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地域のつむぎ手の家づくり|豪雪地で「雪を楽しむ」暮らし“地材地建”の高性能住宅が実現<vol.33/フラワーホーム:新潟県十日町市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

国内有数の豪雪地帯として知られる新潟県の魚沼地域(南魚沼市・十日町市)で住宅事業を行うフラワーホーム(十日町市)は、HEAT20・G2、G3レベルの性能を備え、地域の木を用いてつくる“地材地建”の住宅により、地元の人たちが“やっかいもの”と手を焼く雪を、生活の一部として楽しむライフスタイル「魚沼な暮らし。」を提案しています。

社長の藤田満さんは「高性能な住宅が豪雪地帯の真冬でも『内と外がつながる』暮らしを担保し、それにより例えばウッドデッキや庭で子どもたちと一緒に雪と気軽にたわむれることもできるんです」と自社が提案する暮らしのワンシーンを紹介しながら「雪は、この地域の豊かな自然の恵みの1つ。冬も暮らしを楽しんでほしい」と思いを語ります。

社長の藤田満さん
雪を愛で、雪に親しみ、雪を楽しむ
地域の事情に精通し家づくりのノウハウを備える地域工務店は
環境的なデメリットをメリットに変換し、地域の暮らしを
より豊かにしていくポテンシャルを備えている

高性能住宅をベースに、雪に親しみ、雪を楽しむライフスタイルと家づくりを提案するフラワーホームの「魚沼な暮らし。」。地域特性を暮らし方として“翻訳”し、その暮らし方を実現できる住宅とともに提案するのは、地域工務店ならではの家づくりのスタイルです。

2020年の5月ごろから本格的にブランド化したところ、地域の人たちから大きな反響がありました。藤田さんは「自分もスタッフも驚いています。自分たちの提案に対する地元の人たちの“共感”の表れだと受け止めています」と手応えを語ります。

「魚沼な暮らし。」を具現化した住宅。高気密・高断熱で省エネ性が高く
コンパクトで可変性の高い空間が暮らしの豊かさを生み出す

「魚沼杉」外壁シンボルに

ブランドコンセプトや家づくりの基本仕様などについては、十日町市内出身の建築家で工務店経営のコンサルティングなども手掛ける石田伸一さん石田伸一建築事務所、新潟市)と協働しながら、スタッフ全員が参加して考えました。藤田さんは「同じ地元への想いを共有でき、いろいろな人や企業と垣根を越えて共に活動し、設計だけでなく経営や営業、現場の経験も豊富な石田さんからは、非常に大きなものを得ました」と感謝します。

また、石田さんが現在、十日町市内で林業・製材の経営も手掛けながら、地元産の「魚沼杉」の普及に取り組んでいることなども踏まえつつ、自社が以前から家づくりの柱の1つとして掲げる、地域の木を用いて地域の職人が地域の人の家をつくる”地材地建”を形にするため、新ブランド「魚沼な暮らし。」の住宅は、魚沼杉の板材による外壁を基本仕様としています。
さらにシンボリックな外壁材だけでなく、構造材なども可能な限り魚沼杉を用います。

「魚沼杉」の外壁は基本仕様。“地材地建”のシンボルとも言えるアイテム

トータルコストなど3つのポイントを提案

新ブランド「魚沼な暮らし。」の家づくりでは、顧客に対して、

  • トータルコスト

  • 高気密・高断熱

  • コンパクトで可変性のある間取り

の3つのポイントを重点的に提案。
魚沼杉の外壁材についても、デザイン的に美しく環境に優しいだけでなく、「長い目で見れば窯業系のサイディングなどに比べて耐久性やメンテナンス性に優れ、コストも抑えられる」といったトータルコストの側面からも自社の考え方を伝えます。

引き渡し後の10年間については「住宅資産管理制度」を活用して同社が設備機器などの不良・不具合の対応を保険で保証しながら、その後は施主が選択すれば自己負担で同保険を継続できることもトータルコストを抑える提案に位置付けています。

躯体は、HEAT20・G2を基本仕様とし、希望に応じてG3レベルにも対応します。全棟実測する気密はC値0.3㎠/㎡程度。高い設計力と、許容応力度計算による構造計算で積雪量を考慮して耐震等級2以上を確保することで、コンパクトでも狭さを感じず、豪雪地帯においても可変性のある開放的な間取りを実現します。

藤田さんは、石田さんの力を借りながら、社員全員で雪に親しみ、雪を楽しむという“自分たちが地域の人たちにおすすめしたい暮らし”を考え、形にしたことで、「家づくりにぶれない軸ができた」と感じています。

超高性能G3の平屋で見学会

昨年12月には「魚沼な暮らし。」のフラッグシップモデルとして、南魚沼市内に石田さんの設計によるG3レベルの性能を備える平屋の住宅を完成させ、今年の1月中旬までの間、予約制の見学会を行いました。

雪深いこの地域では、1階をRC造の倉庫などとして2・3階に居住空間を設け、積もった雪が自然落下する急勾配の屋根を持つ“3階建て住宅”が一般的ですが、そんな中で同平屋住宅は、見学の申し込みが40組以上という注目の高さを示しました。

藤田さんは、反響の大きさに驚きながらも「これまではこちらで提案しきれていなかったが、この地域にもスタイリッシュで使いやすい平屋暮らしへの憧れが強いというニーズがよく分かりました」と自信を深めたそうです。

「魚沼な暮らし。」のフラッグシップモデルとして、石田さんとのコラボにより完成させたHEAT20・G3の性能を備える平屋住宅(南魚沼市)
予約制の見学会には、予想を超えるたくさんの申し込みがあった

移住・古民家ニーズに対応 リノベでも「魚沼な暮らし。」

いま藤田さんは、新築住宅で大きな手応えをつかんだを「魚沼な暮らし。」をリノベーションの分野でも広げていきたいと考えています。背景には、魚沼地域での、移住やそれに伴い古民家を有効活用したいというニーズの高まりがあります。地域工務店として積極的にそういったニーズの受け皿となっていきたい考えです。

もう1つ深刻な事情として、昨今の原油や建設資材などの価格の高騰を受け、消費者にとって新築住宅の購入価格が非常に高くなってしまっている状況があります。藤田さんは地方においても、若い人たちを中心に「中古住宅を購入してリノベーションするというコストを抑えて豊かな暮らしを手に入れる現実的な選択肢が広がっていく」と見ています。

新築やストック活用など、地域のライフスタイルや家づくりは社会・経済情勢の変化や人々の価値観の変化に応じて変わっていきます。

藤田さんは、そうした変化にあわせて変えるべきところは柔軟に変えつつ、暮らしの提案や家づくりにおいて大切な思想・哲学はぶらさずにいきたいと考えているのです。

文:新建ハウジング編集部
写真:フラワーホーム提供


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