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3分でわかる火星探査と惑星保護(Planetary Protection Policy: Category Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ)

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火星移住に向けて

スペースXのCEOイーロン・マスクが、火星移住をするにはあと20年必要だろうと言及したという記事です。

火星への移住については、技術の問題もさることながら、いかに火星や地球の環境を保護するかも問題となってきます。

もし、他の惑星の有機物や微生物が地球上にばら撒かれた場合、疫病が蔓延したり環境破壊などの予期できない問題が起きてしまうおそれがありますし、逆に地球上の微生物が他の惑星にばら撒かれた場合には、その惑星の環境破壊のほか、将来の探査がクリーンな環境でできなくなってしまいます。他の惑星に地球上のものよく似ている微生物がいた!と思ったら地球からついてきた「密航者」だった、なんてことになりかねません。
これらをいかに防ぐかという問題がいわゆるPlanetary Protectionの問題です。

Planetary Protection Policy

惑星保護については、惑星保護方針(Planetary Protection Policy:PPP)というルールを遵守しなければなりません。
惑星保護方針についてはこちらの記事もご覧ください。

惑星保護方針の根拠は?
まず、「惑星保護」といったときには2つの意味があります。
上述のとおり、一つは他の天体を地球の生命による汚染から保護すること(Forward Contamination)で、もう一つは、他の天体の生命体から地球を保護すること(Backward Contamination)です。

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惑星保護方針は、国際宇宙空間研究委員会(Committee on Space Research:COSPAR)が定めるルールで、宇宙条約9条が以下のように定めていることに基づくものです。

条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間の有害な汚染、及び地球外物質の導入から生ずる地球環境の悪化を避けるように月その他の天体を含む宇宙空間の研究及び探査を実施、かつ、必要な場合には、このための適当な措置を執るものとする。

日本では、宇宙活動法により人工衛星の管理許可を取得する際の要件として惑星保護方針に準拠した措置を講ずることが求められており、また、将来のプロジェクトを踏まえて整備されたJAXA 惑星等保護プログラム標準が作成されています。

5つのカテゴリに分類
惑星保護方針は5つのカテゴリごとに天体を分類し、それぞれの要求事項を定めています。
この分類は、「対象となる天体の化学進化の過程や生命の起源に関する科学的な重要性」と、「対象天体の汚染が将来の調査に悪影響を及ぼす重大性」を考慮して決められたものです。
火星やエウロパ、エンケラドスといった、「過去に生命を育む環境を有していた可能性があり、宇宙機による汚染が将来の調査に悪影響を及ぼす危惧がある太陽系天体」については要求事項が厳しくなります(出典:ISASニュース 2019.10 No.463)。

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COSPAR PLANETARY PROTECTION POLICY、JAXA惑星等保護プログラム標準をもとに作成

火星の場合

火星の場合、ミッションによってカテゴリーⅢ、Ⅳ、Ⅴに分類されます。
同じカテゴリーに分類されるエウロパやエンケラドスは、生命が存在する可能性があるといわれている惑星です。
なお、JAXA惑星等保護プログラム標準では、火星の資源を回収するサンプルリターンミッション、着陸ミッションでの要求事項は未だ定義されていません。

フライバイ・周回ミッションの場合(表面に着陸しない)

火星に着陸しないフライバイ、周回ミッションはカテゴリーⅢに分類され、詳細な文書作成、有機物目録、衝突確率解析、汚染確率解析が求められます。

求められる文書
・惑星保護計画書(PP Plan)
・打上前惑星保護報告書(Pre-launch report)
・打上後惑星保護報告書(Post-launch report)
・ミッション終了報告書(End-of-mission report)
衝突確率解析
宇宙機が保護される天体へ衝突し汚染する確率が規定値以下となるかどうかを検証する技術
汚染確率解析
地球由来の微生物によって天体が汚染される確率が規定値以下となるかどうかを検証する技術

着陸ミッションの場合

着陸などの地表ミッションはカテゴリーⅣに分類され、詳細な文書作成、有機物目録、有機物サンプルの保管・減菌、バイオバーデン(施設の)管理、材料・部品・組立品に対する減菌といった措置が求められます。

滅菌
探査機に残留する微生物の数を規定値以下まで低減する技術
バイオバーデン管理
試料に混入している微生物数の管理

さらに、火星の生命調査のためのミッションかどうか、特別な地域を調査するミッションかどうかによって、求められる管理のレベルが3つに分けられています。特に、火星の生命調査のためのミッションでは、バイキング着陸船で行われた減菌措置以上のレベルが求められます。
当時、バイキングの減菌については機体を焼くことで行っていましたが、そのために約3億2000万ドルもの費用がかかったようです。

地球帰還ミッションの場合

地球帰還ミッションは「制限された地球帰還」としてカテゴリーⅤに分類され減菌と検証が必要となり、検証できない場合にはサンプルが入った容器を密閉し、封じ込めることが求められます。
具体的には、地球へ地球外生命体が持ち込まれる確率を1/1000000以下とすること必要となり、過去にこの基準が適用されたケースはありません。

火星衛星探査に向けて

JAXAが進めている火星衛星探査計画(Martian Moons eXploration:MMX)では、大学との共同で、火星衛星が微生物によって汚染される可能性について研究されてきました。
MMXでの地球への帰還が「制限された地球帰還」に該当するとなると、上記カテゴリⅤによる取扱いが必要となるように思えます。
しかし、これは技術的にもコスト的にも現実的ではありません。

この研究では、回収したサンプルに微生物が含まれる可能性が1/1000000以下であることが明かとなりました。
この成果は2019年3月に開催された国際宇宙空間研究委員会(Committee on Space Research:COSPAR)で承認され、MMXでの地球への帰還は、「制約のない地球帰還」(はやぶさ2ミッションと同様の基準)によって実施することが可能となりました。火星探査の第一歩を推し進めるための日本の成果といえます。

参考:
・ISASニュース 2019.10 No.463 JAXA宇宙科学研究所
・COSPAR PLANETARY PROTECTION POLICY
・惑星等保護プログラム標準 JAXA
・Nature Vol.459 The planetary police 太陽系の微生物往来を取り締まる Eric Hand

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