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盟友たちと共にジャズの魅力を伝えていく 〜木村紘『TREES』リリース記念Interview〜

ドラマーの木村紘が待望の1stリーダーアルバム『TREES』をリリースした。

Photo:Yasunari Akita

・『TREES』アルバムジャケット

【演奏曲】
1. Winter Pillow 
2. Groundwater
3. 遠雷 
4. Updraft 
5.K’s A Major 
6.キジバトブルース 
7.Overrun 
8.Time After Time 
9.When It Was New 

All Songs Composed by Hiro Kimura
Except Track8 Composed by Jule Styne

国内、特に都内近郊のライヴシーンを追いかけているジャズファンの方なら、彼の名前をよく見かけるのではないだろうか。その事実は彼のドラミングがコンボからラージアンサンブルなど、ありとあらゆる編成で求められているという事をおのずと示している。

木村は1988年、兵庫県明石市生まれ。
高校までをその地で過ごし、洗足音楽大学に進学のため上京。洗足音楽大学では大坂昌彦に師事した。
さらにバークリー音楽大学へ留学し、そこでラルフ・ピーターソンなどに学んだ後に2014年帰国。
現在さまざまなバンドの屋台骨を支えているが、
彼自身の音楽性を克明に示した今回の初リーダー作『TREES』を発表したことによって、俄然注目度が高まっている。

今回そのアルバムの事はもちろん、自身の音楽ルーツや今後の演奏活動についてインタビュー。
アルバムと併せて読んでいただけたら幸いだ。

家で流れていたメロディーが音楽の礎に

-木村さんの柔軟なドラミングを聴くと、どういった音楽ルーツがあるのか、すごく興味があります
最初からジャズ一辺倒!という感じではないかなと思ったのですが、どういった音楽にこれまで接してこられたのでしょうか

音楽の出会いは、親が家で流していた松任谷由実さん、山下達郎さん、大滝詠一さんなどで、彼らのメロディーには強く影響を受けています。イヴァン・リンスジャヴァンなどMPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)のアーティストも大好きで、自分の曲にも影響を受けています。

-例えば、どういった曲がお好きか、ご紹介してださいませんか

松任谷由実さんのアルバム『天国のドア』収録の“Glory Birdland”や“残暑”はドラムがハーヴィー・メイソンで演奏含めて好きな曲です。
ジャズではとにかくマイルス・ディヴィスとその周辺のミュージシャンに影響を受けました。
また共演者では、『TREES』にも参加してくれているベーシストの古木佳祐の曲が本当にすごいので研究しました。

-たしかに木村さんが参加している古木さんの初リーダー作『GARDEN』は古木さんの楽曲の凄さを実感できますよね
ドラマーとして、影響を受けたのは?

ドラマーとして最初に好きになったのは、青山純さん、村上“ポンタ”秀一さん、先ほども名前を挙げたハーヴィー・メイソンなどのスタジオドラマーです。

ジャズにハマってからはジミー・コブトニー・ウィリアムスに大きな影響を受けました。
現代のドラマーではマーカス・ギルモアが1番好きです。
もちろん他にも数え切れないほどいます。

ライヴ演奏とは別の形で自分の音楽を届けたい

-それではアルバムの話に入っていきましょう
初のリーダーアルバムのリリース改めておめでとうございます
まずはリリースの経緯を教えてください

日本に帰国してから続けてきたリーダーバンドが良いサウンドになってきたので、レコーディングする時期がいよいよ来たのではないか、と自分の中で確信のようなものがようやくできて。
それに加えて、2020年からのコロナ禍でライヴ活動が思うようにできなくなり、ライヴ演奏とは別の形でも自分の音楽をリスナーの方に届けたいと考えるようになったのも大きいです。

-アルバムタイトル『TREES』には、どういう想いが込められているのでしょうか

まずは僕が樹木がとても好きであること。
そしてメンバー各人がすでに大木のような音楽的な柱を持っていることから名づけました。

-ジャケットイラストもご自身で描かれていますよね
絵を描くことは、いつ頃からされているのですか
また、絵を描くことは木村さんにとって、どういった時間なのでしょうか
創作活動への刺激となっているのではと思いましたが、いかがでしょう

小さい頃から絵を描くのが好きで、よく描いていました。音楽を本格的に始めてからはずっと描いていなかったのですが、昨年コロナ禍で約2ヶ月仕事がなくなった時に久しぶりに描き始めました。
父がデザイン関係の仕事なので、その血もあるかもしれません。

創作活動の刺激というよりは気分転換です!
細かい葉っぱなどを書き込んでいると他のことは忘れられます(笑)

・実際に木村さんが描いた作品

-最近では、ご自身の作品以外にも「Jabuticaba」(ピアニストの永武幹子さんとサックス奏者の加納奈実さんのユニット名)のアルバムライナーにも絵を描かれていましたよね
今後、木村さんの絵を見る機会が増えるかもしれませんね

自然や季節からのインスピレーション

-続いて、作品の中身についてお聞きしていきます
今回のアルバムでの演奏で意識した事はありますか

演奏は“いつも通り”を心がけました。ライヴと同じ気持ちで演奏しています。
音づくりはとてもこだわりました。曲ごとにドラムセットも変えています。エンジニアの平野栄二さんはドラマーでもあるので、とてもダイナミックな音にしていただきました。
2021年の2/1と2/22にレコーディングしたのですが、それぞれ真冬の寒さの日と春のような暖かい日で、楽器の鳴り方が全く違って驚きました。
暖かさのせいで安藤(康平)くんは当日ひどい花粉症で苦戦していました(笑)

-今回のアルバムは1曲を除き、木村さんのオリジナル曲が並びますが、どういったインスピレーションから曲作りをされることが多いですか

自然や季節からイメージを得ることが多いです。
アルバムの前半は“Winter Pillow”(冬)〜“Groundwater”(春の雪解け水)〜“遠雷”(夏のゲリラ豪雨)と季節が進むようになっています。

・“Winter Pillow”

・“遠雷”

-安藤康平さんと中島朱葉さんの2人のアルトサックスの熱い共演が聴ける“Updraft”も大きな聴き所ですね

最初はカルテット用に曲を作りましたが、一度ツーアルトでライヴした時にとても盛り上がったので、その編成を採用しました。


-“キジバトブルース”は冒頭の鳩の鳴き声にちょっとビックリしました

鳴き声は収録できなかったので、鳩の声を録音している方に特別に許可を得て使わせていただきました。
実はアルバムを聴いた周りの人から、一番反響が多かったのはこの曲です。
2020年のコロナ自粛中に作った曲で、家の周りで鳴いていたキジバトの声と、先が見えない不安な気持ちが重なった曲です。


-アルバム唯一のスタンダード曲、“Time After Time”も好テイクですね

もともとチェット・ベイカーなどの演奏で大好きな曲です。このアレンジはよくライヴで演奏しているのですが、録音予定には入れていなくて当日急遽録音しました。
レコーディング自体びっくりするくらい順調にいきました。時間が余ってたくさん録音したので、アルバムには採用されなかった曲も4曲あります。

・アルバム未収録の“Catch The Flow”

-その他の収録曲、古木さんのベースが深く響く“K’s A Major ”や疾走感が爽快な“Overrun”、そしてアルバムを締め括る“When It Was New ”まで、本当に多彩な楽曲が収められていますね

“盟友”の存在

-今回は木村さんを軸に2つのバンドの演奏が収められていますね
今回、あえて2つのバンドに分けて演奏、収録したのはどういった意図からでしょうか

初のアルバムなので、今の自分の活動を全部詰めこもうと思っていました。また、さまざまな雰囲気の曲があるので、その曲に合ったベストメンバーで録りました。
結果的に個性が出て良かったと思います。

-2つのバンドには現在の日本のジャズシーンを引っ張る精鋭が集結していますが、木村さんが感じる、それぞれのメンバーの魅力をご紹介いただけないでしょうか

左から…古木佳祐(ベース)、中島朱葉(アルトサックス、ソプラノサックス)、木村、石田衛(ピアノ)

古木佳祐さん
(Track2,4,5,8参加)

ベーシストというより音楽家です。
彼にしかない音、グルーヴが随所に現れています。
この先、世界中に知られていく才能だと思います。
中島朱葉さん
(Track2.4.5.8参加)

初めて会ったころは生粋のビバップを中心に演奏していましたが、どんどん変化して、今は独自の音楽になってきました。アルトサックスだけでなく、ソプラノの音色も素晴らしいです
石田衛さん
(Track2,4,5,8参加)

自然現象のような人です。
どこから降ってきたのかわからない素晴らしいアイデアを弾いてくれます。
“Updraft”のピアノソロは歴史に残る凄さだと思います

・左から…伊藤勇司(ベース)、田中菜緒子(ピアノ)、木村、安藤康平(アルトサックス、ソプラノサックス)、曽根麻央(トランペット、ピアノ、フェンダーローズ)

伊藤勇司さん
(Track1,2,6,7,9参加)

頼れる男です。いつもバンドを支えてくれて、こいつがいればいい音楽になるという安心感があります。
たくさんのバンドで共演する“相棒”です。
田中菜緒子さん
(Track1,3,7,9参加)

とにかく音が綺麗です
。プロも多数いるジャムセッションで、菜緒子さんが弾くと会場の音響全体がクリアになったように感じたことがあり、それがキッカケでお誘いしました。
安藤康平さん
(Track1,3,4,7,9参加)

一言で言うと“サックスヒーロー”です。
どんな会場でも最高にぶち上げてくれます。
けれど渋いジャズの演奏も素晴らしいので、
このアルバムでは彼のそういう一面も聴いてほしいです。

-今回は曽根麻央さんの参加(Tp on 1,Pf on 6,Fender Rhodes & Keys on 9)も注目すべき点だと思います
トランペットだけでなくキーボードなどでの活躍がアルバムで光りますね

彼とはバークリーで知り合い、それ以来ずっと演奏しています。天才だと思います。僕が音楽的に一番影響を受けた1人です。ラテン音楽から日本の音階まで、彼からたくさん教わりました。

本当に独自の音楽を持った人ですね。
“キジバトブルース”は、ラテン音楽を含めた曽根くんの幅広い音楽性がよく表れていると思います。

アコースティックジャズの魅力を伝えたい


-木村さんの多彩なドラミングや、ソングライティングの面はもちろん必聴ですが、各メンバーの個性豊かな演奏も随所に聴き所があるので、聴くたびに色々な印象を受ける作品だと思いました
ではアルバムを聴いている、またはこれから聴くリスナーの方々にひと言お願いします

先の見えない不安な日々の中で、この音楽が皆さんの一瞬の彩りになったら嬉しいです。お家だけでなく、通勤通学中や、自然の中でも聴いてもらいたいなと思います。

-最後に今後の展望を教えてください

この先は曲ごとにメンバーを集めてレコーディングして、1曲づつ配信していきます。それが溜まったら次のアルバムにしたいと考えていて、実は1回目のレコーディングの予定ももう組んであります。お楽しみに!

さまざまな音楽が好きですが、やはり自分の音楽家としての中心はインストのアコースティックなジャズだと思っています。みんなどうしたら多くの人にジャズを聴いてもらえるかを模索していますが、ヴォーカルを迎えるか、エレクトリックなサウンドにするしか道が見つからないのが正直なところです。
そこがとても悔しいので、アコースティックなジャズの魅力を同世代や下の世代に伝える方法を見つけたいと思っています

-配信のリリースも要チェックですね!
木村さんが、どのような表現でジャズの魅力をさらに引き出していくのかも楽しみにしております

記事サムネイルPhoto:Shiku Kasahara

Interview&Text:小島良太

〈『TREES』CD販売情報〉
・タワーレコード

・ディスクユニオン

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008360939

・Amazon

〈木村紘 BASE〉
CDはもちろん、Tシャツ、トートバッグ販売中


〈『TREES』デジタル配信〉

・Spotify

・Apple Music


〈木村紘ブログ〉

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