鴨頭嘉人の半生 最終話 夢を叶える力

 嘉人は、異業種交流会「人を幸せにする会社プロジェクト」に参加した。嘉人は、自宅のパソコンで「日本一熱い想いを伝える男、炎の講演家、鴨頭嘉人」というチラシを作り、出会った人に配り続けていた。今日も自分を宣伝していた。
 翌日、嘉人の携帯電話が鳴った。
「はい! 世界を変える男、鴨頭嘉人です!」
「あっ、お……鴨頭さんですね。昨日、初めて会っていきなりのお願いで恐縮ですが、一緒に講演会をやりませんか?」
「はい。分かりました」
 この講演が、嘉人にとって最初の講演となった。
 しかも、主催の会社の方が講演を観てくれて、自社開催のセミナー枠を当ててくれるようになった。
 それから、担当するセミナーはすぐに毎回予約開始から1時間で満席になるという、超人気の講師となった。
 評判が評判を産み、他のセミナー会社にも講師として登録してもらった。

 嘉人は、ぽつぽつと講演の仕事が入るようになった。
 そこで、講演を撮影し、YouTubeにアップロードするようにした。嘉人が欲しいのは、お金ではない。影響力だ。もちろんお金も無いと困るが、影響力を持たないと世界を変える事は出来ない。
 楽読で出来た仲間、ヒロキングと一緒にYouTubeを始めた。1つめの動画を作り、アップロードした。
「どうだ? 出来たか?」
「はい」
 ヒロキングがちゃんと再生されるか確かめていた。嘉人も後で1度観てみる事にした。
 翌日、動画の様子を見てみると、再生数が3だった。
「ヒロキング、お前2回観たのか?」
「観てませんよ」
「俺も1回しか観てない……って事は、誰かが観てくれたんだ! よし、いけるぞ。これから毎日毎日動画を作ろうよ」
「はい!」
 暫く続けていると、他の講師から「お前は馬鹿か」と言われた。何故ならば、有料でやっている事を動画で撮って、タダで観れるようにしているからだ。
 しかし、嘉人はそんな言葉なんて無視をした。
 嘉人が欲しいのはお金ではないからだ。

 講演の数は年々増えていた。しかし、影響力はほとんど上がっているとは感じていなかった。
 今日は、小学校での講演だ。
「みなさーん。おはようございます」
「おはようございます!」
 子供たちは声を揃えて挨拶をしてくれた。
「最初に皆さんに質問があります。大人の人を色々な所で見ると思います。働いている大人の人を見ると思います。その働いている大人の人を見て……うわー楽しそう! 早く働きたい! って思ってる人、手を挙げて下さい!」
 子供は全く手を挙げなかった。
「うわぁお! マジっすか?」
 子供は笑っていた。
「じゃぁ、大人の人が働いているのを見て……うわー大変そう。疲れてるなぁって思ってる人、手を挙げて下さい!」
 すると、全員が手を挙げた。
「うおーーーありがとうございます。それは、皆が悪いんじゃないね。僕が悪いんです。僕、今日は大人の代表で来ていますから。あと、校長先生も……ね? じゃぁ、校長先生と一緒に謝ります」
 また子供たちは笑っていた。
 校長も前に出てきてくれた。
「皆さん、ごめんなさい」
 嘉人は頭を下げた。そして、話を続けた。
 話の最中には、深く考える事は出来なかったが、今回も子供が全員……大変そう。疲れていると思っていた。これまで嘉人は子供の前で謝り続けていたが、謝っているだけでは意味が無いと思った。
 やはり、影響力を持たなければ世界を変える事が出来ない……。
 そこで、嘉人はどうすれば、自分の仕事の価値に気付いてくれるか考え、講演デビュー2年目に「私は自分の仕事が大好き大賞」を開催した。
 ここでは、アルバイトだろうが経営者だろうが全く関係なく、働いている大人たちに自分の仕事の素晴らしさ、その仕事を何故好きになったか、仕事にどんな価値を感じているのか……をストレートに語ってもらう。
 そして、子供達が「早く大人になって働きたい!」と思える社会を創ろうとした。
 1年目は200人近い人が集まってくれて、翌年は500人程集まった。
 その時点で、嘉人はパシフィコ横浜に予約を入れた。この会場は5000人入る。この時点では、途方もない数字だが、人数に合わせて箱を決めるのは違うと感じたのだ。
 すると、周りがそわそわして動き回り始めた。嘉人は、身を持って運を引き寄せていると感じた。
 第3回目の「私は自分の仕事が大好き大賞」は、結果ガラガラだったが、今度からは箱に合わせていく事を意識した。

 YouTubeの動画アップロードも欠かさず行っていたが、ぐっと伸びる事は無かった。登録者数はじわりじわりと増えてきているが、全く足りない。
 嘉人は数字の分析には強かった。マクドナルドでの経験が大きい。
 色々と調べてみると、登録者数の3倍の人が動画を観るという分析結果も出たので、登録者数の目標は51万人と出た。これは、1法人に1人の鴨Tuberが居る計算だ。しかし、チャンネル登録者数は、2日で1人というペースだった。
 そこで、研究を積み重ねて、タイトルの付け方や、サムネイルも工夫させた。
「おおー何だよこのサムネ、すげーじゃん」
「何か段々とコツがわかってきましたよ」
「さすがヒロキングだなぁ……」
「料理と同じっすね。このくらいの調味料を入れたら、どんな味になるか……想像しながら作ってます」
「なるほど……」
 ヒロキングは、元調理人だ。まさかこんな所で、能力を発揮出来るとは思わなかった。
「じゃぁ、俺ちょっと税理士の所に行ってくるわ」
「はい。いってらっしゃい」
 会社のお金が回り始めたので、以前から税理士を入れる事にした。
 事務所に入り、税理士と今後の事も含めて話した。
「ん~……1法人、1鴨Tuberですか。良いと思いますが、1人ってキツくありませんかね? せめて2人居ないと」
「あぁ……そうですね! 早速、目標を変えます」
 チャンネル登録者数が今6万人くらいだが、目標を102万にする事にした。
 その事を会社に戻ってスタッフに伝えると、皆頷いていた。
 しかし、どうすれば良いか分からなかった。幸い、講演料や企業講演でお金が入るようになったので、もっと「鴨頭嘉人」という人間を宣伝しようと思い、広告をどんどん入れる事にした。
 結果的に、伸び率はじわじわと上がっていった。だが、102万人にはまだまだ程遠いようだ……。

 暫く、YouTubeで広告を打っていると、Google側から文句が来た。どうやら、何も宣伝していない事に文句が付いたようだ。
 嘉人は怒った。何故ならば、金を出しているのはこっちだからだ。一体何の問題があるというのだ。嘉人はGoogleに対して反論をした。
「どういう事ですか? 広告費として出しているのは、こちらですよ。どんな動画を出そうが、こちらの自由じゃないんですか?」
「何も宣伝してませんので」
「鴨頭嘉人という人間を知ってもらう為に、自分の動画を流す事が宣伝にならないのですか?」
 そう言うと、担当が黙った。
「とにかく、こちらとしては納得が出来ませんので、納得できる回答を用意しておいて下さいね」
「はい……」
 1週間程した頃、Google側から回答があり、広告が認められた。
「良かったですね。さすが鴨さん」
 ヒロキングが、メールを読んでいた。
「当たり前だろ。俺は鴨頭嘉人だぞ」
 広告を再開した事で、10万人を超え、20万人を超えてきた。しかし、まだだ……。
 すると、嘉人の元に手書きの手紙が届いた。
「熱いなぁ……」
 どうやらマーケティングのプロからの手紙のようだ。世界を変えようと思っているが、鴨頭嘉人を上手く使う方が早く世界を変えられる……と書かれていた。
 更に、「鴨頭さんは、広告を打っているのは分かりますが、プロの目から見ると、機会損失をしている所がまだまだあります」と書かれていた。
 嘉人は、心が揺れた。嘉人は「機会損失」が最も嫌いだからだ。何故ならば、お金は稼げば良いが、時間は有限だからだ。独立当初は時短の為に高いセミナーばかりに参加していた。
 嘉人は、この手紙の主……桜井茶人に会う事にした。
「何て読むんだ? ちゃじんで良いのか? まぁいいだろ」
 茶人と会うと、手紙から想像した通りの人間だった。
「別にお金は要りませんよ」
「分かった。じゃぁ、家族構成を教えてくれ。家族を十分に養えるだけの金は出す。だから、俺の為に時間を割いてくれ」
「……分かりました」
 茶人は少し驚いていたが、乗ってくれた。
「ありがとう」
 嘉人は手を出した。茶人も手を出してくれて、握手を交わした。
 嘉人の会社にマーケティングのプロが入り、一気に広告を増やした。すると、1日の登録者数が日本トップにまでなった。当時、中田敦彦のYouTube大学がバズっているというのに、彼の登録者数を抜かした。
「なんやねんこれは……」
 つい、嘉人は関西弁が出た。大阪の堺市出身で、メンターである藤本がバリバリの関西弁なので、稀に出てしまうのだ。
「鴨さん、凄いですね」
「この勢いなら、今年中に102万人いけるかもな」
 嘉人はそう口にしたが、年内は叶わなかった。しかし、2020年1月30日に1法人2鴨Tuberの目安である登録者数102万人となった。

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