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京都出張旅行(2) おいなりパワーで管理栄養士をナンパする。

ひとり旅において、計画なくして充実あらず。日常にはない「なにか」を求めて非日常へ身を置いてみたところで、求めているそれが不明瞭のままでは精神的に満たされることはない。もし満たされるものがあるとすれば、それはその地域のグルメや酒による臓器でしかない。

それでも僕はひとり旅が好きだ。僕が考えるこれの魅力とはすなわち、どんな過去であれ美化されるという人生観のもと見出されるものである。つまり、旅そのものではなく、旅をしたという「いつか振り返ることのできる過去」にこそ価値がある。とはいえ、思い出作りが目的になるもの虚しいものであり、はなからそんなつもりではない。

希望に向かって立ち上がるのが億劫で、冷房の効いた部屋で永遠に布団に寝転がり続けるここ数ヶ月間の堕落した僕からすれば、このひとり旅もまた、楽しかったと錯覚させるには足る過去と化している。(無論、こんな日々から早く脱却したいという想いも行動とは裏腹に抱いている。)

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夜の京都。観光名所に行くにはもう遅く、チェックインするにはまだ早い。ごはんは先ほど食べたばかりであり、酒を飲むには当てがない。迷ったときには24時間営業の伏見稲荷大社。べつに面白い場所ではない。しかし、京都を全身で感じるべく重い足取りで向かう。着いた先で襲いかかるであろう虚無感は想像に難くないが、では京都駅でまだ悩み続けるのか。これはもう、負け戦なのである。

伏見稲荷大社に到着。全国津々浦々に点在する稲荷神社の総本社である。千本鳥居が有名だろうか。夜になると人が歩ける程度にライトアップされる。稲荷山の全域が神社であり鳥居は斜面や階段に立てられている。日本神話への造詣が深くもなければパワースポットとしての神社にも興味がない僕は、つまりただの登山客だった。

平日の夜は稲荷神社の総本社であっても参拝者は少なく、ちらほら外国人観光客とすれ違う程度で人気はない。千本鳥居は恐怖すら感じさせる。

同年齢ほどの一人でいる暇そうな女性がいた。これこそ日本ジェンダーギャップ世界110位の産物だろうか、僕は、彼女もまた僕と話したいのではないかと思った。夜の千本鳥居よりも恐ろしいこの先入観を肯定せずして、彼女に話しかけずに訪れる残尿感に似て非なるやるせなさから逃れることはできない。僕は彼女の足並みに合わせたり、合わせなかったりで、僕と彼女は幾度ものポジション・チェンジを繰り返し、そして、まんをじじて、僕は数時間ぶりに声帯を震わせた。

「あ、あ、あの、あ、あの」

それから1時間ほど、下山するまで、僕たちはお稲荷さまなどそっちのけでペチャクチャ会話した。案の定、彼女もまた暇であり、行くあてもなく興味もないくせに登拝していたという。大阪在住、同級生。なにひとつ予想が裏切られることはなく、それは決して面白いものではなかったが、しかし鬱々としたこの気持ちを紛らわすには十分であり、ようするに面白かった。

僕はこの出会いを一期一会なんてロマンティシズムでとらえることなく合理主義に則り、別れ際、連絡先を交換し、その後、大阪生活のうちに何度か遊んだ。稲荷神にかけて彼女を女狐にたとえようとも考えたが、べつに悪女でもなんでもなくただの栄養管理士でしかない。話しかけたがゆえに彼女を女狐だと思うことができなくなるのであり、何事も知るということは身勝手に見出していた不確かな希望への裏切りという側面を持つ。また同時に、見出していなかった新たな魅力が認識されるという側面も持つだろうが、僕は頭と性格が悪いのでこのようなことはあまりない。

ゲストハウスにチェック・イン!共同スペースにギターありけり。これが弾けたら言葉が通じない彼らと手軽にコミュニケートできるのに!などと思いながらその場をあとにして近場のサウナにイン。450円、安い!118度、熱い!ドライヤーせず濡れた髪をもって冬の祇園をビール片手に散策するのであった。

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使ったお金・・・

山科の地域に根付く定食屋:880円

伏見稲荷大社の水:100円

伏見稲荷から清水五条の運賃:220円

京都ゲストハウス宿泊料:1,450円

京都四条の人気のつけ麺屋:870円

京都六条の銭湯:450円

サッポロ黒ラベル:265円

しめて4,225円。

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次の投稿では、二日目を書きます。正直あまり乗り気ではないのですが、一度書き始めてしまったので引くに引けず。一ヶ月以上も投稿が空いてしまうと、書きたいと思っていた当初の想いも薄れてきてしまうものです。

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