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地域のつむぎ手の家づくり|職人技を生かして「日本のすまい」をつくる<vol.19/サン工房:静岡県浜松市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

静岡県浜松市のサン工房は1982年の創業。最初は建築設計事務所として松井進社長が立ち上げました。当時は住まい手の思いをくみ取り、最適な暮らしのかたちを考えるプランニングに専念し、施工の部分は工務店に託していました。そんな中、一邸一邸の住まいづくりを重ねていくうちに、何かわだかまりを感じるようになったそう。住まいづくりのすべてにきちんと関わりたいという思いが強まっていき、1990年に設計・施工をする会社として再スタートしました。その後、2006年には板倉造りの倉庫や社屋「サン工房アトリエ」を建築。「日本の家をつくる」「昔ながらの家づくり」をテーマに日本の伝統的な要素をふんだんに取り入れ、永く住まえるやすらぎを感じられる家づくりを重視しています。

松井社長

代表取締役社長の松井進さん。

社名のサン工房のサンは太陽ではなく、「〇〇さんの家」のような、住まい手との距離の近さを表現しています。現在は設計10人、社員大工3人、現場管理5人、広報2人で、営業の専任者を置かず、設計者が直接お客様と話し「計画」を立てるという体制。設計については、お客様との年齢のギャップ、設計者の経験・技術力によるギャップを生まないよう、チーム制で対応しています。例えば、顧客が60代の場合は、20代だけだと年齢の差が開きすぎるため、同年代の松井社長や40代のスタッフもチームに加えているそうです。

施工の様子

「日本のすまい」をつくる

同社の基本デザインは、軒・ケラバがある「日本らしい家」。昔ながらの純和風住宅ではなく、洗練された「新和風」「現代数寄屋」「現代和風」といえるようないまの時代に合う住まいです。日本の家の特徴はまず勾配が付けられた屋根と軒の深さ。気候の特性から考えられたこの形は風雨を遮りながら、日射をコントロールするなど、機能性も優れています。また、材料、色、空間の高さには特にこだわっているそう。例えば、塗装の色は原色にせず、必ず複数の色を混ぜて使うなど、日本らしい佇まいを心がけています。

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日本伝統の数寄屋風の長い軒と軒柱、土庇の水平ラインが美しい
山嶺露さんれいあらわる」。

松井社長は、家づくりで最も大事にしていることのひとつに「場面」を挙げます。「住まいにとって耐震性能や断熱・気密性能、環境への配慮はもちろん大切ですが、私たちがそれ以上に守りたいのは、性能値の先にある住まいの意味や価値。家族と共有した時間、会話、風景-そんな「場面」が蘇るような家を真摯につくりたいと思っているんです」。また、設計で大切にしていることが「計画」。「多くの設計者がプラン=平面スケッチだと思っているようですが、プランは「計画」でありそれが一番大事」と話します。資金計画、敷地計画、どういう風に住まうかの暮らし計画、材料の計画を何度も吟味・検証して、計画に基づいて実施図面を起こし、施工図をつくり上げます。そうすることで、つくり手も住まい手も納得できる家ができると、「計画」も重要視しています。

また、先人から代々受け継がれている「職人技」を生かした住まいでもあります。現在は、ほぼ職人による100%手刻みで行われていますが、特殊な機械加工が必要な物件ではプレカットも併用して使うことも。継手のような伝統技術は性能であり、職人の地位の証であり、地域の文化でもある。それらを守っていくためにも、伝統技術を積極的に使い次世代に残すことが大事だと考えています。

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1階西に配置した白を基調とした和室。

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2階へ続く階段は吹抜け仕様に。
踏板なども幅広の無垢材を用いています。

地域に根ざし、職人たちの将来を見据えた取り組みも

2021年3月に構造材加工棟(加工棟1、加工棟2)、木材展示棟(木材会社とコラボし、原木、製材、杉用の乾燥機を展示)、災害備蓄倉庫、事務所が完成しました。敷地面積は1500坪ほどの中に、加工棟は23×8mと20×7mの2棟の大きな建物です。構造材加工棟は大工の刻み場ですが単なる作業場ではなく、そこに板金、左官、瓦葺きなどさまざまな若い職人たちが集まり、ネットワークをつくって仕事を共創・シェアしたり、職人たちがきちんと稼げる環境を一緒につくっていきたいと考えています。それが伝統技術や地域文化の存続、職人を増やすことにもつながるのではと松井社長は話します。

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同社の構造材加工棟。さまざまな職種の職人たちが
集まる場として使っていきたいそう。

SDGsにも積極的に取り組んでおり、脱炭素化に向けたゼロエネルギーの家、地域の「連携」や「互助」を意識した家づくり、地域材の活用を通じて、森林や生物多様性の保全に貢献するなど、さまざまな活動を行っています。また、万一の災害時には、自社のスタッフ及び家族の安全と生活ベースを確保しながら、OB客の復旧を最優先。「応急仮設住宅建設」の主幹事工務店として、万一の際にはいち早く仮設住宅建設の建築作業にあたり、被災者の方々に生活の場を提供するとしています。

家づくりの他にも、JBNの活動の発展形として一般社団法人静岡木の家ネットワークを立ち上げ、初代代表理事として地元の中小・零細工務店の活性化と、地元で信頼される家づくりに取り組んできた同社。2021年4月14日には一般社団法人遠州・匠社(えんしゅう・たくみしゃ)を自ら立ち上げました。新型コロナウイルスの関係で「人の交流」「人の技術」の大切さを再認識し、3月に完成した構造材加工棟に関わる3社(サン工房、木材会社、流通会社)を中心に、次世代の建築に携わる人・環境を地元で育てる取り組みを始めました。これからの地域や住宅業界のことを考えると、脈々と受け継がれてきた職人技術は決して廃れさせてはいけないと、今後は社員大工を増やして職人の育成にも力を入れ、地域に根ざした家づくりを続けていきたいと意気込んでいます。

文:「和モダン」編集部
写真:サン工房提供・原常由



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