地域のつむぎ手の家づくり|故郷の木「魚沼杉」で美しい建物とまちをつくる ”想い” でビジネスを回す<vol.12/石田伸一建築事務所:新潟県新潟市>
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地域のつむぎ手の家づくり|故郷の木「魚沼杉」で美しい建物とまちをつくる ”想い” でビジネスを回す<vol.12/石田伸一建築事務所:新潟県新潟市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

石田伸一建築事務所(SIA)
代表・建築家 石田伸一さん

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〈プロフィール〉
1979年生まれ、新潟県十日町市出身。新潟市内のビルダーに勤務後、役員を経て2018年に退社し、石田伸一建築事務所(新潟市)を設立。建築設計のほか、企画住宅の提案や県外のビルダーのコンサルティング、まちづくりプロジェクトのプランニング、「魚沼杉」のブランディングなど幅広い活動を展開。事務所を持たず、自身と5人の社員(設計4・大工1人)がリモートで働く「ノマドアーキテクト」スタイルを実践。

建築家で石田伸一建築事務所(SIA、新潟県新潟市)代表の石田伸一さんは2020年、故郷の十日町市で、地元産「魚沼杉」の伐採から製材・加工、製品販売まで行う会社「UC Factory」※  を設立し、事業をスタートしました。

地域の木を地域で使う“地材地建”を掲げ、川上の林業から川下の建築・まちづくりまでトータルで手掛けながら、「魚沼杉の物語」を紡いでいます。石田さんを突き動かすのは、故郷の山と産業を守りたい、地域の住宅や建築物、街並みを美しくしたいという強い想いです。
※UC:魚沼産の杉=「Uonuma Cedar(シダー)」の略

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林業経営にチャレンジ

2020年の春、石田さんは、懇意にしていた谷内製材(十日町市)代表の樋熊要さんから廃業を考えていると聞き、ショックを受けました。それまで石田さんは、SIAで設計する建築の内外装や家具などで魚沼杉を活用しながら、それを広げていくブランディングを続けてきたのですが、「地域で頑張っている製材所を残すこともできないのか」と悔しさを感じたそうです。

その後、石田さんは、山を守り、製材所を生き残らせたいとの想いから、樋熊さんや地元の森林組合関係者など、さまざまな人たちに相談し、谷内製材から一部事業の譲渡を受け、生産設備などは借りる形で、素材(丸太)生産から製材・加工、製品販売までを行うUC Factoryを設立することを決意しました。谷内製材の社員4人も受け入れ、今年の春から本格的に事業を行っています。

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石田さん(左)とUC Factoryの社員になった谷内製材のスタッフ

石田さんは「何よりもうれしかったのは、僕らがこの事業を行うことを受けて、樋熊さんも谷内製材を続けていく決断をしてくれたこと」と語ります。

補助金を活用しないビジネスモデルを構築

「設計事務所に林業・製材業の経営ができるのか」と言われることも多いそうです。それに対し石田さんは「チャンスはあると思っている。全てを“川下(需要)”から逆算して、計画を立てることができるのが僕らの強み」とし、「経営の持続性を考慮し、あらかじめ補助金を活用しなくても成立するビジネスモデルを構築しました」と説明します。

年間12~16棟の設計を手掛けるSIAの需要で、UC Factoryの生産・販売計画量の7割を賄う事業運営を想定しています。残る部分についても、新潟県内の工務店や設計事務所でつくるコミュニティー「住学(すがく)」のなかに、すでに魚沼杉のファンになってくれている仲間がいることもあり、心強く感じています。

初年度の丸太(素材)の生産量としては1000㎥ほど、売上高は約4000万円を見込んでいます。第2期(2022年)の事業では、SIAが携わる新潟市内で計画されているまちづくりプロジェクトの建物に対して製品供給することが決まっており、すでに、そのための丸太の確保に動き出しているそうです。

多彩なラインアップ 小屋をマストアイテムに

UC Factoryでは、「UCウォール」「UCルーバー」「UCデッキ」などの内外装材を商品化して製造・販売するほか、「UCプライウッド」「UCプライウッドマホガニー」「UCプライウッドブナ」の3種類の合板を新潟県内の合板工場と提携しながら生産・販売しています。UCプライウッドは、構造材や内装材、テーブル、カウンター、ベンチなどに活用できます。いずれの商品も直接販売だけでなく、住学メンバーの建材流通店を介しての販売も行います。「地域の、より多くの人たちにメリットを享受してもらい、よい多くの人に製品を使ってもらうことが、持続的な事業運営のポイントです」と石田さんは話します。

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そのほか、100%魚沼杉でできた小屋「UC BOX」も商品化しました。2畳~5畳までの5種類の大きさがあり、離れや趣味の部屋、在宅ワークスペース・Zoom部屋などとして使うことができます。今後は、DIYでもつくれるようにキット(パネル)化して販売していくそうです。SIAでは自社が手掛ける全ての設計にUC BOX(3.2畳タイプの価格は64万円)を標準的に採用して、顧客に提案しています。

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離れや趣味・遊び部屋、テレワーク・Zoom部屋などに使える「UC BOX」

川が紡ぐ木の物語 ロマンとビジョンを追う

石田さんは「故郷の十日町市と、いま設計の仕事をメインで行っている新潟市は日本一長い信濃川によって結ばれていて、“水の都”と言われる新潟市の豊かな水は、上流にある十日町の山(森林)によって支えられています」と石田さん。「恵みをもたらしている山の木としての魚沼杉を、恵みを受けている流域で、その物語とともに使っていきたい」と、地材地建の理想形を思い描きます。

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十日町市内の石田さんの地元の家並み。
「地元(故郷)を元気にしたい。地元の産業を守りたい」
という想いが、石田さんのビジネスの原動力

その物語を伝え、広げていくためには、建築として、マテリアル(素材)をデザインとしても高いレベルへと昇華することが欠かせない条件となります。「それを実践することこそ、自分たちの使命だと考えています。ただ、それとは別に、自分たちが製材した愛着のあるマテリアルを、自分たちが設計した建物に使うことができるのは、単純にうれしいんです」と石田さんは笑顔で話します。

いいデザイン、いいマテリアルは古びません。そして規模は小さくても、川上(森林)から川中(製材)、川下(建築)まで一貫した建築。そこにはロマンとビジョンがあるのです。「単独の建築・住宅だけでなく、そうしたロマンやビジョンを凝縮した美しいまちをつくりたい。100年後のスタンダードをつくるという想いで、これからもビジネスを回していきたいですね」と石田さんは語ります。

文:新建ハウジング編集部
写真:石田伸一建築事務所提供
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