SHOGUNのキーボーディスト"大谷和夫さん"のアレンジテクニックの秘密に迫る
今回の記事では、SHOGUNのキーボーディストの"大谷和夫さん"のアレンジテクニックの秘密について徹底分析していきたいと思います!
大谷さんはSHOGUNでのバンド活動や、ピアニスト/キーボーディストとしてのスタジオワークの他、「作曲家・編曲家」としても活動されていました。
西城秀樹さんや本田美奈子.さん、田原俊彦さんの楽曲のアレンジを多数手がけられるなど、世間的には"編曲家としてのキャリア"が有名だと思います。
◯アレンジャーとしての代表曲
・西城秀樹さん 「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」
・ドリーミング 「アンパンマンのマーチ」
僕は大谷さんのことを
「邦楽ポップスの歴史の中でもトップクラスのアレンジャーさん」
だと思っています。
なぜなら、
・聴く人に「どうやって脳で構築されているんだろう…」と思わせるようなアレンジ
・良い意味で「クセが強いアレンジ」
を次々と繰り出されるからです。
今回は、
大谷さんのアレンジテクニックをいくつか例に出しながら、大谷さんのアレンジャーとしての凄さに迫っていきたいと思います!!
「大谷和夫さんがアレンジの際によく使われるテクニック」リスト
※大谷さんのアレンジ譜面はコードとキメはしっかり書いてあるものの、フレーズや展開はプレイヤーの感性に委ねて、ノリ重視で仕上げられることも多いそうです。
①ジャズコードを連続で切り替えてキメを作る
大谷さんは曲の伴奏コードにかなりの頻度でジャズコードを使われるので、
「大谷サウンドといえば"ジャスコード"」
という印象をお持ちの方も少なくないと思います。
その上で、大谷さんは曲の展開を変えるときにもジャズコードを使われます。
具体的に解説すると、
「曲のセクションが切り替わる時に"ジャ!ジャ!ジャ!"と三連続で異なるジャスコードを鳴らしてキメを作る」
というテクニックを多用されるのです。
これは「アレンジャー 大谷和夫を象徴するテクニック」で、大谷さんが手がけたほとんどの作品で使われているテクニックだと思います。
(そのため、参考例として具体的に曲を挙げれませんでした…。)
②セクションが切り替わるごとにアンサンブルによるオカズを入れる
大谷さんは曲のセクションが切り替わるごとに「主に"ドラム"と"ブラス"のアンサンブルによるオカズ」をワンフレーズ差し込まれることが多いです。
このようなフレーズが入ることによって聴き手側に「あ!曲の展開が変わった!」といった印象を与える事が出来ます。
◯使われている例
・SHOGUN 「Lonely Man」
・近藤真彦さん 「情熱☆熱風☽せれなーで」
③ファンクギターによるロングトーンを差し込む
これも多くの楽曲で使われているテクニックです。
度々「ギュイーン!!」というファンクギターのロングトーンが曲の途中に入ってきます。
大谷さんご自身がジャズ/ファンクがお好きなことや、ファンクギターの名手である芳野藤丸さんとタッグでのお仕事を多くこなされていることが理由だと思われます。
◯使われている例
・田原俊彦さん 「グッドラックLOVE」
(田原さんの楽曲はサブスクにセルフカバーver.しかなく、そっちを貼っています)
・中森明菜さん 「ダウンタウンすと〜り〜」
④スラップベースとタイトなドラムで超絶リズムグルーヴを作り出す
スラップベースやタイトなドラムにより、
「飛び跳ねるようなリズムグルーヴ」
を作り出し、バンドサウンドに"良い意味での騒がしさ"や"華やかさ"を演出する手法です。
やはり曲の展開が変わる時に急に複雑なフレーズのドラムが差し込まれることが多いです。
◯使われている例
・SHOGUN 「Castle Walls」
・松原みきさん 「His Woman」
このテクニックはジャズやブラジル音楽などにもよく見られますが、"70年代前半のブラックミュージック"に数多く出てきます。
70年代前半のブラックミュージックを聴いていると、
「うわっ!大谷さんと同じ手法だ!」
と思う瞬間がたまにあります。笑
例: ジャクソン・シスターズ:「ミラクルズ」
⑤ストリングスを多用した明るいグルーヴ
大谷さんはブラスやストリングスを多用して明るくファンキーなグルーヴを作るのアレンジも得意とされています。
主にアイドルの楽曲などで使われる手法で、メジャーコードが多用されており、アップテンポな仕上がりになります。
本当にディスコに近い音なので、4つ打ちのドラムやコンガなどのパーカッションが入っているのも印象的ですね。
大谷さんは「フルバンドのようなブラスアレンジ」を手かげられるので、業界内での「ブラスアレンジの評判」は凄まじかったそうです。
◯使われている例
・西城秀樹さん:「その愛は」
・田原俊彦さん:「恋=Do!」
⑥ピアノやギターに重きを置いたディスコ調でファンキーなサウンドのグルーヴ
こちらはブラスやストリングスよりは、どちらかというとピアノやカッティングギターなどを重視してファンキーなグルーヴを作るアレンジテクニックです。
ファンクギターが基調なので、かなりディスコ調でファンキーなサウンドとなっており、主に大谷さんご自身のバンドの楽曲で使われています。
◯使われている例
・One Line Band:「In The Moment」
・SHOGUN:「Silently She Said」
⑤脳で構築不可能なくらいメロディアスなピアノソロのフレーズ
これは大谷さんの本職である「ジャズピアニスト」としての実力がフルパワーで発揮されるテクニックです。
※大谷さんはお父様がクラシックの指揮者をやられていて、反動でジャズピアニストを志されたそうです。ルーツはラテンとジャズだといいます。
大谷さんの作品には「どうやって頭の中でそのメロディを構築されてるんだろう…」と感じるようなメロディアスなピアノソロのフレーズが度々登場します。メロディアスなことに加えて弾く際のタッチも強いようで、力強さも兼ね備えたサウンドに仕上がっています。
また、SHOGUNのメンバーである中島御さんが「ニッポンの編曲家」でのインタビューにて、
「大谷さんはアレンジャーの時より、"ご自身がキーボーディストとしてレコーディングをされる時の方"が自分自身に厳しかった。」
と仰っていたので、それほど魂を込めてキーボードソロをレコーディングされていたのだと思われます…。
◯使われている例
・SHOGUN 「Party Line」
・SHOGUN 「Strange World」
⑥浮遊感あるシンセサイザーの音色によるフレーズを差し込む
エレクトロなシンセサイザーの音色を差し込むことで曲に浮遊感や柔らかさを持たせるテクニックを多用されます。
大谷さんは「浮遊感ある音色のシンセ」を使わなくても、間奏の際にブラス+リズム隊でグルーヴを作り、曲に浮遊感を足されることもあります。
◯使われている例
・岩崎良美さん 「赤と黒」
・SHOGUN 「You Turn Me On」
⑦連符の組み合わせや複雑なコードを用いた印象的なイントロのフレーズ
これもアイドルソングでよく使われる手法で、
「イントロをめちゃめちゃ印象的にして掴む!」
という意図で作られているのだと思います。
とにかく使える楽器はシンセでもブラスでもストリングスでも何でも使って
シンセのフレーズ
↓
ブラスのフレーズ
↓
ストリングスのフレーズ
のように、瞬時に楽器を切り替えて行ってインパクトのあるイントロを作られます。
◯使われている例
・田原俊彦さん 「エル・オー・ヴイ・愛・N・G」
・早見優さん 「急いで!初恋」
⑧歌の後ろでマイナー調リードフレーズのループを鳴らす
この手法は「マイナーコードを用いたスウィングジャズ調のアレンジ」の際に使われます。サビの際、歌の後ろでずっとシンセやホーンのリードフレーズが鳴るような曲も多いです。
僕は「大谷さんはあくまで"歌謡曲"だからサビに歌とフレーズが共存するアレンジにされているけど、今もご健在だったら、絶対に"サビでボーカルドロップするような曲"を作られているんだろうな〜」と思っています。
◯使われている例
・田原俊彦さん 「チャールストンにはまだ早い」
(こちらもセルフカバーver.です)
・本田美奈子.さん 「Temptation (誘惑)」
⑨バラードでの流れるようなストリングスアレンジ
大谷さんは、バラードをアレンジされる際にオーケストラのようなストリングスを曲の最初から最後まで入れられることが多いです。
序盤から後半になるに連れてストリングスの編成やフレーズの豪華さが変化していくので、楽曲の世界観を流れるように演出されます。
間奏のストリングスのフレーズもメロディアスで印象的です!
また、
・「You're My Only Shinin' Star」などの楽曲で、大谷さんは"ストリングスアレンジ専任"で起用されていること
から、
業界内での"大谷さんの手がけるストリングスアレンジ"への信頼は絶大であったと考えられます。
◯使われている例
・中山美穂さん 「You're My Only Shinin' Star」
・中山美穂さん 「Thinking About You
〜あなたの夜を包みたい〜」
⑩「8ビート+シンセのフレーズ」でポップなサウンドを作る (「Don't Get Me Wrong」進行)
8ビートのリズムトラックの上にキラキラした音色のシンセのフレーズを載せ、ハネるようなポップなサウンドを作り上げるというテクニックです。
◯使われている例
・本田美奈子.さん 「Oneway Generation」
・南野陽子さん 「天使のアーチェリー」
しかし、コード進行やリズムがプリテンダーズの「Don't Get Me Wrong」に似ているので、「この曲をもとにアレンジされたのでは?」という声もネット上に多いです。↓
ですが、僕は「筒美京平さんの影響で大谷さんがこういうアレンジをされるようになられたのでは?」と思っているので、下の項目にて詳しくお話します!
考察
①恐らく大谷さんは「自分の色をどれくらい出してアレンジするか」の出力値を調整されている
そもそも僕が冒頭で「大谷さんは良い意味でクセが強いアレンジャーさん」と書いた理由は、
「ファンクやジャズで用いられるカッコいいアレンジテクニックを歌謡曲で多用されること」
に由来します。
しかし、そのアレンジテクニックが1曲の中でどのくらい使われているかは作品によってまちまちです。
例えば⑦の項目の2曲は、大谷さんのアレンジテクニックがフルコース気味なので、
「自分の色を120%発揮してアレンジされた」
のだと考えています!
ですが、作品の中には本記事で紹介しているアレンジテクニックをあまり使われていない作品もあるので、「大谷さんはディレクターさんからの要望や曲調によって、自分の色をどのくらい出すかを調整されている」のだと思います。
そのため、アレンジを手がけられた作品は曲調も幅広いですが、
「大谷さん色40%くらいの作品〜120%の作品」
まで幅広く存在しています。
ですが、40%くらいの作品もとても素敵な楽曲ばかりなので、「大谷さんのアレンジの引き出しの凄さ」を痛感します…。
フルコースの大谷サウンドを浴びたいという方は、是非アニメ「キャッツ・アイ」のサウンドトラックを聴いてみてください!!!
↓
②作曲:筒美京平さん 編曲:大谷さんの楽曲について
先日、編曲家の山川恵津子さんの著書「編曲の美学」を拝読したのですが、その中で
「昭和の時代は、基本的に編曲の打ち合わせに作曲家が出席することは無かったが、
唯一筒美京平さんのみが、打ち合わせに出席して直接アレンジャーとやり取りされていた。(意訳)」
ということが書かれていました。
そのため、クレジットが
・作曲:筒美京平さん
・編曲:大谷和夫さん
となっている楽曲については、
京平さんと大谷さんが楽曲のサウンドの方向性について緻密に打ち合わせをされた上でリリースされていると考えられます。
京平さん&大谷さんタッグの作品は、「Temptation (誘惑)」や「情熱☆熱風☽せれなーで」のような攻めたアレンジの楽曲が多いですが、
僕の考察だと恐らく
「京平さんが大谷さんの作風が大好きで、打ち合わせの際に
"この曲は大谷さん節全開でアレンジしちゃってください!"
と伝えた結果あのような攻めたアレンジになった」
のだと思われます。
また、
・「Oneway Generation」がプリテンダーズの「Don't Get Me Wrong」に似ていること
・大谷さんが「Don't Get Me Wrong」のようなアレンジをされたこと
についてですが、
これは京平さんが洋楽からサンプリングしたフレーズを用いたり、洋楽をオマージュしたような曲調の楽曲を制作されるのがお好きなので、大谷さんとの編曲打ち合わせの際に
「この曲はDon't Get Me Wrongのような楽曲にしたいのですが、この通りにアレンジしてくれませんでしょうか?」
と伝えられた結果なのではないかと考えています。
そこから大谷さんはこの「Oneway Generation」のアレンジを手がけられたことで得た
"Don't Get Me Wrong進行のノウハウ"
を用いて「天使のアーチェリー」をアレンジしたのだと考えられます。
なので、テクニック⑩に関しては完全に
「筒美京平さんの影響で用いるようになったテクニック」
なのだと思います。
まとめ
・大谷さんはファンク/ジャズのカッコいいアレンジテクニックを歌謡曲で多用されるアレンジャーさんである
・恐らく曲によって自分の色をどのくらい出すかの出力値を操作されている
・作曲:筒美京平さんの作品は恐らくお二人の緻密な打ち合わせの上で世に出ている