見出し画像

あの時、ああすればよかった・・・

「生」は喜ばしい、「死」は悲しい。だが、生と同じ数だけ死がある。
「死んではいけない」と諭される。「死んだら終わり」という人もいる。
生き物は必ず死ぬし、その時期は分からない。
人間は常に死に近づきつつあり、死のリスクにさらされている。
死はできるだけ先延ばししたいし、怖いので考える事も嫌になる。

「死とは何か」についてイェール大学で講義を続けるシェリー・ケーガンは、「どのような生き方をするべきか」についてこう説く。
”やがて死ぬことがわかっている以上、この問いについて慎重に考え、目的を設定し、どのように目的を達成するか決めること。
自分が何者で、それぞれが与えられたわずかな時間をどう使うか意識する。”

みんな死なないように生きている。
しかし、死を否定して生きるのと、死を肯定して生きるのでは、表面上は同じでも中身は違うだろう。
「死」を意識することで、「生」が充実する。
そして、人とは「あの時、ああすればよかった・・」と後悔する生き物だ。

『エンド・オブ・ライフ 著者:佐々涼子』を読んだ。
エンド・オブ・ライフとは終末期。
医療の現場では疾病などからの回復が望めず、早々の死が避けがたくなった状態の事を表す。
本書は死をテーマに取材を続けた著者による、7年間にわたる在宅での終末医療の現場を活写したノンフィクション。
在宅医療とは自宅での終末を望む人のために、患者の自宅を医師や看護師が訪問して行う医療だ。
在宅だからこそ成しうる患者の最後の希望を叶えることもできる。

著者は取材中に難病の母を亡くした。その母を看取ったのは献身的な在宅介護をしてきた父親。
その姿を見て改めて「家族とは何か」「自宅で亡くなるとは」・・・と多くの気づきがあった。
そして著者が取材先で友人となった一人の看護師が癌に罹患。彼は200人の患者を看取ったプロ。
自らの死を目前にし、葛藤しつつもどうのようにして命を閉じていくのか。
取材を通して、最後の日々を共に過ごし「理想の死の迎え方」を考えていく。

家族の死、子どもの心境、夫婦の絆。
取材から見えてくる、生きる意味・・・。

突然の死よりも、死期がわかっている方がいい時があるかも知れない。
死を迎える準備ができること、感謝を伝えることができること、残りの時間を「どうやって生きる」か決めること。
これを実現できるのが在宅医療であり、病院ではできない「命の閉じ方」だと実感した。
自分や家族にいつ「死」が訪れるかわらない。
本書では最後の瞬間まで生き抜く姿が描かれていまる。
あらためて人の「生死」について考え、理想の「生き方・死に方」を考えてみたい。


この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?