aurora(2/3)

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次の日も次の日も。ふらりとどこからか現れ。他愛もない話を一方的にしたかと思うと、俺が口を開けば静かに聞き、時に笑う狼の姿の悪魔に、彼の言った、仲間というものを、どこかで意識し始める。俺はいつの間にかこの悪魔に取り憑かれたようだ。

なかま。なら。見せてもいいのかな。



唯一できる特技は、ギターを弾き。歌を歌うこと。初めてできた仲間に。勇気を出して聞かせてみせると決めた夜。またいつも通りふらり現れた悪魔。

今日は、ちょっと、みせたいものがある。とだけ告げる。





自分のお気に入りの雪の積もらぬ岩肌の見える崖。月明かりに照らされそこはいつでも自分のステージだった。

めいいっぱいの冷たい空気を胸に入れ。
少しかじかむ手に、力を込める。
じゃら、と乾いた振動。なれない手つきで爪弾くギター。
雪の世界に音は吸い込まれて。
きっと自分と彼にしか聞こえない。
小さな声。
空気と同化した澄んだ叫び。


無我夢中で引き終わると
綺麗だと聞こえた気がした。

お前こんなことできたのか、すげえな。と。なんの含みもない、偽りのない拍手をくれる。


初めて褒められた。嬉しい。嬉しい。彼は俺にいくつ初めてをくれるんだろう。


俺の方がうまいけどなー。俺の次にうまいな。

するりとギターを奪われる。
ケケケとお決まりの笑いで茶化す彼に褒められた嬉しさを隠しきれず思わず飛びつきじゃれる。


勢いで甘噛みのつもりで噛み付いた首。っつ。低い呻き声同時に口の中には血の味。離れる身体。
血を流す彼を前に。立ち尽くす。


やってしまった。


やってしまったと。反芻する。俺は狼だった。急に怖くなりその場を逃げ出すように木をかき分け道無き道を全力で駆け出す。待て……と遠くで聞こえた気がした。


……初めて自分を受け入れてくれた彼を仲間を傷をつけた。どうして自分は生きてるだけで、こんなにも人を傷つけてしまうのか。泣きながらただ走る。

つづく