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ブラックマンデー

金がすべてを動かしている。
だからオレは毎日せっせと仕事する。仕事はデリバリーだ。注文を受けて、商品を持っていく。
壁に掛けられた時計が0時を指す。日曜日が終わった。
憂鬱な月曜日の始まり。貧乏暇なし。
オレはちょうど高層ビルの一室で受取人の前に立ち、銃を突き付けている。あとは引き金を引くだけ。
少し仕事についての説明が足りなかったかもしれない。オレは主に人間の脳みそあたりに商品を届ける仕事をしている。

国家は解体され、たった一つの「企業」が支配する時代。超高速通信が世界を覆い、あらゆるものが繋がり、そのすべてを「企業」が監視する。

すべての撃鉄に動く許可を出すのは金だ。このサイバネの右目の映像も金を出して見ている。

引き金を引く。いや指に力を込めたが、引き金は動くことを拒否した。

《残高の不足を確認 トリガーをロックします》
オレの端末が告げた。
「は?」
電撃的速度でサイバネの右目に貯金残高を表示した。良くも悪くもこの行動が現状を教えてくれた。

残高『0』

そこで右目の世界が凍った。
《残高の不足を確認 ユーザーへのサービスを停止します》
右目の映像が更新されなくなる。

0

0。どうしてだろう。0だ。今月の支払い分ぐらいはあったはずの残高が0!?
身体が強張る。思考が吹き飛んで、一瞬で額に脂っこい汗が浮かび、冷たい汗がシャツに染み出す。動悸が強い。何かの間違いだ。
受取人がオレの異変に気付き、タックルをしかける。思い切り踏み込んだであろう足が床を砕くのが見えた。生身ではありえない。とっさに銃を盾にする。重いタックルだった。壁まで吹き飛ぶ。

衝撃、痛み。

身体が、動かない。

全身サイバネ化していたのか。こういうのがいやだから早く全身サイバネ化したかったのに。

「小娘が殺し屋の真似事を、…あ?」

苦しむように受取人が胸を押さえ、そのポーズで凍った。
受取人の端末が告げた。
《残高の不足を確認 ユーザーへのサービスを停止します》

【続く】

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