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地球科学者からみた首里城火災

琉球大学総合環境学副専攻の巡検で、首里城の建造物が焼け落ちてから初めて現場を訪れた。火災の跡は生々しく、痛々しいものであったが、観光地としての首里城公園を考えても、残念さを拭えなかった。

首里城跡はユネスコ世界文化遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」のひとつにも指定されているように、琉球王国の歴史・文化を考える大変貴重なサイトだ。しかし、ここ数年にわたって日頃から感じ続けてきたことではあるが、ビジターに提供する情報が、ほぼ歴史・文化的な内容だけという課題がある。

修学旅行生で賑わう守礼の門

首里城公園にはたくさんの修学旅行生も訪れる。高校生たちには、文系の生徒もいれば、理系の生徒もいる。同じサイトを訪れたとしても、興味関心は千差万別だろう。もちろん、国内外から訪れる一般のツーリストも同様だ。

一流の観光地は、ビジターのあらゆる興味関心に応え得る、懐の広さがあるものではないだろうか。その点で、首里城公園は、三流以下である。わたしに言わせれば「こんなに面白いものがあるのに使えていない」というのが正直な印象で、何とかならないものかと思う。

世界遺産に指定されているのが復元された建造物ではなく首里城跡であることさえ、あまり知られていないかもしれない。もちろん、建造物に価値がないなどと言っているわけではない。しかし、その城跡に着目するビジターが少ないだろうことは、やはり残念だ。

2016年2月に放送されたNHKブラタモリ(#32 沖縄・首里)は、ビジターの広い興味関心に応えるうえで、また首里城公園の側が視野を広げるうえで、絶好のチャンスになった。それまで全くと言ってよいほど注目されていなかった、首里城跡の地質や地理が主役になったからである。

タモリさん・桑子さんを案内した京の内の展望所

番組は好評で、特に沖縄での視聴率は驚異的な数値を記録したらしい。KADOKAWAから発行された書籍も売れている。ところが、首里城公園のツアーやガイドは何ら変わることがなく、番組で開拓された新たな魅力が取り入れられることは、私の知る限りはなかった。

その一方で、ビジターの側をみると、これも私の知る限りでしかないが、ブラタモリで扱われたような着眼点を持って首里城跡を訪れる人たちが増えた。わたしは風化のモニタリングをしていることもあり、放送後に現地に出かける機会も多かった。

「幕張メッセでブラタモリセッション」
Japan Geoscience Letters, Vol. 15, No. 4.

JGLトピックス:幕張メッセでブラタモリセッション|Takayuki Ogata @s15taka #note https://note.com/s15taka/n/n88c666fca997

研究や教育の仕事で首里城跡に行くと、観光でいらっしゃった方々から声をかけられることもあったし、機器の作業中などに「あっ、ブラタモリの先生だ」みたいな囁きを耳にすることも何度もあった。わたしが学生相手に解説しているときなどはバレバレで、そばに来て、専門的な地球科学の解説を盗み聞きする方々もいらっしゃる。

このズレは何だろうか。ストレートに考えれば、ビジターの視野は広がったのに、ツアーやガイドを提供する側は何も成長してないということにならないだろうか。厳しい見方かもしれないが、現実を見る限りは、そう評価せざるを得ない。

首里城公園が視野を広げるチャンスは再び訪れた。2019年10月に発生した火災である。あれは災難そのもので、沖縄の方々をはじめ、たくさんの人たちに哀しみをもたらした。しかし、首里城跡の魅力が復元された建造物だけではないことに気づく、2回目のチャンスでもあった。

ところが、首里城公園は、まだそれどころではないのかもしれないが、またまたチャンスを見逃しにしかねないような雰囲気を感じる。12月14日に野外巡検で学生たちを連れて訪問したときには、こんな看板を見かけた。

「首里城復興モデルコース」の案内

このモデルコースを見てみると、入れない建物に入らないルートを紹介しているだけで、建物に入らないでも触れられる魅力をほとんど活かしきれていない。少なくとも、ブラタモリで日本全国に広く紹介されたような新たな魅力には、全く触れられていない。

看板にはURLやQRコードの記載もなく、看板以上の情報にアクセスすることもできない。もっとも、ブラタモリの放送から3年半以上も経過しながら、新たに開拓された知見をアップデートしてこなかったのだから、そもそも提供できる情報が存在しないのだろう。

さて、今週、3回目のチャンスがやってくる。NHK沖縄放送局が「名作シリーズ首里城」として、月曜~金曜の19:30から、過去の番組を再放送する。ブラタモリは月曜、トップバッターのようだ。

わたしは、これをきっかけに、首里城公園の管理運営者が、首里城跡の新たな価値を生み出す地球科学的な解説を取り入れていただくことを期待する。専門的な内容をわかりやすく噛み砕く作業は完了しているし、それが広く普及・周知されてもいる。もし活かしきれないとしたら、管理運営を行う組織の力不足だ。今度こそ、以下の組織の皆さんに期待したい。

・国営沖縄記念公園事務所
(内閣府沖縄総合事務局)

・沖縄県土木建築部都市公園課

・沖縄美ら島財団

・沖縄観光コンベンションビューロー

もしかしたら「自分で売り込まなきゃダメだよ」とおっしゃる方がいるかもしれない。確かにそうかもしれない。売り込めば実現するかもしれない。ただ、わたしは、そこまでやるつもりはない。まだ普及が不十分ならともかく、もうこんなにいろんなメディアでアウトリーチしているのだから。

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