見出し画像

サッカーは、声なき声を届け、繋がりを与える

4月1日、『社会とサッカー』の収録で一馬と「コロナウイルスとスポーツ」をテーマに話をした。想像した以上に、この想いが湧き出てきたので書いてみる。


***


サッカーは、今、これまで以上に社会の中で役割を求められている。

テニスの大坂なおみ選手が「今私達がしなければいけないことはスポーツを救う事ではなく、世界中の人々が人種や国籍の壁を越えて、数多くの命を救うのが一番大切なことです」と言うように、私たちは人の命と健康を優先する時間にある。
私たちlove.fútbolも人々の命と健康を守ることを最優先としメッセージを発信している。

世の中にはサッカーが重要な事柄もあれば、サッカーが重要でない事柄もある。今起きているケースでは、当然サッカーよりも人々の命と健康を守ることが重要である。そこに一切の異論はない。
一方でこういう緊急時は、明確に優先順位がつくことで意図しない分断が起きる。医療、教育、生活保障は緊急性が高いが、スポーツ、音楽等の文化活動はそうではないと一般的に思われるし、中の人自身も声をあげにくい状況になる(言いづらいよね)。飲食業界ほどニュースになっていないが、スポーツ文化を支える草の根の町のスポーツ施設やスポーツクラブも経済的なダメージを受けているにも関わらず。
(日本で学校休校になった後、フローレンスが休校措置に関して国民に取ったアンケートによると、心配内容に対する項目では、「子どもの運動不足」、「ストレスや心のケア」を危惧する声がもっとも多く、行政や民間に対するニーズの項目では、「日中の子どもの居場所や遊び場」がもっとも多かった。現状は外遊びを推奨できない状況にあるが、サッカー・スポーツの場が潜在ニーズとして高いこと=社会に必要とされていることにも触れておきたい。)

今、サッカーは優先されるものでなくても、必要なものである。
なぜなら、食が今を生きることを、教育が未来に生きることを支えるように、サッカーは私たちのアイデンティティを形成する。人は、アイデンティティなしに生きることは難しい。

ドイツ政府のモニカ・グリュッタース文化相が「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ。」と述べ芸術・文化を守るように、日本で文化施設を守るため#saveourplaceが立ち上がったように、サッカーもまた守るべき文化として行動していく必要がある。


今、サッカーができていること

COVID-19の拡大と不安から人々を守るため、国内外問わず、多くのサッカー選手がSNSでCOVID-19感染防止の呼びかけをしている状況を見て、私は昨年米国で開催された「アスリートとアクティビズム」というイベント記事を思い出した。

登壇者のジョン・カーロス氏は、1968年メキシコ五輪で200m銅メダルを獲得したメダリストだが、彼をさらに有名にしたのは「ブラックパワー・サリュート」と呼ばれる拳を高く挙げて黒人差別に抗議する示威行為で、彼はそれを表彰台でおこなった(その後すぐ、IOCは五輪の精神に反するとして彼をオリンピックから追放した)。

画像2


本イベントで彼はこう語る。
「彼らは私の人生を奪うことはできても、表彰台で行なわれた声明を奪うことはできません」

彼とともに登壇した、国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館キュレターダイモン・トーマス氏はカーロスの功績を踏まえ、こう評した。
「アスリートは、社会変革を導くことはしない傾向にあるが、社会変革に反応する。アスリートは、声なき人の声になることができる」


そうなのだ。サッカー選手は、声なき声を届けるのだ。
何か大切なアクションが求められている時に、世界にそれを広げていく。それは私のような一般人にはできない、サッカー選手だからできることだ。

JFAやJリーグそれぞれのサイトでは、クラブや選手の呼びかけがまとめられている。


サッカークラブ、サッカー選手が発信をしたことではじめて、感染予防の行動を起こした子ども・若者たちがたくさんいる。

それだけじゃない。サッカー選手の呼びかけは広く届けることだけではなく、繋がりをつくる。

選手の呼びかけは、教育(手洗い・うがい)、啓発(Stayinside)、運動(お家でできるトレーニング)を目的とするが、もっとも大切な成果は、学校が休校になり、社会から離されてしまった子どもたち・若者が選手とつながることで、社会と繋がりを取り戻すことにある。そして、それは勇気になる。

今だからはっきりと言っておきたい。
今、このタイミングでもサッカーは必要である。
サッカーは失ってはいけない文化だ。
日本のサッカーはまだ文化としては未成熟かもしれないが、こうした緊急時にこれだけ子どもたちに勇気や繋がりを与える、まさに必要不可欠で生命維持に必要なのだ。

小さい頃からサッカーが好きで、今もサッカーが好きな身として、今サッカーが、サッカー選手がしているその事を私はすごく誇りに思う。


***


加藤遼也
love.fútbol Japan代表


サッカーを愛する子どもたちの環境を変えるサポーターになってください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?