見出し画像

7665日の物語 28

するとどうだろう。驚いた事にアルバイトさん、パートさん自らが考え行動

するようになったのだ。

『どうしたらお客様に喜ばれるのか』

『どうすれば売り上げをUPさせる事が出来るのか』

『どうしたらもっと褒められるのか』

ファーストフード店というのは社員の数が少ない。この規模の店舗でも2

人。あとはアルバイトとパートさんだ。ある朝出勤すると、みんなケンタッ

キー・フライドチキンの制服を着ていた。当たり前のことだが、驚いたのは

ここからだ。髪の色は全員黒に統一され、靴下の色もバラバラだったものが

全員ストッキングを着用。メイクは全体的に薄目でとても清潔感を感じる。

『店長、CAさん(キャビンアテンド)さんをイメージしてみたのですが、ど

うでしょうか?』

僕は即答した。『すごくいいよ!!何これ、君達で考えたの?』

『はい、よく来店されるお客様のお名前とか特徴とか皆で持ち寄ってお声が

けしたら喜んでいただけるんじゃないかと思って、まとめてみました』

すごい。協調性と統一性だ。自分達で考え行動する事を認めてもらえたとい

う達成感。店舗に於ける売上向上の秘訣はここにあった。これは会社経営で

も同じことが言える。トップの意識が末端社員まで浸透していれば全員が社

長としての考え方で動き、生産性が著しく向上するのだ。ここからのみんな

の働き方はすごかった。

『〇〇さん、おはようございます。今日もいらしてくださんですね、ありが

とうございます。本日もチキンフィレサンドのセット、ホットコーヒーでよ

ろしいですか?』や、

『あ、いつもありがとうございます。今日は沢山お買い上げありがとうござ

います。そうですかー、お孫さんの入学のお祝いなんですね。羨ましいで

す。ご入学おめでとうございます!』

など、マニュアルサービスではないヒューマンサービスを展開し始めた。

フライドチキンはハンバーガー類と違い、チキン1本当たりの単価が高い。

それ故にリピーターさんからの口コミ評判が凄まじい影響力を持つ。この積

み重ねがキャンペーン等に絶大な威力発揮するのだ。それに加えて彼女たち

は独自のキャンペーンを考案した。

『店長、ぬりえしてくれた子供さんにフライドポテトを提供してもよろしい

でしょうか?費用対効果を考えますと、広告を打つよりかなり安価で利益率

も高くなります。試算では4%の売り上げ上昇を見込んでいます。』

企業戦略室でもここまで考えるだろうか。客層を知り、サービスを知ってい

る彼女達だから考案できる間違いのない独自キャンペーン。僕が断るはずも

ない。『いいねー、やろうよ!!』

『でも本部の方が何て言われるか・・・』

『関係ないよ!お客様が喜んで下さるんだよ!やろうやろう!!』

こうして次々にキャンペーンは考案され、実行され、驚くほどの右肩上がり

で売り上げは伸びた。これには本部の人も入れ代わり立ち代わり視察に訪れ

るほどだ。本部の人間だろうが無かろうが彼女たちのサービスは変わらな

い。

『いらっしゃいませ、こんにちは。今日はちょっと肌寒いですね。たった今

ホットコーヒーを落とし終わりました。もう1分蒸らしますと、より芳醇な

香りをお楽しみいただけます。いかがでございますか?』

こんなファーストフード、かつてあっただろうか。少なくとも自分の店であ

りながら、僕は出逢った事がない。商品を準備する人間が少しでも的確に早

くご提供できるよう、決して早口にならずそれでいて遅すぎず、笑顔でお客

様と会話する。そしていつの間にかアツアツの売品が出来上がっている。お

客様からすると「え、いつの間に?」というスピードである。個々のスピー

ドも確かに速いが、誰一人ボーっとしている人間が居ないのだ。全員が常に

アンテナを張り、手際よくトレーの上に商品を見栄えよく並べていく。お持

ち帰りのお客様の場合も同じだ。ドライブスルーでお客様のご注文を1つづ

つ確認する。

「チキン2ピース」『はい!、チキン2ピース!』

この時にはもうパックされているのだ。お会計が終わるのと同時に提供され

るスピードは1分足らず。ドライブスルーにはいつも10台以上車が並んでい

るが、お客様が車を止めてご注文なさる時間以外はすぐに動く、これがずっ

と続くのだ。前の店舗であった「真空パックの鶏もも肉」のノルマ数も尋常

ではない、前の店舗の20倍だ。それでも足りなくなる。従業員自らが販売達

成グラフを作り、打った数だけシールを張っていく。

『もう少しで100本 ♬ 』

『すごーい、〇〇さん、1人で400本?負けないからねー』

社員でもコネを使ってもこんなに売れない物を、彼女達は楽しんで売ってく

る。かき集めても全く足りなくて、東京の本部に「集めてくれ」と掛け合っ

た程だ。この年、ケンタッキー・フライドチキンで1位どころか、外食産業

部門第1位となった。マクドナルドや有名ステーキチェーン、焼き肉、回転

すしを抑えてのNO,1だ。この知らせを聞き、閉店後に皆を集めてジュースで

乾杯した。みんな達成感で震えながら泣いていた。きっとこの経験が将来彼

ら彼女らの素晴らしい財産になるだろう。外食産業第1位ということで本部

から賞金を戴いた。もちろん全額皆さんに均等に分配した。売れた人もなか

った人も皆等しく頑張ったのだ。誰一人文句を言う人間は居なかった。

茜ちゃんは大学を卒業し、師範として2年が経過した時。僕は大学を辞めて

働き始めて3年目だった。嬉々として働くことが楽しくて仕方なかった。

出勤するたびに新しいアイデアが提案され、ことごとく当たる。そして従業

員は喜び僕は褒める。叱る部分が一つもないというのは、ある意味すごい事

だと思う。店舗だとよくあるのが「パックミス」と「現金過不足」というも

のだ。「パックミス」はその名の通り「パックのミス」で、フォークがな

い、ストローがない、チキンが足りない、サラダが入ってない等のもの。

「現金過不足」レジの打ち間違えやお釣りの渡し間違え等で発生してしまう

ミス。凄いことにNO.1だったこの年は、なんと両方ゼロだったのだ。

こんな事ありえない!と本部からも言われたし僕も思った。

でも現実にゼロだったのだ。この功績を受け、僕は東京の本社に招かれ

金でできたカーネル・ハーランド・サンダースの勲章を授与される。そして

アメリカケンタッキー州への視察旅行という副賞付きだった。しかしここで

想定外の事態が訪れる。


この記事が参加している募集

noteのつづけ方

重度のうつ病を経験し、立ち直った今発信できることがあります。サポートして戴けましたら子供達の育成に使わせていただきます。どうぞよろしくお願い致します。