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DXは不確定な未来に対応するための組織変革のことである。ITを導入することではない。


はじめに。DXは論文でも定義が曖昧と指摘されている。

DX(デジタルトランスフォーメーション)という概念がある。経済産業省や大企業を中心に、経済界も行政もDXと声高く叫ばれているが、具体的な定義に関しては曖昧なままにバズワードとして一人歩きしている。DXについて書かれた書籍を眺めていても定義に関しては各々が勝手に決めており、もしくは何も定義が書いていないことすらもある。経産省が発表している資料ですらはっきりしたDXの定義は書いていない。

DXの論文を調べてみると国外でも同様の状況であることがわかった。以下のDXのレビュー論文の著者(Gregory Vial)は282枚のDXについて書かれた論文を調べてみた結果、ほとんどの論文でDXの定義が曖昧であると指摘している。
Understanding digital transformation: A review and a research agenda


DXが生まれた背景は既存企業の恐れからである。

論文では様々な指摘が行われているが、結論から言ってしまえば、コンピュータとインターネットの普及以降にスタートアップ企業などが既存の産業を市場ごと駆逐してしまう現象が多発しており、スタートアップ企業が行なっているような経営手法や開発手法やマーケティング手法などの企業文化を取り入れなければ、既存企業は滅ぶ可能性が必然的に高くなっている。それは不確定な未来に対応するための組織変革をする必要を迫られていることを意味する。彼らが行っていることは不確定な市場に対するアプローチであり、変化していく市場に合わせて日々高速に改善を繰り返す組織構造になっている。例えば、DevOpsなどの技法が典型的な不確定な市場に対する日々の改善と言えよう。Amazonなどは1時間に1000回ほどデプロイ(サービスの改善)を行っている、と2012年に話題になった。あなたの会社のサービスや商品は市場に合わせて改善を行っているだろうか?ベンダーに丸投げして作らせたサービスは老朽化していないだろうか?熱力学の法則によれば地球上ではエントロピーは増大していく、つまり、人工物は人間がメンテナンスをしなければどんどん壊れていくのだが、ビジネスの現場では熱力学に反していることが見受けられる。

そして、この十数年間で見て来たように、新興のデジタル企業によって駆逐された産業は枚挙にいとまがない。ビデオレンタル業、本屋、国産携帯電話など、あなたの記憶にもこの駆逐された市場が思いつくだろう。間接的にデジタルとは無関係な産業だとしても、競合企業が営業活動をデジタル化することで、市場を奪われていることもある。つまり、デジタル産業の脅威に滅ぼされたくなければ、既存の企業も彼らから学び取り組織を革新していくことで生き残ることが可能になるのだ。これがDX(デジタルトランスフォーメーション)が声高に主張される背景である。既存企業の恐れがDXを生み出しているのである。

DX白書などを見てもわかるが、新興のデジタル企業、つまり、スタートアップ企業などが行なっているような経営手法が推され、運営に必要な職種をDX人材として定義していることがわかるだろう。ただし、下記の職種の人材を集めたところでDXが出来るとは限らない。必要なのはDXの本質を学び、自社の人材を育成し、自社の組織にフィードバックさせることである。けして部分的に安易にIT技術を取り入れたことがDXではない。不確定な未来に対応するための組織変革がDXなのである。

引用:https://www.meti.go.jp/press/2022/12/20221221002/20221221002.html?_fsi=13ZEMvTF

具体的に用語を出してしまえば、デジタル産業に於ける組織が学ぶべき最新の経営手法とは、リーンスタートアップ、アジャイル、デザイン思考などを学ぶことである。もちろんこれは一部の例でしかないし、実際には様々な最新の知見を組み合わせて複雑な独自の経営戦略を組み合わせて、不確実な市場や未来に対応している。またアジャイルの概念自体もそうだが、高速に学習を繰り返し改善をしてくのがドグマであるため、アジャイルの概念自体も毎年進化していく。故に、概念が分かり難くなっている側面がある。

DXのレビュー論文で書かれていること。

前置きは終わりだ。論文で得ることが出来た根拠を示していく。
上記の論文ではその上で、多くの論文が何について語っているか、何のためにDXを行うのか、何をすれば良いのか、が書かれている。

調査結果。

我々はDX を「情報、コンピューティング、通信、および接続技術の組み合わせによって、その特性に有意な変化を引き起こすことによって 、実体を改善することを目的とするプロセス」として概念的に定義する。現存するDXの定義について調査した。その結果、23のユニークな定義が28のソースから見つかった(表1)。第一に、これらの研究で定義されているDXは、主に組織に関するものである。第二に、関与 する技術の種類(Horlacher et al., 2016; Westerman et al., 2011)、および起きている変革の性質に関して、定義間で重要な差異が 存在する(Andriole, 2017; Piccinini et al.)第三に、差異があるにもかかわらず、例えば「デジタル技術」のような共通の用語を使用するなど、定義を超えた類似性が存在する。

Findings

Defining digital transformation The first step of our analysis consisted in studying extant definitions of DT. Within our sample, we found 28 sources offering 23 unique definitions (see Table 1). Although encouraging, this relatively small proportion (about 10%) reflects an overall enthusiasm toward the phenomenon of DT at the expense of its conceptual clarity. Studying these definitions, we make three observations. First, DT as it is defined in the reviewed studies, primarily relates to organizations. Second, important differences exist across definitions with regards to the types of technologies (Horlacher et al., 2016; Westerman et al., 2011) involved as well as the nature of the transformation taking place (Andriole, 2017; Piccinini et al., 2015b). Third, in spite of differences, similarities exist across definitions, e.g., using common terms such as “digital technologies” (Matt et al., 2015; Singh and Hess, 2017). We then proceeded to analyze extant definitions based on recommendations for the creation of conceptual definitions. In par- ticular, we referred to the rules offered by Wacker (2004) as well as guidelines from Suddaby (2010) (see Table 2) and evaluated existing definitions against these recommendations (see the third column of Table 1). Our analysis reveals that circularity, unclear

引用:Understanding digital transformation: A review and a research agenda.

DXの論文は組織に関するものについて書かれているものが多いとされる。
なぜDXの論文は組織について書かれていることが多いのだろうか。上記の論文では、多くの論文がデジタル・ディスラプションについて論じられており、会社組織そのものがデジタル産業に対して脅威を感じていることを意味している。

ダイナミック・ケイパビリティとリーンやアジャイルの相関性。

また論文では、DXとダイナミック・ケイパビリティの相関性についても言及している。ダイナミック・ケイパビリティは新興企業が用いる技術であるリーンやアジャイルやデザイン思考と共通性がある。

概念的な基礎としてのダイナミックケイパビリティと、関心のある現象としてのDXの間には興味深い一致がある。この文献は企業の競争環境にお ける継続的な変化と破壊の源としてのDXの本質を強調している。したがって、このような急速な変化にもかかわらず、企業が反復 可能で継続的な適応を可能にするメカニズムを設計する能力は、重要な問題である。ダイナミックケイパビリティの貢献は、競争的な環境や過当競争に見舞われた状況で最も有用であることが分かっている。通常の能力だけでは、企業が競争優位を構築し維持する方法を説明できないからだ(Teece, 2014:329)。製品を含む物理的なリソースがサービスよりも相対的に重要でなくなり、消費者がデジタル技術の使用 に関連するトレンドに影響を与えることに貢献し、価値ネットワークがより広範で複雑になるにつれ、企業はより高いレベルの不確実性を経験するようになる。この不確実性を管理するためには、企業の競争環境や支配の所在の外から生じる変化(例:ネット フリックスの映画製作事業への参入)を感知し適応するメカニズム(例:オンラインユーザーのFacebook離れとInstagramの採用 )を整備する必要がある。これらの変化に適応するために管理している強固な 証拠がいくつかあるが(Yeow et al., 2017 )、この目的のために強固な再現可能なメカニズムを設計する能力についての理解は限られている。DXの文献における最近の進展は、適切な方法で変化に対応する能力としてデジタル成熟度の概念(Kane, 2017c)を提案しており、我々はダイナミックケイパビリティが、デジタルイノベーションの連続する波を通じて適応性を可能にするこれらのより高いレベルのメカニズムを設計し維持しながら、企業がデジタル成熟度を達成する方法を理解する助けになるかもしれないと主張している。

There is an interesting fit between DC as a conceptual foundation and DT as a phenomenon of interest. The literature highlights the nature of DT as a source of continuous change and disruption in a firm’s competitive environment. The ability for firms to design mechanisms that enable repeatable, continuous adaptation in spite of such rapid changes is therefore an important question. The contributions of DC have been found most useful in contexts fraught with environmental turbulence or hypercompetition as ordinary capabilities cannot explain—on their own—how firms build and sustain competitive advantage (Teece, 2014:329). As physical re- sources—including products—become comparatively less relevant than services, as consumers contribute to influence trends related to the use of digital technologies, and as value networks become broader and more complex, firms experience higher levels of uncertainty. To manage this uncertainty, mechanisms to sense and adapt to changes that originate outside of the firm’s competitive environment (e.g., Netflix entering the movie making business) and locus of control (e.g., online users moving away from Facebook and adopting Instagram) must be put in place. Although we have some evidence of firms managing to adapt to these changes (e.g., Yeow et al., 2017), our understanding of the ability for firms to design repeatable mechanisms for this purpose is limited. Recent developments in DT literature have proposed the concept of digital maturity (Kane, 2017c) as a capacity to respond to change in an appropriate manner and we argue that DC may help us understand how firms achieve digital maturity as they design and maintain these higher level mechanisms that enable adaptability through successive waves of digital innovation.

引用:Understanding digital transformation: A review and a research agenda

ダイナミック・ケイパビリティ論は、カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクール教授のデイヴィッド・J・ティース氏によって1997年に提唱され、近年、注目を浴びている戦略経営論である。経済産業省がものづくり白書でダイナミック・ケイパビリティについて説明している。

不確実性が著しく高まっている世界で、日本の製造業はどう進むべきか。非常に難しい課題ではあるが、この課題を考えるに当たって注目すべき戦略経営論がある。それは、ダイナミック・ケイパビリティ論である。
「ダイナミック・ケイパビリティ」とは戦略経営論における学術用語であるが、敢えて訳語を当てるならば、「企業変革力」になろう。ダイナミック・ケイパビリティ論は、カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクール教授のデイヴィッド・J・ティース氏によって提唱され、近年、注目を浴びている戦略経営論である。ダイナミック・ケイパビリティ論が発展し、注目されるようになった学説史的な経緯は、以下のとおりである。1980 年代にハーバード大学のマイケル・ポーター氏が「競争戦略論」を展開した。これが戦略経営論という研究分野の出発点となったと言われている。ポーター氏の「競争戦略論」は、産業構造や業界の状況が企業の戦略行動を決定し、更には企業の業績を決定するという議論であった。
しかし、その後、多くの実証研究から、同じ産業や同じ業界の内部でも企業の戦略行動や収益率に差異があることが明らかになり、「競争戦略論」の限界が指摘されるようになった。このような中、企業の戦略行動や業績を決定しているのは産業構造や業界の状況ではなく、企業内部にある固有の資源であるという「資源ベース論」が登場するようになった。資源ベース論は更に、自社の強みである固有の資源を利用する能力(ケイパビリティ)こそが、企業の競争力の源泉であるという見方へとつながっていった。しかし、そのような企業固有の資源(自社の強み)もまた、環境や状況が変われば不適合なものとなり、企業の硬直性を招き、かえって企業の弱みへと転じかねない。
では、企業は、どのようにすれば、変化する環境や状況の中で、持続的に競争力を維持できるのであろうか。このような問題意識を背景にして提出された戦略経営論のひとつが、「ダイナミック・ケイパビリティ論」である。ダイナミック・ケイパビリティとは、環境や状況が激しく変化する中で、企業が、その変化に対応して自己を変革する能力のことである。それゆえ、今日のように、世界の不確実性が急激に高まっている時代において、製造業の在り方を考える上で、このダイナミック・ケイパビリティ論は多くの示唆を与えてくれるだろう。

引用:2020年版ものづくり白書
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2020/

ダイナミック・ケイパビリティとオーディナリー・ケイパビリティの相違点が以下になる。普通の組織の能力と力強い組織の能力の差である。

> 引用:2020年版ものづくり白書 > > https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2020/ >

ダイナミック・ケイパビリティは経営学のアカデミックな定義であるが、上記の表にあるような能力はデジタル産業や破壊的イノベーションを起こすような企業は持っている能力と言える。要するにソフトウェア・エンジニアリングにおける実践知や工学知である、アジャイルやリーンスタートアップやデザイン思考と言ったものは明らかに上記の表の右側に当てはまる。
顧客志向であり、仮説から高速に実験を行い計測し学習をし、データに基づいた正しい意思決定を行い、企業が目指すべきビジョンに向かってジグザクに進んでいく。企業がビジョンに辿り着いた時には複雑な戦略が勝手に出来上がっている。

これがDXの本質である。取ってつけたようにスマートフォンアプリを開発したり、業務最適化システムを導入することではない。もちろんそれらは手段であり、有効に機能するケースもあろうが、DXの本質は組織の変革であり、不確定な未来に対応できる組織に変革するしていくことがDXの本質である。そしてそれはスタートアップ企業などが起こすだろうデジタルによる破壊的イノベーションに敗北しないためである。

DXをしていくためには7つの取り込みが考えられる。

マッキンゼーの日本法人が発表したDXに関するホワイトペーパーでもDXは七つの取り込みがあると定義している。

  1. 包括的なデジタル変革: 組織の構造変革におけるデジタル活用、デジタルを軸にした戦略と 抜本的な組織変革の推進

  2. 顧客体験のデジタル化: デジタル活用による顧客ジャーニーの再構築、デジタルマーケティ ングやパーソナライゼーションを通じて顧客の囲い込み、啓蒙

  3. オペレーションの弾力性: オペレーションでのアナリティクス活用 ( 例 : 予防保全、生産性改善 ) による弾力性の強化やバックオフィスのプロセスの最適化・自動化

  4. 新規ビジネス構築: デジタル技術を活用した新規ビジネスの立上げや新規顧客セグメントの 開拓

  5. スキル再教育と組織能力構築: デジタルに必要な組織能力構築、またそのための社内人材 のスキル再教育、デジタル人材が活躍できる制度や仕組みの構築

  6. 組織全体の敏捷性: アジャイルオペレーティングモデルの導入、必要な仕組みの構築

  7. コアテクノロジーの近代化: クラウド・API 技術の活用、ITコストの最適化、データアーキテ クチャーやデータ変革の実行

引用:デジタル革命の本質:日本のリーダーへのメッセージ 10p マッキンゼー・アンド・カンパニー https://www.mckinsey.com/jp/~/media/McKinsey/Locations/Asia/Japan/Our Work/Digital/Accelerating_digital_transformation_under_covid19-an_urgent_message_to_leaders_in_Japan-jp.pdf

そもそも論文の引用文でも書かれているように、市場の過当競争になり利益を出しにくくなっている企業に有用なものであり、競争優位性を築くために行うと言ってもよい。変化の激しい市場環境や顧客に適応するための組織作り、顧客体験や顧客獲得のためにデジタルマーケティングの導入、そして付加価値を作っていくためのサービスやソフトウェアが重要になってくる。組織の変革はすなわち組織が行っている多くの機能をデジタルに対応させるという意味でもある。

今後、筆者が提案していくDXの具体的な取り込み方法について

つまり、組織変革と同時にデジタライズした顧客体験や新規事業を作っていく必要性も出てくるのだが、中小企業の現場(また同時に個人の起業志望者も)でリサーチしたところ「そもそもアイデアが何も浮かばない」という課題が見つかった。もちろんデジタルマーケティングを実地していくための人材もいない。よって次回は「新規事業や起業アイデアの作り方」をテーマについて書いていこうと思う。

また、新規事業を作ってもどのように売っていけばよいのか、デジタルマーケティングが一切分からないという企業のために「デジタルマーケティング」の手法やチャネルについても書いていく予定である。中小企業の課題の一つに売上の増加とあるが、商工会や金融機関で情報を集めてみるとデジタルマーケティングを実地していない中小企業は驚くほど多いし、現代は世界に自社製品の価値を発信可能な状況にも関わらず日本国内にすらメッセージを発信していく意志がないことがあった。

もちろんそれらを単純にアウトソーシングしてその場しのぎをすることは可能と思うが、組織が持続的に続いていくためにはある程度の内製化は必須であろう。何をしているかわからないことに金銭を払うことが出来るのか?技術がわかっていなければ成果も確かめることもできない。それにリーンやアジャイルの思想的側面を理解せずに単にデジタルを利用することは単なるIT化でしかない。例えば、昨今の飲食店で猫型の配膳ロボットを導入することはDXではない。あれは単なる自動化である。論文で書かれているように不確定な未来に対応できる組織に変革するしていくことがDXの本質である。
よって、同時にリーンやアジャイルの思想的側面を理解したデジタル人材を育てていくことも重要になっていくだろう。

終わりに。DXについて悩みの相談や組織課題の解決の相談を受け付けています。もちろん無料。

筆者は友人と経営していた会社を潰した直後にコロナ騒動が起きて、それから自宅でリカレントやゲームなどをしながら気ままなニートライフを行なっていたのだが、今後のリサーチとしてインターネットにチャネルを作り様々な人間とオンラインで企業の実態を伺っていると既存企業が抱える問題が垣間見えてきた。曖昧な定義のバズワードに踊らされる企業、上がらない生産性、それ故に上がらない給与、効率的になるツールはいくらでもあるのに過去の成功体験にこだわりアップデート出来ない組織体制・・・etc

今後の私の活動は組織課題の解決策の提示やリサーチ、そして、コンサルティング及び企業に対するハンズオンを行なっていこうと思っている。

一応、以下に連絡先を記載しておく。社内のDXに関心がある方がご連絡いただけると幸いである。もちろん相談は無料であるし、コンサルティングに関しては完全にハンズオンで行わせてもらう。そして、最初の1ヶ月間に関しては無料で体験してもらうことにする。何かしらの成果を少しでも感じないと顧客がお金を払っている意味を感じ取れないだからだ。ただし、リソースが私と少数の友人達になってしまうので、リソースが限界になり次第無料体験は行わなくなるだろう。

ryoujikosaka@gmail.com
08070357498
小坂宛

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