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地域のつむぎ手の家づくり|「共同創造」の理念を掲げ移住者らのセルフビルドを全面支援。人・暮らし・地域を支える家づくり<vol.16/風の森建築:長野県原村>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

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八ケ岳山麓に広がる豊かな自然と眺望に恵まれた長野県原村に拠点を置く風の森建築(土谷昭司社長)は、国産の良質な木材を用いて、手刻みの技術をフルに生かした伝統構法により、健康で快適な住宅をつくっています。同社の最大の特徴は「セルフビルド支援」です。都会から移住し、「自らの手で家を建てたい」と望む人たちを全面的にバックアップ。「共同創造」の企業理念を掲げ、住まい手と共につくる喜びを分かち合いながら、移住後の暮らし方までサポートしています。

風の森建築が手掛ける住宅は、国産天然無垢材を100%使用し、手刻みの職人技術によって丁寧につくられます。合板を一切使わずに「本物の木の家」をつくることがこだわり。快適で健康的に暮らせるシックハウスゼロの住まいを提供しながら、国産材を活用することが、国内の森林を健全化させ、林業など地域の経済を元気にすることなどにも役立つことを住まい手に伝えます。

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天然無垢の国産材と漆喰に囲まれた清浄な空間は、
周囲の豊かな自然と一体となって、暮らす人の心と体を健康にする


柱・梁・桁の構造材は、長野県内をはじめ静岡など周辺の県の山から丸太で調達するスギ、ヒノキ、カラマツ、アカマツを近くの製材所で加工し、じっくりと天然乾燥して仕上げます。それを職人が墨付けをして刻み、「折置組(おりおきぐみ/渡り顎工法)」と呼ばれる伝統構法によって組み上げるのです。室内は壁を漆喰塗りや板張りの仕上げとするため、吸湿性や調湿性に優れる自然な素材に包まれ、清浄な状態に保たれます。

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良質な国産材を用いて高い技術力を備える大工が、伝統構法によって建てるセルフビルドを行う顧客をプロの知見と技でしっかりとフォロー

想いや喜び、困難も共有

同社の家づくりの核となっているのが、自らの手で家づくりをしたい住まい手に対するセルフビルド支援です。これは、同社が経営や家づくりの理念として掲げる「共同創造」を形にしたもの。住まい手の家族やその友人、つくり手の職人たちが、家づくりへの想いやものづくりの喜び、そして時には困難も共にしながら1棟の住宅を完成させるスタイルです。

自らの手で家を建てたいと望む人は、家づくりに対して様々な夢や希望を持っています。同社は、そうした夢を叶え希望に応えられるよう最大限の努力を尽くします。セルフビルドによる家づくりの工期は最低でも1年ぐらいはかかる上、施主の仕事や生活環境が途中で変化した場合、計画に大幅な変更や遅れが生じることも。これまで、さまざまな人たちの支援をしてきた社長の土谷さんは「つくり手側にも相当な覚悟が必要です」と語ります。

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風の森建築の土谷昭司社長

移住者仲間と会社をスタート

それでも土谷さんが自らつくることを望む顧客をサポートし、さらには家づくりを考える人たちに対してセルフビルドや家づくりの現場(作業)に関わることを積極的に勧めるのは、自身が身をもってその素晴らしさを体感したから。土谷さんは20数年前、栃木県で暮らしながら手掛けていた自営の仕事を辞め、「人生をリセットするような気持ち」で原村に移住。当時、建築の経験はまったくなかったが、「心機一転、新たな土地でリスタートする家は自分たちの手でつくりたいと強く思った」と振り返ります。

土谷さんは、いろいろなつてをたどって巡り合った設計事務所や工務店、職人の力を借りながら自宅を完成させました。その時に「こんな面白いものはない」と、自らの手で家をつくることの魅力にとりつかれたのです。

その後、自分と同じように、八ケ岳山麓の地に移住し、セルフビルドで家を建てた仲間たちと会社を立ち上げ、セルフビルド支援を前面に打ち出した家づくりをスタート。顧客の多くは、土谷さんたちと同じように首都圏を中心とするエリアから、この地に移り住んでくる人たちです。上棟までを風の森建築が手掛け、その先を住まい手が同社をはじめとする職人の手を借りながらコツコツとつくっていくパターンが多いそうです。

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風の森建築が住まい手のセルフビルドを支援してつくり上げた住宅

セルフビルドが人をたくましくする

一般的に住まい手(施主)にとってのセルフビルドのメリットとして、コストダウンなどが考えられますが、土谷さんは「一番大きな醍醐味(だいごみ)は、ものづくりの喜びや大変さを家族や仲間と共に分かち合いながら、絆を深められるところ」と強調します。自分自身や一緒に仕事をする仲間、これまで支援してきた住まい手やその家族の姿を思い浮かべながら「セルフビルドには人間をたくましく成長させる効果がある」と、しみじみと語ります。

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天然の素材でつくる"風の森"の家は、年月の経過にあわせて周囲の豊かな自然に、より溶け込むように風情を増していきますが、「それも住まい手の家に対する深い愛着やこまめなメンテナンスがあってこそ」と土谷さん。セルフビルドによって家をつくり上げた人たちは、「こちらがうれしくなるくらい家に愛着を持ち、大切にしてくれます」と笑顔を見せます。

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都会から地方に移り住む人にとっては、既存の地域コミュニティに溶け込むことがハードルと言われます。風の森建築では、顧客の多くを占める移住者に対して、家づくりだけでなく新天地での暮らしを楽しみながら、自然に地域になじんでいくためのフォローもきめこまかく行います。土谷さんは、原村の「地域通貨」の流通に立ち上げから主体的に関わるなど、地元の活性化への関心が高く、人脈も豊富。農業にチャレンジしたいという顧客がいれば畑を貸してくれる地元の人を紹介し、趣味のネットワークなどへの橋渡し役も務めています。ただ実際には、「家づくりの過程で職人や地元の人と交流しながら、どんどんたくましく積極的になり、自分で新しいネットワークを開拓して私が知らない世界をつくってしまうような人も多いんです」と、土谷さんはうれしそうに目を細めます。

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「家をつくる力を身につけることは、生きる力を養うことだと思います」と土谷さん。顧客の中には、自宅や母親用の離れ、趣味の工房の3棟をセルフビルドで建てたつわものもいるそうです。「1棟建てるごとに、驚くほどスキルアップしちゃって、3棟目なんて、うちでやったのは墨付けだけ。さすがに上棟だけは応援に行きましたが、基本的には刻みから始まり全て自分でやってしまったんですよ」と楽しそうに話します。

工務店や大工への理解を広げる

セルフビルドは工務店の仕事の領域を侵食するのでは―という考えに対し、土谷さんは、まったく違った見方をしています。「そもそもセルフビルドとはいえ、100%自分でやるわけではありませんので、工務店の出番がなくなるわけではない」と前置きした上で、「今のままでは大工の技術を次世代につなぐことができなくなってしまうという危機感を持っています。技術を継承するためには、職人の世界だけでなく、大げさに言えば社会全体で技術の大切さに目を向けることが必要ではないでしょうか」と投げ掛けます。「そのためには一般の人たちが、ものづくりの喜びや大変さを体感し、具体的な技術についても知ることは、長期的なスパンで見れば、きっと地場の工務店の存在や大工に対する理解を深めることにつながるはず」と土谷さんは考えています。

文:新建ハウジング編集部
写真:風の森建築提供

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