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【ショートショート】顔がなる

 顔がなる。
 ちゃりんちゃりん。
「お父ちゃん、何の音?」
 肩車した娘が頭の上の方から問いかけてくる。
「お父ちゃんの顔はな、金の音がすんねん」
 祭囃子が聞こえてくる。まっすぐいくと、神輿が通る参道に行き当たる。道を折れて、神社から離れる。河原へ向かおう。
 商店の前で、おっちゃんがかき氷を売っていたので、イチゴを一つもらう。
 ちゃりんちゃりん。
「お父ちゃん、めっちゃ甘い。おおきに」
「頭、冷たいがな。落とさんと食わなあかんで」
 川が見えてきた。昨日まで降り続いていた大雨のせいで、水は濁り、渦を巻いている。子供が中に落ちれば、ひとたまりもないだろう。
 娘がズルズルと音を立てて、赤い水になったかき氷を飲み干す。受け取って、河原の草の中に放り投げた。
「ゴミはゴミ箱へって、先生が言ってたで」
「水ん中に落ちる方があかん。草ん中やったら、誰かひろてくれるがな」
 橋が見える。欄干はくすんだ赤色で、所々塗りがはげている。よく見れば、どこかに橋の名前が書かれているのだろうが、ちょっと見当たらない。
 ちゃりんちゃりん。
「お父ちゃん、何の音?」
「これから行くとこはな、ちょっとだけ、金がいんねん。お父ちゃん、顔を金に変えたったから、安心しい」
「お母ちゃんは?」
「三人分はないねん。二人分しかないねん」
 ちゃりんちゃりん。両のほっぺたから金がこぼれ落ちる。呪いなのか、それとも、祝福なのか。少なくとも、娘のことは救うことができるのだ。そう考えると、娘にとっては恵みだ。
 橋の上には誰もいない。みんな祭りに行ってしまった。遠くから祭囃子が追いかけてくる。幸せな鬼たちが追いかけてくる。
「お祭り、見たかったな」
「向こうに行ったら、毎日がお祭りやで」
「なんで?」
「偉い人がそう言うとった。毎日、お祭りなんやて」
「ええなあ」
「屋台で、買い放題やで」
 ちゃりんちゃりん。

Photo by Marek Piwnicki on Unsplash

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