「今夜二人で みんなのところ 自慢の車で 抜け出してしまおう」

「僕といると寂しい?」
…そういうのはよく分からない。僕は、誰かといて寂しいなんて思わないから。でも、誰かがいるから大丈夫、なんて、思った事もないよ。


昼下がり、ファストフード店で。
ふたりとも、つい先ほどまで眠っていた。
「見て、the most delicious,,,だからモスバーガー!知らなかったよ。」
腫れぼったい目元を揉んでいた彼は店内の飾りに気付き、少しはしゃいだ。そして子供の頃、母親によく連れてきてもらったのだと教えてくれた。
「辛いけどチリディップが好きで絶対に買ってもらってた、いつも僕の分しか頼まない。食べていると母にね…電話が掛かってくるんだ、そうすると母はここにいてねって出て行って…あのひと、女の人だったんだね。年齢だって今のあなたくらい、本当にただの、女だった。」


「一番好きな本は?」
「機内誌。」
「それはだめ、でもわたしも好き。」
「あ、本棚にあったあなたの、僕も読んだよ。少しだけ。」
「どうだった?」
「退屈、だからすぐにやめた、僕は読書は特別好きなわけじゃないし…本を必要としない人生はそれだけで幸せなんだって。本をね…読むのは寂しいからなんだって。」



デパートへお互いのクリスマスプレゼントを選びに行った時。
昇っていくエスカレーターのひとつ上の段に立っていた彼がふいに振り返って、手摺を掴んでいたわたしの指に自分の指を重ね、微笑んだ。
彼のマフラーはグレーのウール地にオレンジの細いラインが入ったもので、わたしは微笑み返しそれに顔を寄せる。何のにおいもしなかった。
「あなたには真珠の何かを買いたいな。それと、夕食も下の階で買ってこう。」
「賛成。」
生春巻きのイチジクとバルサミコソース掛け、チーズを100gとクラッカーを小袋で、ブラックオリーブの塩漬け、ティラミス…


「聞きましたけど、映画が好きなんですか?僕も大好き。ひとが全然いない映画館で、前の席に足を乗っけて観るのが一番好き。もちろん、前の席の分のお金も払ってますよ。」
これまでろくに話した事もなかったが、思わず睨みつける。不愉快だった。
「そういうのは…良くないですね。」
彼はいろんな女達に同じ事を言ってきたのだろう。しかし、そう返したのはわたしだけで、今までの女達は笑ってやっていたのだと彼の反応からすぐに分かった。

「じゃあ僕の足を押さえてて。一緒に何か観に行きましょうよ。」

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燃える息