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クラウドサインが「印影アップロード機能」を取り入れない理由

この記事は InHouseDesigners Advent Calendar 2018 19日目の記事です。

クラウドサインでいろいろな事をやらせていただいています佐伯です。noteデビューです。気合い入れすぎて記事が長くなりました。

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さて、早速ですが、僕が関わらせてもらっているクラウドサインというサービスは電子契約のサービスです。

上図のような紙での契約時に通るフローをシンプルに変えるサービスです。
この中で、「印刷、製本、割印、郵送」に関しては作業としてなくなることに異議を唱える方は少ないのではないかと思います。
ただ「押印」に関してはどうでしょうか?

実際にユーザーからのフィードバックで以下のような声をいただいくことがあります。

「自社の印鑑(の印影)アップロードできませんか?」
「印鑑押したいんだよね」
「何この貧相なビジュアル(クラウドサインの擬似的な印影は貧相です)」

これは「契約書に『印鑑をついて終わる』」といった今までの「作業の区切りとしての押印の役割」言い換えると「儀式的な行為としての役割」を持っていることによって起こされた心理状態からのフィードバックだと予想しています。

「印鑑を押す」ことでなんとなく契約をした!気持ちになるという心理

そうなるとやっぱり電子契約でも…といった意見をいただくのは非常に納得できます。実際に、多くの電子契約サービスでは印影やサインのアップロードが可能です。ユーザーの心理的なニーズとして、この「印影をアップロードして電子契約に用いる機能」に需要があるのは明らかであるとクラウドサインチームでも認識をしています。

しかし、現在クラウドサインでは「印影アップロード機能」を実装していません。では、なぜクラウドサインではこの機能をいれないのか?ということを説明することで、インハウスデザイナーが取り組む「サービスのデザイン」という事もほんの少しお伝えできればなと思っています。(多くの現場で普通に行われていることだと思うので、特段スゴイことを語るわけではないですが… :-)

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目次
1. 電子契約における「押印(印影)」の法的な証拠力について
2. 「印影アップロード機能」のメリット・デメリット
3. クラウドサインのカルチャー
4. まとめ

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1. 電子契約における「押印(印影)」の法的な証拠力について

これについては「サインのリ・デザイン」に非常に詳しく書いてありますので、ぜひ御覧ください。

ちなみに、ものすごく雑に要約しますと、紙の契約の場合は印影(=印章を押した跡)を手がかりに『本人がこの契約書の内容を承認したのだろう』という推定をしますが、電子契約ではデジタル署名と呼ばれる技術を使って証拠力を担保するので、印影のありなしは関係ない。ということになります。

気になる方は前述「サインのリ・デザイン」を見ていただくか、「電子署名法」「電子帳簿保存法」などでググってみてください。

事実:電子契約が正しく効力を発揮するために印影は必須ではない

次はメリット・デメリットを洗い出していきます。

2. 印影アップロード機能のメリット・デメリット

例えば会社の社判の印影をアップロード可能にした場合のメリット・デメリットを考えてみます。

メリット:
a. 会社の社判押せることでなんか安心(押した人が
b. 会社の社判が押してあることでなんか安心(取引相手が

デメリット:
a. 印影画像の管理が必要になる(追加・削除・編集
b. 印影の権限管理が必要になる(誰が押せる?
c. 押印フロー内に「印影を選択」が必要になる場合がある
d. 受信側ユーザーが「個人/会社の印影をアップロードしないと駄目かな?」と思う

若干ポジショントーク気味ですが、一旦この様に整理をします。では、順にメリット・デメリットを見ていきます。

--- メリット
メリットに関しては心理的な内容のため文章にするとたいしたことないように見えますが、ペインポイントとしては軽視できるものではないという整理をしています。(ちょっと踏み込んで行くと無権代理問題などがありますので、ここを危惧される方は少なくないです。)
また、送信側・受信側双方が安心できるというのはとても重要なことだと感じます。

--- デメリット
デメリットの a, b は実物の印鑑であれば「物理的に管理」されることでクリアできている部分です。(例えば、社長が金庫で印鑑を保管。その金庫の鍵を持ってるのは社長だけなので、実質 a, b は社長だけが行えるという状態)
これを電子契約に持ってくる場合は「印影の管理機能」が必要になりますし、今後の組織変更時に都度オペレーション業務が発生します。(大企業の場合少なくない規模の権限付替え&確認作業が発生する可能性が高いです。サービス提供側の判断によっては設定費用でお金を取るポイントと考えるとメリットにもなり得るところです)

- 印影のアップロード × N個
- 各印影に対しての権限設定 × N個 × X人

次に c. ですが、印影を1つしか持たない人は良いですが、複数持つ人(個人と社判など)はその選択が都度必要になります。

最後に d. 受信者側のユーザーの心理負担についてです。
送信側が印影をアップロードしてきた場合、受信側が「先方はちゃんとした印鑑を押してあるし、こちらもちゃんとしたもので押印をしないとな…。」と思うのは自然な流れかと思います。
この、一方がしっかりとした印影をつけてきた場合、かんたんに『合意締結』ができていたはずなのに、「印影画像取り込まなくちゃ」「どうやって印影を取り込んだらいいんだろう」「そもそもユーザー登録しなきゃ印影をアップロードできない」といった本来不要な心理的ハードルを受信者側ユーザーに課してしまう可能性があります。(もちろんUIを通じて受信者側には印影求めないアナウンスを出すといった対応は可能とはおもいます)
そうなると電子契約の強みであるレスポンスの速さなどを殺しかねない事になりそうです。これはユーザーへの負担もですが、サービス提供側としても無視できないデメリットであると感じます。

メリット:
心理的な送受信双方が得られる安心感は軽視できるものではない

デメリット:
サービス提供側、送受信双方に負担を強いることになる可能性は高い

次に意思決定を行います。この意思決定は次に記載するクラウドサインのカルチャーから導き出されていきます。

3. クラウドサインのカルチャー

上記がクラウドサインが非常に大切にしているカルチャーの根幹であるMISION/VISION/VALUE(MVV)です。このMVVについては橘の記事を御覧ください。僕もいつかどこかでエモい記事を書きたいと思います。多分…。

クラウドサインでは MISSION を 「社会に対して実現したいこと / 使命 / 社会的役割」、VISION を「組織としてなりたい姿 / 実現したい目標・夢」と置いています。そして「 MISSION と VISION を実現する上で組織のあるべき姿、持つべき・体現すべき価値観」を VALUE としています。

このカルチャーをベースに先の「印影アップロード機能」について意思決定をしていきます。

まず、我々は MISSION / VISION の通り、 法律とテクノロジーの力でよりシンプルな世界を実現することを目指しています。ここを基準に考えて、現時点では「印影アップロード機能」を持ち込むことを、我々のチームとして「是」とはしませんでした。特に2.のデメリットにある継続してオペレーションタスクをユーザーに課す可能性が高い。というのはユーザーの体験としても良くないと考えますし、我々が目指す世界観とは乖離が大きいと考えています。

我々は売れる、売りやすいサービスを作ろうと思ってはいますが、それ以上に社会の多くの人に役立つサービスを作りたいと思っています(その結果売れたいです ;-) )。そのためには、我々が自身で作ったカルチャーを元に、我々が信じるアプローチでプロダクトを作っていくことが大切であると考えています

そして上記「印影アップロード機能は作らない」という意思決定に際してとても重要なのは、お客様に作らない理由をしっかり説明して納得していただく必要があり、それができないのであればこの意思決定にはたどり着けないという点です。それを実現するために、クラウドサインではセールスチームやカスタマーサクセス(CS)チームがお客様にしっかりと理解していただけるよう全力でサポートをしてくれています。

これはカルチャーに根ざした意思決定の強みである「チームが共通認識をもって物事を進められる」という力が大いに発揮されていると感じています。「その要望は叶えられないのですが、結果的に皆さんの業務を効率化させていただくことになっていると信じています!(法的にも大丈夫です!)」とセールス/CSチームがお客様に伝えてくれている、という心強さと安心感は何事にも代えがたいものと思っています。

メリット・デメリットや売れる・売れないではなく、カルチャーを元に意思決定をする

4. まとめ

印影アップロード機能のまとめ

ⅰ. 印影は電子契約では必須のものではない
ⅱ. ユーザーに心理的な安心感を与えられるメリットが有る
ⅲ. 印影の管理機能はユーザー、システム共に大きな負荷を与える
ⅳ. 受信側へ心理的な負荷を与える可能性がある
ⅴ. クラウドサインでは「法律とテクノロジーの力でよりシンプルな世界を実現する」ことを目指している

以上から、👇という結論になっています。

ⅴの実現のためにⅲ, ⅳは受け入れられない
=> 印影アップロード機能は現時点では実装しない。

=> ユーザーに対してしっかりと説明を行う。

ちなみに、ここでのお話はマーケットイン/プロダクトアウト的な話ではなく、お客様からいただいたフィードバックの中からその要望をどのようにクラウドサイン流に実装するかというお話です。印影機能は実装していないので例としては微妙ですが…。

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この記事のまとめ

で、結局何が言いたかったかと言うと、、、インハウスデザイナーはある機能が俎上に上がってきた場合、以下のステップをチームの皆と進めることができます。

1. 事実を把握し
2. メリット・デメリットを洗い出し
3. カルチャーに基づいて意思決定する

そして、意思決定の際に重要な役割を果たすカルチャーづくりにもデザイナーとして主体的に関ることができます。素敵。

ということで、「インハウスデザイナーたのしいよ」という事が伝えたかったことです。「インハウスたのしいですし、BtoB SaaSたのしいですよ!」

なお、クラウドサイン・弁護士ドットコムでは幅広く仲間を募集しています。弁護士ドットコムであれば金子と仕事ができるチャンスです!

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画像:Graphs / PIXTA(ピクスタ)

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