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終わりと終わりと始まりと

舞台が終わってようやく落ち着いたので、久しく会えていなかった恋人に連絡をした。「いつ会える?」と聞くと、いやぁうーんと曖昧な返事が返ってくる。あれ?おかしいな?と思ってよくよく聞いてみると、久しく会えていなかった間に恋人には新しい恋人が出来ていたらしい。「別れて欲しい」と言われた僕はすごすごと引き下がることしか出来なかった。

スマホを置いてベッドに大の字になって、恋人……いや、元恋人のことを考えた。いい女だった。ずっとこんな関係が続いたらいいなと思っていたし、ずっと続くものなのだと思っていた。まさかこんなにあっけなく、何のドラマもなく突然に終わるだなんて思っていなかった。なんて酷いやつなんだ!という思いも頭をよぎったが、そもそも舞台の稽古と本番で忙しいからと会う時間を作れずにいたのは僕だ。彼女にもらったくじらのぬいぐるみを抱いて、僕はさめざめと涙を零した。

どれくらいそうしていたのだろう?僕の胸にムクムクとそびえ立った感情は『寂しい』だった。舞台が終わってようやく少し落ち着いて時間が出来るというのに、僕は一番一緒に過ごしたい相手だった恋人を失ってしまった。すっかり彼女と過ごすつもりで空けていた休日が少なくとも4つはあるし、更にその向こうにはクリスマスや年末年始だってある。ひとりで過ごすのは寂しい!そう思うと突然得体の知れないバイタリティが湧いてきた。僕はベッドから飛び起きると、ありったけの女友達に「遊ぼうよ」と連絡をした。たまたまタイミングが良かったのか、僕のよく分からない勢いに圧されてくれたのか、休日は次々と予定が埋まっていった。

あの時期が、おそらく僕の人生最大のモテ期だったのだろう。あの時に出来た4人の恋人たちと、僕は今も楽しく過ごしている。恋人に振られて寂しかったからなんて理由で恋人を4人も作ったのは無茶苦茶だったかもしれないが、あれが今の幸せの始まりだった。僕は幸福だ。僕はもう寂しくない。4色のハートマークで予定が埋まったスケジュール帳を見ながら、僕は愛する4人の恋人たちにしみじみと深い感謝を感じていた。

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