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全景千原004

最も伝わる方法

「この内容で2時間の講義を聴きたい」というくらいのお話を千原さんは3分ほどでしてくれました。〝今、自分がやっている方法〟をテーゼとし、〝ロジカルな方法論〟をアンチテーゼとすると、千原さんのお話はその二つを凌駕するジンテーゼでした。ここにれもんらいふデザイン塾の本質のようなものが見え隠れしています。


千原
れもんらいふとして独立する前に、STOIQUEというデザイン会社で中島知美さんというアートディレクターのもとで仕事をしていました。とても繊細でありながら、動物的な直感を大切にされている方で。例えば、昨日何気なく喋っていた映画の話なんかをプレゼンシートの文章の中に組み入れたりするんです。

「あ、あれ、昨日話してたやつだ」

〝今〟自分がいいと思っているもの、おもしろいと思っているものをどんどんシートの中に落とし込んでいくんです。中には「このプレゼンには関係ないよね?」っていうこと入れて、それをうまく混ぜていく。

僕が博報堂にいた頃は、営業とデザイナーの両方でプレゼンシートを作っていました。シートが2種類あってそれを後で繋げる。営業は「今世の中はこのような流れで…その中で御社はここにいます」という論拠を軸に、XY軸やマトリクス表など、数字を出してロジカルに説明する。それに対してクライアントは「おーっ!」となる。その後、僕のデザインした広告ヴィジュアルが登場して…という。

独立した時に気付いたのですが、僕はその営業の方々がやっていてたロジカルな「数字における説得力」というプレゼンをやってきていないんです。リサーチもできないし、資料も作れない。ということは〝戦略的に考えることができない〟ということなんですね。

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でもね、中島さんは、戦略シートがないけど自分のやりたいことを言って相手を納得させちゃうんです。それが大事だ、と。

例えば、ウンナナクール(女性用下着ブランド)さんの広告を手掛けた時は、戦略的なことは一切なく。1ページ目でまず自分の想いを伝えました。「ウンナナクールの広告をすることは僕の夢だった」というところからはじまって。「みんなで一緒にウンナナクールを作っていこう」という想いをシートに落とし込んでいきました。本来ならそこに数字を指し示す図表を用意できれば説得材料になるのだろうけど、僕はただただ想いを書いた。

すると社長さんがね、「これは全ての社員に言えることだ」って言って、プレゼンシートをコピーして全社員に配ってくれたんです。「すごく感動した」って。

嶋津
戦略ではなく、想いによって心を動かした。

千原
そうですね。あらゆる種類のアートディレクターがいた方が、様々な広告が作られるように───どんな広告があってもいいと思うんですよ。前提として〝この商品が売れなきゃいけない〟というのはあるのですが。

その中で僕は、「戦略を打ち立てて相手がドキッとすることを考えて…」というよりは、「自分がどれだけこの広告を楽しめるか」ということを大切にしています。基本的に僕は一人ではなく、いろんな人と一緒に広告をつくりたいんです。「この商品を売りたい」と思うまで、どこまで自分の気持ちを上げれるか。

「モデルを〇〇ちゃんにしたらめちゃめちゃ楽しいね」

「気になっている〇〇さんにフォトグラファーに依頼すれば会えるかも」

「コピーライターを仲良しの〇〇くんに頼めば一緒に仕事ができる上に、その後ごはん行けるよね」

そうすると「広告を作るための楽しみ」ができるじゃないですか。それが一番大事。それは僕だけじゃなくクライアントにとっても。僕がノっているわけだから、アウトプットは必然と最高におもしろいと思えるものになる。

嶋津
観客の心ももちろん大切だけど、何より大切なのは自分の心が盛り上がっている状況をつくり出すということ。

千原
この間ダライ・ラマさんの話を聴いたんですね。端的に言うと、彼は「世界平和」と「自分のやりたいことをやれ」と言っていたんですね。

でも、「自分のやりたいことをやれ」という言葉の中には、「自分のやりたいことをできない人に世界平和なんてできっこないよ」という意味なのだと僕は受け取った。「世の為、人の為にやろう」じゃなくて、まずは自分の夢を叶えないと、人の為にやる景色なんて見えない。

「自分がやりたいこと」を突き詰めたところに、クライアントだけでなく世の中の人が「いいね」と思えるものが必ずある。だから「自分は良いと思ってないけど、きっとクライアントはこっちの方を喜ぶんだろうな」とか「世の中の人はきっとこうだから、こうすればウケるでしょ」と思っていると絶対にダメなんだと思います。


「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。