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2020年前半に読んだ中で心に残った本10冊+おまけ

こんにちは。
怒涛のような2020年前半の6か月間が終了しましたね。
キリの良いタイミングでもあるので、振り返りがてら好きな本を推したくこの記事を書く事にしました。

前回書いたものはこちら。

この時は2019年の総括だったので、すべての本を振り返るとなるとかなりの量になるな〜〜〜と悩ましい気持ちになったので小説のみで選びました。
今回は半年間と期間が短いので小説以外にもいろんな本から選ぼうと思ってですね。読書メーターの読了記録を遡ってリストアップしていったんですが、それでも結局リストアップした中から半数以下に厳選する事になって、楽しくも苦しいひとときを過ごすことになりました。結局。楽しかったんだけどね。

この半年間に読んだ85冊を読んだ順に眺めて気になったのは、前半が小説多めな事に対して後半は実用書が占める割合がずいぶん増えていたこと。
いつも通り読みたいものを読む事を続けていた前半に対して、緊急事態宣言発令からのテレワーク本格稼働という働き方そのものを見直す必要に迫られた後半は、フィクション以外のジャンルから自分にとって必要なものを吸収したい欲が無意識のうちに高まっていたのかなあと何となく想像しています。働き方を考える事って生き方を考える事でもあるからね。分かりやすいな自分。

10冊という数にしたのは、いつも年末の総括で20冊程度を選ぶ事を続けているので、半年間ならその半分の10冊でちょうど良いだろうという判断です。
おかげで他にも入れたかった本(タタール人の砂漠とか1R1分34秒とか始祖鳥記とか)たちのせめぎ合いに満身創痍。楽しい。
以下、おまけ以外はすべて読了順に並んでいます。ネタバレだと感じられる表現を含む可能性もあるのでご注意ください。

①羊をめぐる冒険

村上春樹/講談社
1月1日に読んだ2020年の1冊目。元日早々とんでもないものを読んでしまった……と打ちひしがれたのが記憶に新しい。いやわたし『ダンス・ダンス・ダンス』の方を先に読んでて、こっちを後から読んでしまったんです。読了済の方なら分かっていただけるかと。
生きるうちに負う痛みは罪に対する罰ばかりではないから、抱えたまま進むことを選択せざるを得ない事も確かにあって。喪失と再生と不可逆性、そして痛みに慣れる事など叶わないのにそれを避けては通れない事こそが人生なんだ。

②中国行きのスロウ・ボート

村上春樹/中公文庫
春樹さん続いちゃうな、と気になったもののこれはどうしても外せなかった。本屋さんで見かけたから何となく手に取ったら『羊をめぐる冒険』の前後に書かれた作品が収録されている短編集だなんて書いててずいぶん驚いたのです。こんなタイミングで手に取れるなんて。
シンプルな文体に不穏や終わりの気配が漂う7話の物語。でもひとくちに終わりと言ってもその拡がりは多様なもので、再生を伴う光射す光景として目に映ることもある。個人的には『午後の最後の芝生』と『土の中の彼女の小さな犬』が好きです。浄化。

③犬に堕ちても

ヘレ・ヘレ/筑摩書房
デンマークの作家さんの本を初めて読みました。ちょっとばかり衝撃的な書名だけれど、ひらいてみれば"泣くのにちょうどいい場所を探している。"という最初の一行目にいきなり魅了されて、そのまま一気に読み終えてしまったのがすごく印象深い。
目の前に初めて会った人がいるとして、その人と分かり合うのに過去や秘密や肩書だとかの情報をわざわざ曝け出す必要なんか本当は無いんですよね。ただそばにいる時を重ねるだけで育まれるものもある。傷付いた人を前にして、本人が語ろうとする以外のことを興味本位でわざわざ聞き出したりしない。そういう優しさって確かにある。冷たい風吹きすさぶ海辺の町だけれど、穏やかで温かい時間が流れる物語でした。
あとこの記事のヘッダにしてあるんですがこの本、書影も美しいんですよ。所有欲を煽られる存在感。手元に置く幸せをくれる一冊とも言える。

④モモ

ミヒャエル・エンデ/岩波少年文庫
小学校5・6年生向けですって。古典的名作が持つ凄味に触れる読書だったと思ってるんだけど小学校5・6年生向けって、マジか、マジか…………と今になって初めて読んだわたしは打ちひしがれている。読み継がれるに足る説得力。
たとえ子供の頃に読んだ事があるとしても、これだけスマホが身近に定着してSNS全盛期とも言える現代だからこそ、今読んでみたらまた全然違う響き方をするはずです。暇さえあればスマホを見て漫然と時間を溶かす、誰かや何かによってやらされている事を自分がやりたい事なんだと思い込んで疑いもしない。それはもう既に時間どろぼうに絡め取られてしまっている結果の惨状なのかも。まっすぐなモモの眼差しを受け止めて。

⑤ネットで勝つ情報リテラシー

小木曽健/ちくま新書
著者はグリー株式会社の情報教育部門責任者。新聞社が発信するネットニュースであっても決して純度の高い一次情報とは言えず、その記事を書きタイトルをつけた記者の主観が込められているもの。また同じ反対意見を主張する複数の政治家がいるとして、その反対意見を読み比べてみる事でその人が何を守りたいのかが分かる例文といったものまで、様々な角度から情報リテラシーを分かりやすく解説する名著。
真剣に義務教育の過程で取り入れるべきだと思いますネットリテラシー。すでに導入済だったらごめんね。

⑥逆ソクラテス

伊坂幸太郎/集英社
他の作家さんの小説にも言えることなんですが、個人的に"特異な状況設定を提示して読み手にしっかり納得させておいた上で、その特異な状況設定を最大限に活用して「論理的に考えればこうなるしかない」という結末へと鮮やかに向かう"展開にものすごく弱いんです。その「論理的に考えればこうなるしかない」がピンチを脱して痛快な結末に至るように作用していればもっといい。
(例えば同じ伊坂さんの連作短編集『死神の精度』なら2番目に収録されてる『死神と藤田』が一番好きだし『チルドレン』なら最後に収録の『イン』が好きだったりします)
そういう人間なので本作は『アンスポーツマンライク』が素晴らしいと思いました。もちろん他の4話も面白く読みましたとも。デビュー20年目の名に相応しい快作。

⑦暇と退屈の倫理学 増補新版

國分功一郎/太田出版
書名には「倫理学」とあるけど、それだけでなく系譜学に経済史に哲学にと、今昔の哲学者の発言を引用しつつ様々な観点から「暇」と「退屈」を照らして解きほぐす一冊。それらの各章を経て最後に待ち受けるのが倫理学の章というのもポイント。
終盤に少しだけ見られる結論ありきの暴論には首を傾げたくはなるものの、そこを除けばこれだけ明朗かつ軽快な文体で構成しているのも凄い達成です。難しいことを簡単に伝えるのはその逆よりずっとむずかしいこと。
(個人的には人間学の章の時間に関する着眼点が読んでて興奮するので大好きです。人間が退屈を感じる理由へと繋がっていく)
そして初読は2019年2月27日。1年と少し経った今改めて読んで、受ける印象が初読時と決定的に変わってしまったと感じたのは、どこにも行けず自宅で過ごす事を選択せざるを得なかった今年のゴールデンウィークに読んだ事も影響してるのかも。初読時に読んで納得した筈の消費の定義を再度見直したりもして。
パンがあれば生きていけるけど、でも生きることはバラで飾られなければならない。2020年を生きる今だからこそ、パンとバラの両方を求めて生きることを貪欲に選択していきたいな。楽しみが思考を伴うものであるなら、noteを書くこともまた私にとってはバラなんだよ。

⑧アムステルダム

イアン・マキューアン/新潮文庫
初読は2017年1月3日。当時は成宮寛貴さんの引退に関する出来事ばかりが脳裏を過って冷静に読めなくて、時間を置いていつか再読したいなと思ってたんです。本棚を眺めていたらたまたま『ネットで勝つ情報リテラシー』がある位置の上にこの本があるのが目にとまってようやく再読。
薄い文庫本だけれど、メディアが公人を社会的に殺すことを題材にした物語が読み手の倫理観にも是非を思いっきり突きつけてきます。読み進めつつ考えることで読了とするのが良いと思う。
それにしても結末には驚いた。こんな終わり方だったか。初読時に目に焼きつく程の印象を残した場面が強烈すぎてその後の記憶が抜け落ちてたみたい。

⑨猫を棄てる 父親について語るとき

村上春樹/文藝春秋
春樹さんばっかりになっちゃうな、と気になったもののこれもどうしても外せなかった。結果的に85冊のうちだと3冊だけの春樹さんなのにその3冊全部を入れるっていう。
好きな作家のエッセイを読めた喜びと"憧れの人"のセンシティブな話題に触れてしまった畏れ多さの両方を抱えて、こんなふうに知ってしまって良かったんだろうか、という葛藤が今でも読後感として胸にあります。物語の中に秘密で織り込まれる分なら、知らずに受け取る分なら意識せずにいられた筈。けどお父様の戦争体験をも含む本作を読んだわたしの率直な感想は、もう少し親密な距離感だけでひっそり語られるべきものを一介の読者が受け取ってしまったのではないか…??という動揺と罪悪感が多くを占めています。
そんなふうに感じてしまう自分の心の動きは自分の矮小さだとか劣等感だとかの裏返しなのかな? 名状し難い。理由付ける必要性があるのかはさておき。
本作が春樹さんにとって、思い起こし文字にする事で思索が促され、結果的に何らかのかたちで救いをもたらすものであればいいです。僭越ながらそう思ったりなどしています。書くことで昇華されるなら書き方を考えることは降り方を考えることでもあるのかも。

⑩ザ・議論!

井上達夫・小林よしのり/毎日新聞出版
議論って本来はこういう建設的なものであるべきだよなぁ……ってひしひし感じてしまって、そのあまりの貴重さに読み進めながら涙が出そうになった。ひとつの題材に対して真反対の主張を持っている者同士であっても意見は意見として尊重する、互いに考えを丁寧に示し合って相手側の良いと思えるものは柔軟に取り入れる。頭ごなしの否定といった思考停止になど走らず、大声を出して相手の主張を遮る事もせず、揚げ足取りや言葉尻を捕まえるような事に終始したりするのではなく。
そんなふうに知性と誠実さに触れる清々しさを味わえる、胸を打つ読書になりました。これはと思う文章や意見に出会ったら頁の端を折る癖があって、本書は見事に折り目だらけになりましたとも。
サブタイトルにある通り「リベラルvs保守」の対談で、話題は天皇制から憲法改正まで多岐に渡るし私個人としては読んでいて賛成しかねる主張も正直あるけど。ほんとに大事なのはその主張を受けて、感情論に走らず自分の意見を構成する事。そのために知るべき事実や学ぶべき事実も取り入れる事。簡単ではないけど歩むのをやめたくないと思います。

おまけ①東京改造計画

堀江貴文/幻冬社
誕生日プレゼントに貰ったもののうちのひとつです。自分では買わないジャンルなのでありがたい。
目次だけ見たら確かに首を傾げたくなるような文言もあるんですよ。でもそこで拒絶するのはただの思考停止で、そう述べる主張や根拠を読んだ上で賛同するか反対するかを決める事で始まるものがきっとある。
個人的には「正解を教えない教育」の章は今すぐにでも実践するべきだと思うし、低容量ピルに関する正しい知識を男性の側から発信しているのも重要なことだと思う。安直な先入観にしがみついているままではすぐに置き去りにされてしまう時代を私達みんなが生きているのだ。
あとインフォデミック(information epidemic/情報の伝染)という言葉を初めて知った。『ネットで勝つ情報リテラシー』の内容と合わせて胸に刻みたいキャッチコピー"ストップ・インフォデミック"。

おまけ②積立投資を知るために読んだ2冊

①貯金感覚でできる3000円投資生活デラックス/横山光昭(アスコム)
去年の終わり頃だったかな、劇団雌猫さんの『一生楽しく浪費するためのお金の話』を読んで積立投資にほんのり興味を持ったんです。
その後にたまたま知った本作を読んでみたら、もう完全に入門書という感じですごく分かりやすくて。小額から始める積立投資、まったくやった事なくて何から手をつけていいのかさっぱり分からないという初心者向け(まず証券口座を開設するところから触れてくれてます)。
読み終わって早速つみたてNISAを始めましたよ。3月頃のコロナ禍が本格的になってきた頃は金額の下落が著しかったけれど、下がった時は買い時というのも分かったので落ち着いていられました。

②本当の自由を手に入れる お金の大学/両@リベ大学長(朝日新聞出版)
インスタでたまにこの人の投稿をチェックしているんですが、本屋さんで見覚えのあるイラストが表紙になってる本が平積みされてたのを目にした瞬間に嬉しくなってすぐ買いました。そして読んで大満足。
確かに収入を増やすよりは、まず固定費中心に支出を削る方がずっと簡単なんですよね。読み終わってさっそく医療保険の契約内容を変更しました。
積立投資に関する話題もあって、横山さんの著作で基礎中の基礎程度の知識があったおかげで理解が深まったのでこの順番に読んで良かったなと。次は米国株についてもう少し調べてみたいと思います。

おまけ③すでにnoteに記事を書いているという理由で削った名作たち

あなたのための物語/長谷敏司(ハヤカワ文庫JA)

八本脚の蝶/二階堂奥歯(河出文庫)

モーム短篇選(下)/サマセット・モーム(岩波文庫)

僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた/アダム・オルター(ダイヤモンド社)


以上です。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
2020年後半戦も、お互い良い本に出会えるといいですね。


※2020年後半の10冊はこちら↓



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