ロードス島戦記 誓約の宝冠1     もう一度ロードス島へ上陸できるとは。。。

ロードス島戦記 誓約の宝冠1
KADOKAWA 2019年8月1日 初版発行 2019年8月25日 再版発行
水野良(みずの りょう)

すごい!見事にロードス島戦記だった!

ロードス島戦記は、私と同じ年代の方でファンタジーが好きであれば、絶対読んでいると思う作品です。まだファンタジー作品やRPGが今ほど知られているわけではなかった時代に、これほどの良質のファンタジー作品が誕生していたことは、幸せなことだったと思います。
今でこそゴブリン、エルフ、ドラゴンと聞けば実在するかのように身体的特徴や特徴を伝えることができる方は多いと思いますが、当時はそこまで情報が与えられていない状態での読書体験であったため、もしかすれば贅沢な体験だったかもしれません。

さて、ロードス島戦記といえばプロローグのこの言葉。

ロードスという名の島がある。

あぁ。。。この冒頭部分だけでロードス島にまた帰ってくることができる喜びを感じてしまう。
私が知っているロードス島の英雄達は、文字通り過去の英雄として名前は出てきます。そうです、本当に焼き直しやリメイクではない、完全新作なのです。
過去の英雄としてのみの登場であるため、そこまで前シリーズを知らなくても、この作品から読むことは可能です。もちろん、前シリーズを読んだほうが楽しめることは間違いありませんが、順番はこの際気にしなくてもいいかな。気になるところから読んで、楽しんだほうがいいはず!

で、例外として伝説の存在でありながら、今も生きる伝説としてこの作品に登場するキーパーソンの一人が、「永遠の乙女 ディードリット」。前シリーズでも登場したエルフであり、前シリーズの主人公「ロードスの騎士 パーン」の伴侶。
おそらく前シリーズがパーンのサーガだとすれば、今シリーズはディードリットのサーガ。
ディードリットが前作以上に主人公を補佐し、ロードス島にもう一度英雄を誕生させてくれるのでしょう。

そんな英雄候補として、今作品で自ら「ロードスの騎士」として生きていくことを決意したのが、マーモ王国第四皇子のライル。
ライルの祖国であるマーモは、前シリーズでは「暗黒の島」と呼ばれるほどに魔物が生息している国でしたが、パーン達の活躍により解放され、王国が打ち立てられた経緯がある。そんな国に生まれた王子が、なぜ自由の騎士と呼ばれる、どこの勢力にも属さないロードスの騎士を目指すことになったのか。

今作では、イントロダクションとしての物語という側面が強いイメージです。前シリーズで手に入れた平和な世が、どのように年月を消費し、人心にどのような変化があったのか。そこを語ったうえで、物語はライルの属するマーモ王国が主体となり、進んでいきます。
読んでほしいので、詳しくはネタバレに書きますが、この戦乱の世に突入する過程の組み立ては見事です。
一方から見える平和が、他方でも平和に映るとは限りません。
正義とは誰の中にも存在し、自分の正義が必ずしも相手の正義であるとは断言できません。
ロードス島という舞台で繰り広げられる、英雄たちの代理戦争はどこまで続いていくのでしょう。


それでは、ここからは触れていなかった「ネタバレ」を含みつつ、もう少し書いてみます。
ネタバレを読みたくない方は、ここで読むのをやめてください。
行数を10行くらい空けておきますね。






本当に読みますか?ネタバレありですよ?


では、書いていきます。

上記では全然触れていませんが、今作はどちらかというと「マーモ王国第三王子 ザイード」の権謀術数と戦場での活躍が目立っている印象が強い内容でした。
ライルがディードリットを探す旅に出るだけでは、ストーリーに厚みがでません。ディードリット捜索を静の軸としてストーリーを展開し、ザイードの戦場での活躍を動のストーリーとして対比させ、どちらも引き立つように書かれているのでしょう。
国力が他国よりも優位にたっているフレイムが動くのは、読者の予想通りで期待を裏切らずに、ザイードをフレイムに亡命させ、ここでは読者の予想を超えてくる。
マーモ王国が話の主軸となることからだとは思いますが、マーモ王国の主要な王子・王女はそれぞれ異なる立場でロードス島で動きをみせていく。
展開のわかりやすさと、読者の期待を裏切る行動。
見事なまでにロードス島戦記です。

ライルはこの先どのような成長を遂げていくのでしょう。
先代のロードスの騎士パーンも最初はゴブリンにすら苦戦するような、何かに秀でているような騎士ではなかったですよね。ライルもそこは同じです。剣術も知識も兄や姉、出会う人たちよりも劣っています。
では、信念はどうか?パーンと同じように、自分の信じた道をひたむきに、多くの方に助けてもらってでも、その道を進んでいくことはできるのか?
もちろんそこには、ディードリットが直接的にではないにしろ、間違ったほうへ踏み出しそうになる若者を包み込むかのように修正してくれるような働きかけをしてくれるのだと思います。
パーンを理想とし、背中を追いかける若者の今後に期待が膨らみます。

そして期待といえば、今作で大活躍だったザイードとテューラの二人。まだまだ活躍しそうな気配です。今作で唯一アグレッシブに立ち回り、主人公としてまだ読者の期待を背負うには精神的に幼すぎるライルをカバーするかのような働きぶりでした。
マーモ王国からフレイムに亡命のような形をとったことも、作品の中でそれとなく考えを匂わせてはいますが、その核心には触れていません。
フレイムの王ディアスには、ザイードの心中を把握していながら泳がされている向きもあり、次巻もザイードがストーリーの中心にいそうな気配です。

そして、伝説として語られている永遠の乙女ディードリット。
ディードリットの立ち位置は、前シリーズとは異なり一歩引いたところからライルを見守るように行動していくのでしょうか。パーンが自分の考えに基づいた行動をとっていたため、ディードリットはパーンに引かれるように後ろをついているような印象でした。今作では、まだそこまで自分の考えを全面に押し出しきれないライルに対して、一歩引いた位置からそっと押してあげるような印象です。
前シリーズのキャラクターを知る唯一の存在だと思われますので、あまり目立つような行動はしないと思います。今作でもライルの気持ちに応えて、応援するかのように迷いの森からできてきてくれました。
その姿は、年月を経たことも関係するのでしょうが、落ち着いており、全ての人に対して見守るようなスタンスを感じさせます。酒場で弦楽器を奏で、喧騒を治めるシーンはその最たるものでしょう。

次巻はどうやらザクソンが舞台となりそうです。
パーンが騎士としての第一歩を示した場所。
そこでパーンはともに旅をする仲間を得ていました。
さて、今作ではライルとともに歩んでくれる仲間はいるのでしょうか。

サポートを頂けるような記事ではありませんが、もし、仮に、頂けるのであれば、新しい本を購入し、全力で感想文を書くので、よろしければ…