答えは全て自分の中に
俳優の訓練を始めてからもうかれこれ19年経つのだがこの仕事と真剣に向かい合って良かった事の一つに
人間理解が深まったというのがある。
まだまだもっと深い人間心理を掴むことが出来る洞察力は必要だと思うが、もしこの仕事をしてなければ僕は今頃相当ヤバい奴になっていただろうw
俳優の仕事の一つに役の行動心理を理解するというのがあるんだけど、
僕たちは役をもらったら台本に書かれた自分の役の行動を正当化するという作業をしなければならない。
どういう作業かというと例えばあるシーンで男が恋人の家で恋人と話していたのに急に外に出て行く。とだけト書きに書かれていたとする。
その時に僕たちはこの男を演じる上で何故外に出て行ったのかを明確な理由を持って外に出ていくという行動をとらなければならない。
(ただ理由もなく出ていく演技は吐き気がする)
もし出て行く直前で立ち止まると台本に書かれていたら、ただ立ち止まるだけではダメで「何故立ち止まったのか」その明確な理由があって初めて立ち止まることができる。
僕たち人間は実生活の全ての行動に目的や理由がある。
それが無意識のレベルで些細な行動だとしても全てに理由がある。
目の動き一つとっても。
だからそれが役であってもちゃんとした明確な理由を全ての行動に見つけなければならない。
ならないというか行動できないと言った方が正しいだろう。
なぜ外に出ていくのか?なぜ立ち止まるのか?
そんな作業を19年もやっていると日常生活でも常に自分の行動や人の行動に対して
「なぜなんだろう?」と問いかけることが条件反射的に身についてしまっていて
そのおかげで人間理解というのも深まって行ったような気がする。
それは言葉の選び方、言葉の発し方にも現れてくるもので
そこには全て理由があるのだ。
その視点を自分に対しても持っていると無意識に発した言葉が自分の新しい一面を知るきっかけになったりもする。
でもそれは決していいことばかりでも無い。
見たくなかった自分を知ることにもなるし
それを受け入れる事も重要になってくるからだ。
自分はレイシストでは無いと思っていても深い根のところでは人種や性別に対して差別的な視点を持っている事に気付いたり
けどそれを自分の中に見つけ受け入れることができると
それは人に対しての理解力にも繋がる。
僕らアクターという職業は時には殺人やレイプ、DVする人間になったりレイシストにならなければならない。
もちろん僕はそれらを1ミリも正しいとは思わないし許してはいけない事だと思っている。
けどもしその役を演じることを自分が選んだら
世界中の全ての人がその役を否定しても自分だけはその役の味方になり理解し寄り添わなくてはならない。と僕は思っている。
究極の同情心を持って自分の役に向かい合うこと。
その役が起こした行動にも全て役にとっての理由がある。
家庭環境、学校教育、事件、トラウマ
自分の想像力を使ってそれがどんな行動であっても
「その理由ならもし自分も同じ境遇にあったら同じことをしていたかもしれない」
というところまで理解し寄り添いたい。
僕の思う理想の俳優像はそれだし
そうあるべきだと思っている。
そうじゃないと人の人生なんて演じられないでしょ。
もし自分がある作品の登場人物になった時に全く知らないアクターが
自分という役を理解もせず否定しながらただそう見えるように演じていたら
僕はいい気はしないだろう。
そんなんで人の心を動かせるとは思えない。
話は外れたが役も周りの人のことも理解する時には常に自分の中に答えはあると思っていて、否定的なことだとしても自分の中にそれを見つけて認めてあげることが人に優しくなれたり、寄り添うという事に繋がるんじゃないだろうか。
よくこんな役演じたよなと思う作品とアクター
この真ん中にいるハビエルバルデムが演じた超サイコ殺人鬼はマジで凄いしヤバい。この役でアカデミー賞を獲得しているんだけど、全ての行動が正当化されているしこの作品の中ではなぜこんな殺人鬼が生まれたのかは描かれていないけどハビエルバルデムの中ではちゃんとした理由があるから見ていても全くおかしくなく説得力があるのだ。
左にいるベネチオデルトロが演じた役もとんでもない。少しネタバレになるが後半ある家族の母親と子供を銃でなんの躊躇いもなく殺害するシーンがある。彼の役は殺し屋でも悪役でもなく、彼は自分の任務を全うするための正義に忠実なキャラクターなんだがその殺害シーンも見事に正当化されていて全く不自然さがない。すごくショッキングなシーンだけどこのキャラクターなら殺るよなって説得力があるのだ。
共にとても普通なら理解しがたいシーンだったり役だったりするんだけど、正当化されているということはしっかりとアクターがその状況なら自分でもそうするだろうというところまで理解しているから演技に嘘がないのだ。
人間理解に興味のある人は是非そういう視点で見てみると面白いと思うよ〜
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?