旅日記8 ラオス

チェンマイで7日間の療養を終え、ようやく身体が動くようになった時、タイでの滞在可能日数は残り3日になっていた。もともとチェンマイを数日楽しんだあと北西に進み、パーイという街に行く予定であったが、3日でどうにかなる工程でもなかった。聞く所によるとパーイは沈没地でもあり、1日そこらで満足できないだろう。
チェンマイからチェンライへ行き、そこからラオスとの国境を超えてフアイサーイという街に行くことで、ラオス入りをすることに決めた。
チェンマイは何も見ていないが、ラオスを満喫したあと戻ってきて再び工程を進めればいい。
チェンマイからバスで3時間、チェンライで一泊。チェンライも観光地として有名で、一泊だけでは不十分だとは思うが、とりあえずナイトマーケットだけ行ってみた。
特に面白みもないマーケットだったが、チェンライ独特の緩い雰囲気だけは伝わってきた。また余裕があれば訪れてみようと思う。
チェンライからさらに3時間ほどかけて、ラオスの国境を越える。タイとラオスとの国境は、中国から始まりベトナムまでゆっくりと流れ続けるメコン川だ。
広大なメコン川に架かる第四タイラオス友好橋を越えると、ラオスに入る。
通貨はバーツからキープへ。ただ川をこえただけで、ラオスとタイの発展度合いの違いがわかる。
未舗装の道路、舗装されていても穴だらけの道。ASEAN最貧国としても知られるラオス。僕はこの国が大好きだった。
5年前ラオスを訪れた時、周辺のベトナムカンボジアタイと比べて、手付かずの自然の多さに圧倒された。何もないことが魅力の国だ。東南アジアといってもベトナムやタイは発展を続け、作られ続ける何か求めて多くの人が集まる。そうでなくても大昔に作られた寺や仏像がある。ラオスには何もなかった。何もない、というよりは地球に与えられたものそのまま、そこに人が生活しているような感覚だ。
国境の街フアイサーイで一泊し、すぐにラオス観光の名所、ルアンパバーンへと向かう。ラオスの観光は、ルアンパバーン、バンビエン、ビエンチャンの3都市を上から下に、もしくは下から上に巡っていくルートが王道だ。そのほかに見る場所が少ないのも事実であるが。(ちなみに上にあげた3都市はラオスの北部にあり、ラオス最南部にもパクセー、シーパンドンという名所はあるが、ラオス国内を通るアクセスは非常に難しいと思われる)
ルアンパバーンヘはミニバンで駅へ行き、その後電車でルアンパバーンヘ向かう。
6時間ほど、ミニバンにぎゅうぎゅうになりながら、考えられないほどの悪路をゆっくり進んでいく。もしこれがタイなら、3時間かからずに行けるのではないかという距離だ。道のそこかしこに穴が空いており、その上を走るたびに身体が跳ね上がる。
天井に頭をぶつけることもしょっちゅうだ。
このミニバンで駅に向かうな人の中で、バックパッカーは僕以外にもう1人いた。
イギリス人の彼は身長2メートルで、殊更この地獄のような道中を苦しんでいるようにも思えた。途中で休憩時間があり、山中のサービスエリア(といっても日本にあるようなサービスエリアとは全く違い、商店とご飯屋があるだけだが)で彼と話し、目的地も同じ彼としばらく行動を共にする事になった。
疲労困憊で駅に着く。
5年前、ラオスには電車がなかった。2021年の開通したこの電車は、中国の支援をふんだんに受けて、交通状況の悪いラオスを貫くように路線を通した。
ラオスにくると、中国人の多さと、至る所にある中国語の多さに驚く。
支援を名目に、他国に食い込む中国の政治はよく知っていたが、ラオスではその実態をまざまざと感じることができる。
しかしこの鉄道は何もないラオスでうまく機能しているように思えた。
地元の人に話を聞いたが、中国の侵略とも例えられる政策はどうあれ、この鉄道がラオスをよくしたことは確からしい。ろくに舗装もされていない曲がりくねった山中の道しか選択肢がなかった彼らにとって、天から垂らされた蜘蛛の糸のような存在だろう。
中国の侵略政策も悪いことばかりではないということだ。
駅の周りには何もなく、駅の中にも何もなかった。何もない訳ではなく、売店はあったが、ラオスの通貨キープは使えず、中国元しかつかえない。複雑な気持ちだ。
2時間ほど電車を待って、その間イギリス人の彼と話し込んだ。
大学をちょうど終えて、MUFGのロンドン支社に就職が決まっているらしい。8月に就職するまでバックパッカーをしているとこのとだ。
電車に乗るさいは別々の車両に乗ったが、ルアンパバーンへ着くとホームで僕のことを待ってくれていて、ホテルまで一緒に行き、同じホステルに泊まることにした。
お互い1人で旅をしていると人との出会いに飢え、自然と2人で行動することになった。

200cmある彼はどこに行っても注目を集め、写真をせがまれていた。


(続く)

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