り営業をこなし、いつもの時間にお迎えに行った。
息子はいつも通り元気だった。
聞けば、食後のお昼寝明けには赤みも引き、その後元気に過ごしていたという。
しかし、先生がデジカメで撮ってくれた写真を見ると、なるほどこれはただ事ではない。
デジカメの画面を撮らせてもらって、そのまま病院に寄ることにした。
結果「うん、これは卵アレルギーだね」と、サクッと診断が下ったのだ。
***
実は「ん……?」と思うことは前にもあった。
離乳食で卵を食べた時に、ほんの一瞬頰が赤くなった。
しかしあまりにも一瞬で、うんちを踏ん張っているのかな程度の、気のせいかなと思うほどささやかなものだったので、即受診はせず、試しにまた食べさせてみたところ特に問題はなかったのでそのままにした。
さらに、実は少し前にも、保育園でかきたまスープを食べた時、口まわりが少し赤くなった、と言われたのだ。
もしや、と思い家で改めて卵を食べさせてみたところ大丈夫だったので、元々やや肌が荒れやすいたちであるしと、このときもまた様子見とした。
実際息子は、ゆで卵や炒めた卵なら3/4個くらい食べても平気だったし、卵ボーロも、ファミレスのオムライスなんかも余裕で平らげていた。
だから今回のことにはびっくりした。
どうやら加熱してあれば大丈夫だが、半生だったりすると反応が出るらしい。
病院では2歳になったら血液検査をしてみようか、ということで落ち着いた。
はっきり言われてホッとしたものの、「じゃあ今後は加熱したもののみ、ってことですかね」と聞くと「いや、食物アレルギーが見つかった場合は、3歳までは一応止めてます」と言われてしまった。
そっかぁ……除去生活のはじまりかぁ……。
***
人間は案外楽観する生き物だ。
日頃マイナス思考気味な私でも、「まさかね」と思ってしまうのだ。あるいはショックのあまり、思考が停止してしまう。災害時に逃げ遅れたりするのも、そういった人の心理が背景にある。正常性バイアスというやつだ。
診断が降りたのち、私もこれまで「もしや」と「まさか」を行き来する中で、もっと早く気付ければよかった、楽観してしまった、と自分を責めた。
そして病院を出た後、色々調べながら、卵を食べさせないとして、加工品等も完全除去なのか、どの程度まで避ければよいのだろう、と今更ながら疑問が湧いてきた。
ちゃんと確認すればよかった。事前に調べて、ある程度考えおけば。ああ、冴えてない。
と、色々動揺したけれども、あとの祭り。
ただ、夫がLINEで「子供の頃は良くあるみたいね。重篤じゃなければ、しっかり加熱したものを少しずつ食べるようにしてれば6歳ごろには大丈夫になることが多いらしい。」と冷静に返してくれたので、随分落ち着いた。
細かいところは、また今度病院に行った際に聞いてみよう。
悩みを分かちあい、冷静な言葉をくれる人が側にいて良かった。
夫には本当に助けられていると思う。
その冷静な夫も、帰宅後、反応時の写真を見ると心配そうに息子に駆け寄り、か細い声で名前を呼びながら息子の寝顔を眺めていたので、実は相当心配していたんだと思われる。
そんな姿がちょっとかわいかった。
***
卵アレルギーがわかってからも、息子は元気だ。
そりゃそうだ、我々の認識が変わっただけで、息子は何も変わっていない。
それでも親としてはそれなりに動揺し、急に食品表示をガン見するようになったのがちょっと面白い。
認識が変わるだけで随分世界が変わる。
幸い、今のところ重篤な反応は出ていない。この調子で成長とともにゆっくり治って行ったら嬉しいし、そうでなかったら花粉症のように上手に付き合おう。
もしや、と思う機会はあったものの、結局今の今まで気づいていなかったので、今回わかって本当に良かった。
保育園でも、迅速に連絡をくれ、写真を残し、様子を注意して見てくださってとてもありがたかった。
まぁかきたまスープに半生な部分があったのかもしれないけど、息子も風邪気味だったり、口の横が荒れていてそこからアレルゲンが入りやすかったりしたので、色々なことが重なったのだろう。
わかってよかった。
日々よく食べ、時に大人のごはんまで奪って口にしてしまう息子だけれど、まだ消化機能は未熟で、色々気を配らなければならないんだと改めて気づく良い機会にもなった。
結構動揺したけれど、夫と「びっくりしたね」「うん」と話せただけでも心が軽くなった。
今後もどんどん弱音を吐いていこう。
そんな訳で金曜日はつかれきってしまったのだけれど、週末に「KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-」(以下キンプリ)を見たら卵アレルギーショックも、営業の仕事、もっと粘ればよかったかなとうじうじ思っていたのも全てが吹っ飛んでしまった。
キンプリは、世界は輝きに満ちているから大丈夫、という気にさせてくれる。
劇場を出てからも、一晩寝ても、二晩寝ても、あぁ世界には輝きがある、だから大丈夫、と思えるのだ。
ありがとうキンプリ。キンプリは人生に効く。
しばらくは久々に「ドラマチックLOVE」を聴きながら通勤する日々が続きそうだ。
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