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文筆婚活

「あなたの書く文章が好きで、あなたにとても興味があります。良かったらお会いしませんか?」とメッセージが来た時、僕は心の中でガッツポーズを決めた。僕がここまで毎日文章を書き続けてきたのは、全てこういう出会いを求めてのことだったからだ。

40を過ぎ、おデコもすっかり禿げ上がり、僕は多くの人の恋愛対象からとっくに外れてしまっていることを感じて焦っていた。こんな自分でも好きになってくれるとしたら何だろう?そう自問自答した結果、思い当たったのが文章だった。何かを書くことには自信がある。僕の書くものなら、誰かが好きになってくれるかもしれない。そしてそこから僕自身に興味を持ってくれることもあるかもしれない。そう思って立ち上げたのがこのnoteだった。

いい獲物を狙うためには、出来るだけ綺麗で大きな蜘蛛の巣を張る必要がある。まずは見てくれる人の分母を増やすために、出来るだけいろいろな人に刺さるようないろいろな文章を毎日書いた。自分の人間性や感性を知ってもらえるようなエッセイ的な文章も必要だ。そしてやはり最終的に恋愛対象として興味を持ってもらうためには恋愛の話を書くのが一番手っ取り早い。段階的に恋愛の話を多めに書くように増やしていくと、徐々にではあるがアクセスも伸びて反応も増えるようになってきた。そんな折にようやく届いたメッセージだった。

当たり障りのない返信をして、しばらくメッセージのやり取りが続いた。相手は27歳の事務職の女性で、趣味は映画や舞台鑑賞と読書で、水族館や美術館も好きらしい。好きなお笑い芸人は千鳥さんと錦鯉さんだと言う。ここで錦鯉さんの名前が出ると言うことはおじさんやハゲにも耐性があると考えていいだろう。最高だ。身長は160センチ、送ってもらった顔写真は深田恭子さんにちょっとだけ似ていて愛嬌のある笑顔が可愛くて、胸もFカップあるらしい。完璧だ。僕は心の中でホールインワンを決めたゴルファーのような渾身のガッツポーズを決め、再来週に会う約束をした。

すっかり浮かれた僕はまだ、このあと彼女に100万円の数珠を買わされることになるとは微塵も思っていなかった。インターネットを通して異性と会うのは時に大きな危険を伴うものです。皆さんはどうか充分にお気をつけください。

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